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物の怪日和(モノノケビヨリ)  作者: 白房(しろふさ)
第十一章 だいだらぼっち
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地球防衛隊の活躍

「こちら戦闘機雷電らいでん。パイロット間宮。だいだらぼっちを発見した。管制室応答願う」


「こちら管制室片岡。現地到着を把握した。だいだらぼっちの様子の報告を頼む」


 キィーン!と中村の甲高い声が響く。おそらく戦闘機の音を表しているのであろう。


「だいだらぼっちはしきりに周りを見渡している。何かを気にしているようだ。我々のことかもしれない。言質の報告どおりかなり大きい。外見的な特徴として、メガネをかけている。どうぞ」


「メガネ?だいだらぼっちサイズのメガネなんて作られているのか?」


「それは分からない。俺は事実のみを報告している」


「了解。作戦に支障は無いものと判断する。それでは作戦を開始する。間宮隊長、塚田はだいだらぼっち右方向より攻撃を開始。中村、林は左方向より。攻撃のタイミングは間宮隊長にお任せする」


 ボボボボ……と片岡の声が轟く。この音が何を表しているかは私には分からなかった。


「了解。それでは皆!ショウタイムだ!」


「イエス!サー!」


 じゃんけんに勝利した独身貴族どもは、皆手に戦闘機のプラモデルを持ち、私に攻撃を仕掛けてくる。


 バリバリバリ……

 キュイーン……チュドーン!

 パラパラパラパラ……


 私は攻撃を食らうたび、体をよじり、苦悶の表情を浮かべ、時には戦闘機を振り払うように手を振った。

 あるものは攻撃音を口にし、あるものは管制官に戦闘の状況報告をしている。


 どれくらいの時間がたっただろうか、間宮がこう口にした。


「皆生きてるか?それにしても、だいだらぼっちはなかなか倒れないな。」


 中村がそれに返事をする。

「隊長!弾薬も尽きています!これ以上の攻撃は無理です!」


「一旦退却しましょう!」と塚田。


「管制官も退却には賛成だ。今すぐ帰還しなさい」


 しかし間宮はその退却要請を断った。「いや、まだだ……まだ最後の弾薬がある!」


 林が何かを察したのか、声を荒げる。

「まさか隊長……特攻する気じゃあ!?」


「そのまさかだ!みんな今までありがとう!楽しかったぜ……!」


「間宮隊長おおおおおおおおおおおおおお!!!」

 間宮以外のパイロットの叫び声が響いた。


「うおおおおおおおおおお!!くたばれえええええええええ!!」

 間宮は叫びながら、戦闘機を私にぶつける。


 ドカーン!


 私は少し体を揺らし、その場に膝から倒れこんだ。


 そして、「間宮隊長おおおおおおおおお!」という叫びが、もう一度を空気を揺らした。


 だいだらぼっち退治という寸劇は、間宮隊長の特攻による勝利という幕切れを迎えた。


 私はうつぶせのまま、首をよじり独身貴族どもを見る。

 それぞれが敬礼のポーズをとっている。もはや何も言うまい、それほどまでに間宮隊長は立派であったのだ。


 突撃の終わった間宮隊長は、部屋の隅で膝を抱え、体育座りをしている。どうやらそれが間宮流の退場の仕方、戦死者のあるべき姿らしい。膝を抱えた間宮は、それはそれは大きな塊のように思え、私は「間宮が一番だいだらぼっちの適役だったのではないか?」と思わずにはいられなかった。


 寸劇も終わり、皆で後片付けである。飛行機を中村に返し、辺りに広がった田舎の風景をとりあえず一箇所に集める。全員で作業をすればそれはそれは早く終わりそうなのであるが、片岡と中村が、飛行機遊びを継続しているので邪魔で邪魔で仕方がなかった。


 だらだらと片づけをし、片岡と中村の尻に軽く蹴りを入れ、気づけば小一時間ほど経過した。そして、全ての片付けは終わった。


 片付けの終わった私たちは、茶でもすすることにした。

 私は台所へ赴き、人数分の茶と茶菓子を用意する。茶菓子はかりんとうである。かりんとうが好きです。でもピスタチオのほうがもっと好きです。


 私は茶とかりんとうを盆にのせ、それを両手から落とさぬように注意深くもち、トントンと二階へ向かう。そして部屋の前にたどり着いた私は、足でドアを開ける。なお、これは両手が塞がっているからであり、行儀が悪いというご指摘は勘弁願いたい。私は普段より礼儀正しく生きていることは、読者諸兄が一番ご存知であろう。


 さて、そこで私を待ち受けていたのは、独身貴族どものニヤニヤ笑いであった。一寸何事があったかと思い、私の動きが止まる。ともかく両手を開けたくて、茶とかりんとうを床に置く。


 間宮が座ったまま、ずいと私に近づき、いつの間にやら手にしていた包みを私の眼前に突き出した。


「牛丼だけが君への土産ではないぞ。これも土産だ。」


 なんということであろうか、嬉しい誤算である。まさかこんなサプライズが用意されているとは思わなかった。


 私は包みを手にする。両手に伝わる、ずっしりとした重みが高級感を漂わせる。ともかく中身は何であろうか。間宮の了解を取り、包みをガサガサ開ける。


 中から飛び出してきたものは、木彫りの熊であった。


 一寸なんのことか分からず、時間の止まる私。そしてニヤニヤ笑いで私を取り囲む独身貴族。そして回転する私の頭脳。


 私が間宮に進呈したものがそのまま返ってきたのであろうか。いや、さすがにそれは失礼でないか。親しき仲にも礼儀ありと言うではないか。


 私がそんなこことを考えながら、改めて木彫りの熊を見る。すると、鮭が付属していないことに気がついた。あぁ、なるほど、これは私が差し上げたものとは違う熊なのだ。新規で購入したのか、それとも元々誰かが持っていたのかは分からないが、熊が私の元にくることになったのだ。なるほど、独身貴族どもめ、だからニヤニヤしていやがったのか。


 私はどんな表情をしていいか分からず「こういうとき、どんな表情したらいいか分からない」と思わず口にしてしまった。言ったすぐそば「しまった!」と思ったが後の祭りである。独身貴族全員から「笑えばいいと思うよ!」と返答されてしまった。苦笑するしかない私。ちょくちょくこういうことがあるから、人生とは面白いのである。

第十一章 だいだらぼっち -了-

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