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現状こそが七難八苦

 私はこの後どうしていいか思案した。悪い魔法使いを倒し、姫を救い出すとはいえ、何をどうしたらいいかまでは分からない。こういうときはナビゲータ役のマミヤに聞くのが一番であろう。マミヤにそれを聞く。


「まずは町や城を歩き回って、アイテムや情報を手に入れるんだよ!」


 相撲取りを思わせる野太い声で語られたマミヤの返答は、ゲームとしては正しく、一社会人としては間違いな答えであった。情報はともかくアイテムを無断で持ち出すのはただの泥棒である。古今東西窃盗が罪でないところは無い。


 そんな私の考えを読んだのか、ツカダ王は私に「城や町にあるものは勝手に持って言ってもよい。王が許す。大丈夫、夢の中だし」と告げた。夢の中とかメタな発言をするな、と思われる。夢の中ですらこやつは傍若無人であるのか。


 許可も出たので、マミヤの指示に従い城と町とを歩き回り、アイテムと情報を手に入れることにした。それそのものはいいのだが、なにしろ金属バットがぶらぶらと邪魔で仕方がない。手で持ち歩くのもいい加減飽きてきた。


「そういえば渡し忘れていました。これをどうぞ」とマミヤは言うなりなり、私に袋を渡してきた。それは肩掛け鞄であった。肩からかけると、袋部分が超と腰の辺りになる。マミヤ曰く、中には何でも入り、後で取り出すこともできる優れものなのだそうだ。


 私はカバンを受け取ると、バットを突っ込んだ。カバンの形状からすると絶対に入らないのであるが、するすると入っていく。いやぁ、これは便利だ、ぬるぬるともりもりと入っていく。これで気兼ねなくアイテムを収集できる。たまにはこのナビゲーターも役に立つではないか。


 私はそこらを歩き周り、アイテムをどんどん手に入れていった。壷に手を突っ込み、タンスを開け、ズタ袋を漁る。薬草や聖水と言った定番のアイテムを手に入れ、どんどん鞄に突っ込んで行く私。


 それにしてもこのカバンは便利である。際限なく入るし、重みも感じない。流石は夢の中である。もし現実にこんな袋が発明されれば、大枚はたいてでも欲しい。発明したら、世界一の金持ちになることだって不可能ではないだろう。


「ふぅ……歩くの疲れた……ちょっとごめんなさいね」


 マミヤはそう言うやいなや、私のカバンに飛び込んだ。マミヤの巨体がするするとカバンに入っていく。なんとも異様な光景である。擬音で表すなら、「グモ……グモ……」であろうか。袋があらぬ形状でうごめき、ある種のおぞましさをそこに秘めていた。

 そして体全部がカバンに収まると、マミヤは顔だけ出した。なるほど、こういう使い方もできるのか。私の腰横からマミヤの顔だけが出ている地獄絵図が出来上がった。


 さて話を続けよう。情報集めで様々な人物に話しかけ、様々な情報を集めた。ここでその一例を挙げてみよう。


「外はモンスターでいっぱい!遭遇したら倒すか倒されるか、あるいは逃げるまで戦闘は続くよ!」


「宿屋に泊まるとHPが回復するぞ。危なくなったら宿屋に泊まりなさい」


「西の森にはよい魔法使いがいるらしいよ!」


 王道RPGのような設定である。ひとしきり城を駆け回った私は、マミヤにこれからどうするか相談することにした。


「そろそろ町の外に出てみよう。そしてモンスターをやっつけてレベルを上げよう!」


 とうとう冒険の始まりである。胸が高鳴るような、心細いような心持になり、拳をぎゅっと握り締めつつ、町の外に出ることにした。


 町の外に出ると、柔らかな風が私の顔を舐め、非常に心地いい。これからは冒険と戦いが始まるのである。七難八苦を退け悪い魔法使いを倒し、姫を助け出さなくてはならないのだ。エンディングを迎えたとき、私は英雄になる。私の股間の葉っぱが風で大きく揺らいでいた。それは、これから始まる冒険の幾多の困難を表していたのかもしれない。


 そろそろこの夢から覚めてもいいのではないか。股間の葉っぱを見ながら、そう思わずにはいられなかった。とりあえず服をよこせ。まずはそこだ。このままでは風邪をひく。

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