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悪夢からの開放

「おお勇者よ!死んでしまうとは情けない!」


 次に意識が戻った時、ツカダ王の前に立っていた。どうやらこの夢の世界では、死ぬとこの王の前に戻されるらしい。ご都合主義というか、便利というかはよく分からない。

 こういう場合、死んだペナルルティとして所持金などが減っていることが多いのだが、確認してみても別にそんなこともなさそうである。ペナルティは無いのだろうか。


 ツカダ王の話は続く。


「もっと想像力を働かせないとだめだ。中学時代、暗黒激熱絶空破ダークサイドブレイズソーサリーみたいな魔法を多数収録した、暗黒魔道書をB5ノートで作っていたよな!ほーれほーれ。思い出せ思い出せ!十五年くらい前の話だ!」


 え!?あ!?お!?え!?


 なぜその事をををををおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!


 そして、腰横にあるマミヤの顔から、さらに恐ろしい言葉が続けられた。


「他にもあるよね!極大魔法アンリミテッドスペルとか絶対零度空間コキュートスサバイバーとかさ。英語のスペルも和訳英訳さえ間違っているのをさ!想像力を働かせれば分るじゃない!黒歴史にしかならないなんて!」


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!やめろ!やめてくれ!頼む!もう一回殺してくれ!いや、死ぬとだめだ!消えさせてくれ!


 はぁ……はぁ……。


 読者諸兄、感情が高ぶったあまり、取り乱したことをお詫び申し上げたい。それにしてもなんと恐ろしいペナルティであろうか。この世界で死ぬと思い出したくも無いことを思い出させられるのだ。黒歴史のノートを一枚一枚めくられては精神的に激痛が走る。これを悪夢といわず何というのか。私は悪夢の世界にいざなわれたのだ。


 死ねぬ。断じて死ねぬ。


 決意を新たにしたその時である。私の後頭部に鋭い痛みが走った。痛い。痛い。なにやらとてつもない痛さである。それと同時に意識が薄れていく。


 薄れ行く意識の中、「来るべきときが来てしまったか……ともかくここでセーブをするかい?」というツカダ王の言葉がはっきりと聞こえた。私はその問いに「いいえ」と答えた。


 こんな世界にいられるか!断じて「いいえ」である!一目散に遁走とんそうするのだ!臆病者だと笑わば笑え!黒歴史よ!さらば!私の記憶の底に封印されるのだ!永遠とこしえに!絶対封印魔法オーバードライブロックスペルだ!いや!思い出すな!それも忘れろ!


 そしてそのまま意識を失った。


 ……。


 意識が戻ったとき、眼前には見覚えのある床が広がっていた。どうやら現実世界に戻ってきたようである。後頭部の痛みはいまだ私の頭に広がっている。


 私の頭には数多くの疑問が浮かんで消える。


 なぜあんなリアルで素っ頓狂な夢を見たのであろうか。


 あの世界は救われるのであろうか。


 バナナはおやつに入るのであろうか。


 消えた一発芸人はどこに就職するのか。


 ともかく後頭部の痛みである。何かが当たっているという感覚だけはよく分かる。私は恐る恐る、そしてそっと自分の後頭部に手をやってみる。何かフサフサしたものが手に触れ、少し場所をずらすとサラサラしたものが手に当たった。これは何であろうか。フサフサしていてサラサラしているものなんぞ見に覚えがない。妖怪変化が私に悪さをしているのであろうか。


 頭を振ってみる。何か硬いものが私の後頭部で揺れている。そして、私の頭に走る鋭い痛み。


 意を決し体をひるがえし、後ろを見る私。そこには、大口を開けた笹山の顔があった。どうやら笹山が私の後頭部に噛み付いていたらしい。


 私と笹山の顔の距離が、もう数ミリ近ければ唇と唇が触れるところであった。私にその気は無いのでなんとも危うい。そのような事態はなんとか避けられたが、もしそうなっていれば一部の女性からの人気は出たのかもしれない。ある意味惜しかったのではないか。そんなことが頭をよぎる。人気をください。コアな人気でも、人気は人気である。


 ゴソゴソした結果、どうやら笹山も起きたようである。


 深夜の部屋で、男同士が見つけあう一種異様な光景がそこにあった。お互い苦笑い以上の表情は浮かばない。


 そして、笹山はため息を一つつくと言葉を紡いだ。


「起きちゃいましたね。先輩」


「起きちゃったな。あまりうれしくない寝起きではあるが」


「何かやりました? 俺」


「私の後頭部に噛み付いた。だが、そのおかげで私は悪夢から目を覚ました」


「そうですか。先輩、ごめんなさい」


 笹山は、立ち上がると台所に行き、そしてペットボトルの水を持ってきた。私はそれを受け取ると、中身をぐびぐびと胃袋にぶちまけた。甘露であった。笹山も水を飲み、またもや大きなため息をついた。


「こんなときになんですけど先輩。転職どうしましょうね。今の俺は、それで頭がいっぱいですよ」


 私は悪夢を見ていたが、それから覚めた。しかし、いまだ笹山は悪夢の中なのだ。現実という悪夢。


「……。そうだな。悪夢から逃がす仕事というはどうだい?」


「茶化さないでくださいよ。結構真剣に悩んでいるんですよ」


「茶化していない。銀行員。悪くないと思うんだ。続けたらいい」


「……。意味わかんないですよ」


 寝起きということもあるのだろうが、笹山の顔に不信な表情が張り付いている。誰だって真剣に悩んでいることに茶化されたらいい気はしないだろう。それは笹山だって例外ではない。しかし、私は言葉を続けることにした。


「もう一回言うが、茶化していない。金が無くて、悪夢にうなされている人は多い。儲かってない会社の社長さん。生活苦で逃げたいおばさん。他にも色々いるだろう。そういう人に金を貸したらいい。君が悪夢から開放してあげるんだ。それは銀行員にしか出来ないはずだ」


「……。悪くない話ですが、そんな甘いものじゃないですよ。銀行って」


「もちろんそうだろう。理想で飯が食えるわけじゃない。でも、そういう側面だってあるのは間違いないはずだ。今出来ないなら、君が出世して、そういうことができるようにすればいい。笹山頭取。悪くない響きだ。何年かかるかわからない。出来ないかもしれない。それでもそう思えれば、ただの金儲けの仕事じゃなくなるはずだ。救ってあげたらいい。現実という悪夢から」


 篠山はそこまで私の言葉を聞くと、目を閉じ髪をかきあげた。数秒経って、次に目を開けたとき、顔には笑顔を浮かべていた。


「先輩。ありがとうございます。もう少し続けてみます」


「そうしたらいいと思うよ。またなんかあったらいつでも頼ったらいい。いつまでも私は君の先輩でいるから」


 ここまで語っておいてなんだが、まったくの思い付きであることは、ここに明記させていただく。思ったよりもすらすら言葉が出てきた。もちろん笹山には内緒である。もしこの話が笹山の耳に入ったら、その時は真っ先に読者諸兄を疑わせていただく。訴訟も辞さない構えなので、ご注意をいただきたい。民事でなければ警察に頼るのだが。


 時計を見れば、明け方の四時。起きるにはまだまだ早い。私と笹山はもう一度眠ることにした。次こそは、いい夢を見たいものだ、と切に願いながら。

第十五章 獏 -了-

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