切る、組む、塗る、食う
さて。
間宮の誕生日会より少し時間は進む。
数日経過したある日のことである。私の携帯電話が着信を知らせた。
ピルピルピル……。
着信の画面には「間宮」と表示されている。
ピルピルピル……。
間宮が何の用事であろうか。
ヌンチャクでタンコブを作ったのであるなら、私ではなく片岡に文句を言って欲しい。もしくは私の誕生日プレゼント、木彫りの熊の実用性でも発見したのであろうか。もしそうなのであれば、一冊くらい本が書けそうであり、ベストセラーになってあちこち木彫りの熊だらけになるかも知れぬ。それはそれで面白そうであり、木彫りの熊職人が小学生のなりたい職業、プロ野球選手を抑え、上位に食い込むかも知れぬ。
しかしあれこれ考えていても話しは進まない。ここは神の見えざる手に従い電話に出ることにした。
「もしもし」
「あー。間宮だよ。君の友人の」
「うん。知ってる」
「なら話が早い。あのさぁ、ちょっと相談があるんだけどさ」
ここで間宮の相談を少しまとめることとする。
端的に言ってしまうと、塚田のプレゼント、プラモデル「田舎の風景シリーズ」の作成と置き場所に関する相談であった。
間宮曰く。
一つ作ってみたところ、なかなかに作るのは楽しかった。だが数が数なので一人で作っていても一向に埒が明かない。なので私を含んだ他の独身貴族にも作って欲しい。
そしてもう一つ。どうせ作ったのなら飾りたい。しかしその場所というのが無い。間宮の部屋では他の家財道具もあるので難儀である。そこで、私の家の二階部分、現在使っていない部屋を使いたい。
次の日曜日に君の家に独身貴族で押しかける。場所と手間提供料として手土産は持って行くので心配は要らない。期待に胸膨らませてしばし待て。
それにしても流石神妙古今東西比類無い貧乏神、塚田である。間宮へのプレゼントで私にまで細かく迷惑をかけている。あの男、どこまで貧乏神となれば気がすむのだ。
しかしながら、独身貴族伯爵の間宮からの頼みであるため、無碍に断るのも芸がない。それにあたり一面に広げられたプラモデルというのも面白そうである。あの中村のフィギュア部屋にも負けないかもしれない。萌とはいささか違った風情が、中村の心に一陣の風を吹き込むかもしれない。
色々考えた末、私は承諾することにした。
私は間宮との通話を終えると、何をするべきか考えた。
とりあえずは、早々に二階にある旧私の部屋を掃除することにした。以前化け猫によりとことんまで蹂躙された部屋である。あそこであればそれなりに広さもあるし、まぁなんとかなるであろう。
それにしても手土産は何であろうか。何はさて、牛丼の可能性がかなり高く思われる。というよりも、牛丼以外を想像することができない。肉肉玉ねぎ肉肉玉ねぎ。
そして、あれよあれよという間に、約束の日曜日になった。
二階の旧私の部屋の掃除は完了している。私はこの日のために、掃除をしたのである。独身貴族どもよドンと来い。かかって来い。
ピンポーン
私がどこに向かっているのかさえ曖昧な気合を入れている間に、独身貴族共が来たようである。
ドアをガチャリと空ける私。
そこに現れたのは、いつもの独身貴族の面々、間宮、塚田、中村、林、片岡であった。
手にはそれぞれ、プラモデル「田舎の風景シリーズ」が山と積まれている。
片岡だけは手にビニール袋を持っていった。ビニール袋からうっすら見える、形状、色、そしてビニール袋に印刷された牛丼チェーン店の名前を見れば、やはりというかなんというか、牛丼であることが予想された。どうやらまたしても牛丼のようである。牛丼に恨みはないが、同じ土産ばかりでは飽き飽きとしてくる。
挨拶もそこそこに、独身貴族どもを家の中に入れ、に階に案内をすることにする。
二階に招き入れられた独身貴族共は、プラモデル「田舎の風景シリーズ」をうず高く積んでいく。数が数だけに壮観である。よくもまぁあのおもちゃ屋でここまで売れ残ったものである。押し付けられた塚田の辛苦も想像が容易い。
話を進めようということで、早速製作を開始することになった。
ここでのリーダーは、プラモデルを多く製作している中村である。
まずは枠からの切り離し方、やすりのかけ方、色の塗り方など、プラモデルを上手に作るための方法を皆に指導していく。
しかしさすが中村である。プラモデルを上手に作るための解説であるのに、話が全然関係ない方向に進んでいく。どこをどう間違えたら、プラモデルの上手な作り方から話が始まって、アメリカンコミックの面白さで話が終わるのであろうか。
ともかく解説も一段落つき、全員で作業を開始する。
黙々と作業をする独身貴族。茅葺屋根の家、田、杉の木などが徐々に作られていく。
全体の約半分を作り終えたころ、少し休憩を入れ、食事をすることになった。
間宮が片岡の持って来たビニール袋を豪快に空ける。
中からは牛丼の山が登場した。またもや肉地獄であるが、間宮は嬉しそうであった。
そぞろそれをやっつける私たち。いい加減、牛丼以外の土産を願いたいものである。私たちは思い思いに牛丼を口に運んだ。そして間宮が三杯目の牛丼をやっつけたころ、全員それぞれの受け持ちも終わり、作業を再開することとなった。