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危うくお縄になるところ

 いつもどおりの始まり方で読者諸兄には恐縮なのだが、まず現在の状況からご説明したい。


 時はまたもや社会人の安息日、土曜の午前中である。重ね重ねにはなるし、いい加減飽きも来るだろうが、私の人生が物の怪的に動くのは、いつも土曜日なのだ。

 そして、私はいつもどおり自宅に引きこもっている。これもまた安心安定の平常運転。日本の電車は定刻どおりに来ることで有名であるが、そのレベルでの安定である。相も変わらず黒髪メガネ女子とのデートなど、雲や霞のごとく手に届かない有様といえる。


 ここからがいつもと少し違う。

 私の眼前に佇むは、ダイニングのイスに腰掛けている幼女である。推定年齢五才であろうか。

 読者諸兄、通報は少しだけ待っていただきたい。まずは私の話を聞いていただきたい。別にこの幼女は私が飴やガムで誘惑し、たぶらかしてきたわけではない。

 この物の怪日和というお話は、今まで私の人生を綴ってきたつもりである。私がそのようなことをする人とお思いであろうか。いや、私がそのようなことをするはずがない。反語である。私は静謐せいひつで植物のような人生を送りたいのだ。お縄になってはその願望も音を立てて崩れ去る。


 申し開きをさせていただくならば、この幼女は私の従姉いとこの娘である。とある事情により私が一時的に預かっているだけなのだ。なのでその手に持った電話を置いていただきたい。


 通報されず、ほっと一安心したところで、この幼女を預かった経緯をお話しよう。

 それでは我が従姉が言い放った言葉をお聞き願いたい。


「あ、久しぶり。元気だった?ちょっと頼みがあるんだけれどさ、聞いてくれるよね?」


「あのね、今度の土日なんだけど、うちの娘預かってくれないかな?どうせ暇でしょ?」


「ちょっとね旦那と一泊二日の旅行に行って来るんだよ。たまには娘抜きでね」


「ほら、娘がいちゃ出来ないこととかもあるじゃん。それくらいは察してよ」


「いいじゃん、どうせ暇でしょ?あんたのことだからデートとかそういう予定何て入ってるわけないじゃん。そのくらいは予想の範囲内だよ」


「じゃあ土曜日の朝に娘連れて行くからよろしくね。あ、バイト代はお土産の発送に替えさせていただきます。あらかじめご了承ください」


 なんたる傍若無人っぷりであるか。貧乏神である塚田も真っ青になるほどである。腹立たしいことに、私の土日が暇であることを前提で計画を立てている。さらに歯噛みすることに、実際に私の土日は暇、という揺ぎ無い事実である。

 神は何ゆえに私に試練ばかり与えるのであろうか。ええい、これは神に対してデモ行進を行わねば。一人デモに効果があるかどうかはわからないが、やってみなければわからない。私はプラカードをもって行進するのである。一人で。いや誘えば間宮くらいは参加してくれるかもしれない。


 そんな経緯で預かった目の前の幼女は、与えられたオレンジジュースを飲んでいる。それをさも美味そうに飲むさまは、なんとも愛らしい。従姉の話によれば、この幼女は保育園の年長さんということだ。よくよく見てみれば、黒髪で前髪はまっすぐ、通称ぱっつんに切りそろえられている。我が従姉も一族の中ではそこそこ悪くない顔立ちをしているのだが、おおよそこの幼女も整った顔立ちをしている。肌の質感も柔らかそうで、少し触ってみたくなる。


 読者諸兄、再度言うが通報はやめていただきたい。私は客観的事実をお話しているのであるのであって、断じて欲望を感じたわけではない。とりあえず、まずはその手に持っている電話を置こうではないか。そう。電話を机に置き、指を離す。そうそう。そうである。うまいぞ。いい子だ。で、手はお膝。軽く握るくらいが面接でいい印象を与える。よし。完璧。


 ふぅ……。


 そうこうしているうちに、幼女はジュースを飲みきった。少し口の端からこぼれていたので、それをティッシュでふき取る。


「しぃな、この家を探検したい!」


 幼女の口から、そんな言葉が発せられた。

 言い遅れたが、この幼女の名前は「しいな」という。漢字ではなく平仮名である。この幼女は自分のことを名前で呼ぶ。幼女と童女と少女にのみ許された呼び方である。


 言うが早いか行動が早いか、しぃなは台所から階段に向かって駆けていった。行動が早いのはいいことであるが、急ぐばかりが人生ではないと思われる。そういえば従姉も旦那さんと出会ってから、結婚までが三ヶ月と早かった。そんなところまで似なくていいと思うが、遺伝子やDNAというものは確実に存在すると、私は深い感銘を覚えた。

次話投稿予約済み 2015/6/13 08:00公開予定です。

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