勇者、誕生
「あぁ、あなたが勇者なのですね」
私が状況把握をしていると、声が聞こえてきた。その声は、響くような、こもっているような、済んでいるようななんとも判別のしようのない声であった。声の主は森にいるようである。
私が勇者か。
「私は勇者を導く妖精です。あなたはこの国を救う勇者なのです」
なんともご都合主義的過ぎる、勇者の判別法である。しかしゲームが趣味である私、このシュチエーションは嫌いではない。
「今から私がそちらに行きます。少し待っていてください」
私は森のほうを見、妖精が姿を現すのを待った。やはりここはゲームの世界のようであり、一番最初のお供、ゲームでいうならナビゲーター役が登場する場面である。
はたして妖精は現れた。その姿形を端的にご説明すると、背中に蝶々の羽が生え、腰に申し訳ばかりの布を体に巻きつけた間宮であった。
巨体を揺らしながらこちらに向かってくる間宮。腹の肉がぷるんぷるんしている。背中の羽をパタパタと羽ばたかせているが、微塵も宙を飛ぶ気配もみせず、のしのしとこちらに歩いてくる。
そして、私少し手前でところで歩みを止めた。
「さぁ、勇者よ!世界を救いましょう!」
勇者であることはいいが、その前に言いたいことがある。妖精なんだから、体のサイズは小さくなれよ。そしてせめて飛んで来い。あまりに重量感がたっぷりすぎる。
妖精に名を尋ねると、マンマミーヤという答えが返ってきた。そして、マンマミーヤは長いので、呼ぶときは略してマミヤでいいとのことだ。現実世界の友人、間宮のハンドルネームが想起され、一寸どう反応していいか分からなくなる。それにしても、森から出てきたマンマミーヤは声まで間宮にそっくりになった。森には声を変える妖術でもかかっていたのであろうか。
「ともかくあそこに見える城まで行きましょう。そこで王様に会うのです!」
妖精はそういうと、私の手をつかみのしのしと連れ立って歩き出した。微妙に手が痛いのであるが、それで覚めるような脆弱な夢ではないらしい。
少し行くと目の前に羊が群れを成していた。ファンタジーに羊は欠かせない要素のように思うが、読者諸兄いかが思われるだろうか。
さすがに夢である。
町までの道程は大幅にカットされて、いきなり王様の前に着いた。
玉座に座っている男の目の前まで来たとき、王様役の人選が判明した。長身痩躯、悪い色をしたきゅうりのような容貌。どう見ても塚田だった。どうやらこの夢の主要人物は、私の隣人友人でまかなわれるらしい。これでは一種の学芸会である。
そんなことを考えているとは露知らず、王である塚田が私たちに語りかけてきた。
「おお、勇者よ、よく参られた。私はこのツカーダ王国の王、ツカダという。マミヤ、ここまで勇者を連れてきてくれてありがとう。早速だが勇者よ。私の願いを聞いて欲しい。最近悪い魔法使いが現れて、モンスターをたくさん呼び出して困っているのだ。そして私の娘もその悪い魔法使いにさらわれてしまった。頼む勇者よ!悪い魔法使いを倒し、娘を救い出してくれ!」
王様の名前もツカダなのか。これはなんとも分かり易くてよい。しかし、なんとステレオタイプな目的であろうか。
ツカダが手をパンパンと叩くと、召使と思しき男が、表情一つ変えず、私の前に宝箱を置いた。召使はモブキャラらしく、驚くほどに無表情であった。どうやらこの夢では、主要人物以外のモブキャラに表情は無いようである。
「さぁ勇者よ!箱を開けて旅の支度を整えるのだ!」
私はそれに従い、箱に手をかける。ギギィ!っと鈍い音を立てながら、箱が開いた。中にはミズノとメーカー名が書かれた金属バットと、大きな葉っぱが一枚が入っていた
「さぁ勇者よ!旅立つのだ!」
今ここに、金属バットを持ち、全裸で股間に葉っぱだけをぶら下げた勇者が誕生した。
おそらくこんな勇者は世界初であろうし、どこからどう見てもただの変質者に他ならない。私は生尻を放り出しながら、この世界に警察が無いことを切に願う。