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黒魔術結社の願い

 事の発端からお話しよう。

 まずはとりもなおさず、我らが独身貴族公爵こと貧乏神、塚田氏の演説をお聞き願いたい。



「私は帰ってきたー!……。いやどこからとか言うな、少し言ってみたかっただけだ。さて、栄えある独身貴族諸君!本日この場に集まっていただいたのは他でもない。我ら独身貴族という毒の沼地から生還した加藤についてである。実は明日の日曜日であるが、加藤が彼女さんとデートをするという情報がもたらされた。我々独身貴族はその加藤と彼女さんを生暖かい、そして嫉妬に燃える目で見守り、悪漢暴徒に襲われそうになったらこれを寸前のところで助ける、という正義のヒーロー役をかって出ようと思う。無論加藤の許可などはとっておらず、これは全くの善意から来る行動である。諸君。どうせ明日も暇であろう。ぜひ参加されたし!以上!」


 これが演説の全文である。

 塚田は独身貴族の盛大な拍手を持って迎えられた。なにもそこまで拍手をしなくても、というレベルでの拍手で、である。

 それにしてもさすがは独身貴族の中で嫉妬を司る男。この辺の行動の速さは流石と言える。


 長々と語りはしたのだが、要は加藤のデートを我ら独身貴族でストーキングしよう、というわけである。

 なんという悪ふざけであろうか。前回のだいだらぼっちの時も申し上げたが、ほぼ三十路の考える遊びとは思えない。

 我々独身貴族はいつだってそうなのだ。

 世の三十路が、愛を育み、子供の成長に涙し、親の有り難味をかみ締める。三十路とはそういう年齢である。しかしながら、そんなことは微塵も頭によぎらず阿呆な悪戯に興じるのである。なんという愚昧のやからであろうか。ご先祖様に申し訳が立たない。ご先祖様。あなたの子孫は間違った方向で知恵と時間を使っております。


 しかし誰一人、明日は予定があり参加できない、と言わなかったのはさすが独身貴族といえる。大都会の雑踏でふと感じるほどの孤独感である。無論それには私も含まれているわけであり、ゆっくりと、しかし確実に心の深遠に飲み込まれそうになる。


 もっとも。実際、面白そうというのは確かである。他人の生活を覗き見る、というのは間違いなく下卑た欲望なのだが、これはまた面白いというのも事実である。

 独身貴族の面々を見渡すと、これまた皆やる気満々筋骨隆々。さすが大罪を背負った咎人とがびと共である。

 片岡は口角を上げ、中村はメガネの端を輝かせる。林は眉間の皺をまたもや深くし考え、間宮は牛丼をかっ込んでいた。間宮だけは違う気もするが、まぁいつものことなので放っておく。

 林はこれまで独身貴族唯一の良心という立ち居地に収まっていたが、最近は我々の独身貴族たるどす黒い負のオーラに毒されてきたか、よくもまぁ参加をする。読者諸兄ももしかするば、我々のオーラに当てられて独身貴族の仲間入りを果たすかもしれない。そうなったならば、拍手喝采はくしゅかっさいをもってお迎えさせていただく。おいでませ。独身ワールド。


 ともかくやる気は十分。あとは明日の予定を立てるだけである。それより先は、作戦と準備を行うことと相成った。


「なんかこの作戦、名前が欲しいな。なんか案ない?」


 中村のこの発言、なかなかにいい目の付け所である。作戦名がつくと、今以上にやる気が出るではないか。名前と言うのは想像以上に大事なものなのである。


「式神作戦」


 間宮がポツリとつぶやいた。

 式神作戦!

 我々は陰陽師の操る式神となり加藤を影から見守るのである。これはなかなかいい作戦名に思われた。私の頭の中を知ってか知らずか、盛大な拍手をもって迎えられる式神作戦。以降この作戦は式神作戦と呼称されることとなった。若干照れる間宮が可愛らしい。この表情なら、ハンドルネームの「まんま☆み~や」も

名前負けしていない。

 しかし式神というからには、どこかに陰陽師が必要ではないかと思われる。急募。黒髪で少し釣り目の女性陰陽師。魔術妖術使いといえばつり眼が相場であると思われるがいかがだろうか。


 ともかく加藤ストーキング大作戦、正式名称「式神作戦」の立案をしなければならない。明日の加藤の予定が大本営参謀官だいほんえいさんぼうかんの塚田氏の口から発せられた。


「時系列で行くぞ。午前十一時から某ショッピングモールで買い物をする。なんでも好きなブランドの出店があるそうだ。そしてそのままランチ。午後からは水族館に行き、魚やイルカの舞踊りを見る。その後、海へ移動し、海の涼しさを感じる。その後は……」


 ここで塚田氏が言葉を詰まらせた。いや、これは独身貴族であれば言葉が詰まる事態であろう。加藤。なんというリア充度合いであろうか。この場合のリア充とは、リアル(現実)が充実していることを指す。彼女がいるのだからデートをするというのは分かる。しかしなんたる充実。明日それをストーキングしようという我々とは雲泥、いや月と河童の頭の皿くらいの差がある。我々と加藤で似ているところがあるとするならば、生物学的に男というところくらいか。この世にリア充指数というものがあればメーターを振り切っている。指数だけで見れば我々の男指数も決して引けは取らないのだが、いかんせん内容は正反対であり、勝負するまでもなく白旗である。


 何故これを塚田が知っているかというと、昨日未明、加藤より連絡が入り、この予定のことを聞いたとの事だ。なんたる苦行。塚田の心情を察するに余りある。加藤はそれを嬉々として話し、塚田はそれこそ奥歯が粉砕する程度には歯噛みしたことであろう。我々は鮫ではない。歯が無くなれば、日常生活に支障が出るのだ。


 改めて周りの独身貴族を見渡す。皆神妙な顔つきで塚田を見ている。

 間宮にいたってはなにやらブツブツと呪文のようなものを唱えている。怖い。本気で怖い。なにやら強大な魔物を呼び寄せようとしているようでもある。その光景は黒魔術により悪魔を召喚するという光景が想起された。車座に座っている我々の中央から、どす黒いオーラを伴い悪魔が召喚される。そして皆でこう願うのだ。皆様もご唱和願いたい。


 リア充爆発しろ!

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