得るもの。失うもの。
RPGの定石として、町の周りをぐるぐる回ることにした。
近隣の雑魚敵と戦い、レベルを上げ、お金を稼ぎ装備を整えるのである。
このレベル上げが楽しいかどうかがゲームの面白さの基準である。ただの作業ゲームになるか、それとも稀代の名作になるか。
テクテクと歩き回る私。
すると「あ!モンスターが現れたよ!」とマミヤが叫んだ。
目の前の何も無い空間に、うっすら影が浮かんだかと思うとそれは登場した。なるほど、ゲームと同じようにこういう感じで登場するのか。その影は素早く形を作り、私たちの前に姿を現した。人型で全身タイツを着ているような風貌。色は青。戦隊特撮もののザコっぽい風貌といえば分りやすいだろうか。
「戦闘員が現れた!さぁ!バットで敵をやっつけるんだ!殴れ!殴れ!殺られる前に殺れ!さぁ早く!やっちまえ!」
間宮が叫ぶ。なんとも物騒な妖精である。言葉を振り返ると、やたらテンションが上がっているようで、腰横にあるマミヤの鼻息すら聞こえそうである。
「あ、そうそう、戦闘BGMを流すね」と言うやいなや、間宮の口が音楽を口ずさみ始めた。
デデデ、デンデンデデーン……
戦闘くらい普通のBGMにしていただきたい、なぜ間宮の声で響く歌なのか。経費削減の証なのであろうか。夢の中も世知辛いものだ。不況の闇はこんなところにも影を落としている。少し巻き舌なのも煩わしいし、ところどころに「掴みかけたその栄光……」みたいな語りが入るのが、されにそれを加速させる。マミヤの顔を見ると悦に浸っているようで、とりあえず戦闘のどさくさに紛れ、バットの尻をぶち当てることにした。
ぼかぼかと、適当に殴り殴られた。どうやら痛みはないようで、この辺は優しさアピールであるのかもしれない。
そして幾度か戦闘員を殴ると、姿がすっと消えた。どうやら倒したということらしい。戦闘終了である。戦闘員が消えたところには銅のコインが落ちていた。RPGよろしく、やはりこうやってお金を稼ぐようである。
テレテレッテー!
「おめでとう!レベルが上がったよ!HPが3上がった!力が1上がった!賢さが1上がった!素早さが2上がった!髪の毛が30本減ったよ!」
最後のひとつが大問題である。何故レベルがあがったのに、そんな無体なことが起こるのか。この夢、低レベルクリアを目指さなければ私の頭皮が尋常でない有様となる。しかも減るのが数本ではなく数十本単位である。何をどうすればこうなるのか。この夢の管理人に事情説明を求めたい。貴様は何を求めているのか。あれか。やはりアプリでガチャでも出来るのか。
その後、デュクシデュクシと雑魚敵を倒す。
戦闘員と果てない戦闘を繰り返し、レベルを上げ、お金を強奪する私。何度も戦い、何度も殴り殴られが続く。しかしどう贔屓目に見ても、これではただの強盗である。
どれくらい戦闘を繰り返したのだろうか、今何レベルか間宮に尋ねる。
「めんどくさいから端折ったけど、4くらいレベルが上がってるよ」
ナビゲータ役がこんなので大丈夫かと思わずにはいられない。この妖精は本当にやる気が無い。今すぐリストラして、かわいらしくてやる気のある妖精を再雇用したいと思われる。人事部はどこだ。ハローワークはどこだ。今時フリーターや学生ニートだって、もっとやる気を持つだろう。
そして、その間に何十本単位で髪の毛が減っていった。これは由々しき自体である。夢の中とは言え、私の精神衛生上非常によろしくない。
何度も戦闘を繰り返すうち、体力が心配になってきた。マミヤに聞いてみると、やはりそろそろ宿屋に行くのがよいとのことだった。やはり職務怠慢の妖精である。それくらいの忠告をしてくれてもいいであろうに。まぁいい。宿屋の出番かと思った矢先、後ろから殴られた。後ろを振り返ると、赤い戦闘員風の敵が思いっきり拳を振りかぶっていた。
ぼかぼかと一方的に殴られる私。どうやら不意打ちと言うものらしい。数発殴られたところで、私の体がすーっと消えていくのが分かった。なるほど、これがこの世界での死というものか。それと同時に意識が無くなった。