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物の怪日和(モノノケビヨリ)  作者: 白房(しろふさ)
第十一章 だいだらぼっち
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終わりと始まりのとき

 食事が片付いた。続いてはケーキである。


 これは肉の林に比較すればちんまりとしたものである。普通サイズのイチゴのホールケーキ。真ん中に「間宮くん!誕生日おめでとう!」と書かれたチョコプレートが刺さっている。通常であれば、このチョコプレートが地域紛争の火種になり、独身貴族同士での血で血を洗う闘争となりかねないのだが、今回の主役は間宮である。これは間宮のものである。


 片岡が綺麗にケーキを六つに切り分ける。切り分け方であるが、ここはやはり主役である間宮の取り分を多くせねばならない。ケーキをまず半分に切り、その半分を間宮に。残りの半分をおおよそ五等分である。半分の五等分なので、全体の一割ほどが我々の受け持ちである。

 間宮は自分の眼前に差し出されたケーキを、やはり飲み込むような勢いで平らげた。その間、実に二十秒。甘いものは別腹というが、先ほどの肉はどこに消えたのであろうか。まさか間宮の口は別次元かブラックホールにでもつながっていやしないか。まさかここに二次元への扉があったとは。

 しかし、この清清しいほどの食欲が間宮である。いっそ天晴れである。


 間宮を見れば、それはもう満足といいたげな満面の笑みである。その笑顔で、肉づくし、甘いものづくしという私たちの判断は間違っていなかった、と安堵した。


 食事は全て終わった。次はメインイベント。プレゼントの贈呈である。


 今回の間宮へのプレゼントは、独身貴族が丹精こめて考えた、あからさまに迷惑なプレゼント群である。果たして独身貴族がいかなるものをプレゼントするのか。それでは順を追って詳細に凝視していこう。


 ぱーんぱーぱぱーんぱーん……。


 表彰状の授与式のようなメロディーにあわせて渡される間宮へのプレゼント。独身貴族の大合唱である。低い男声で歌われるそれはまさに、男地獄からの賛美歌のようである。地獄へいざなう亡者の歌。


 さて、それでは独身貴族そのことごとくが、どのようなプレゼントを持ってきたか、それを見ていこう。

 なお、紹介順は間宮に渡された順番であることをここに明記しておく。


 先鋒は林。

 プレゼントは冷凍黒豚の味噌漬け十枚である。

 またもや肉である。しかも結構な量である。もはや男地獄から肉地獄に改名したほうがよいのでは?と思われるくらいの肉。しかしながらこのプレゼント、常識の範囲内、間宮の思考の範囲内ということは林もよく分かっているであろう。林は独身貴族唯一の良心であるからして、許していただきたい。


 次鋒は中村。

 プレゼントは週間少年漫画、打ち切り作品のコミックス詰め合わせ。総勢三十冊ほどの塊である。

 そのどれもこれもが一巻~から二巻で完結している。打ち切られたどす黒い怨念がこもっていそうな集合体といえる。中村はこれを買い集めるために、中古書店を十件は回ったとのことである。この無駄にほとばしる情熱を、何か他の有益な事に使っていたら、中村は一角の人になっていたのではないかと思うがどうか。


 中堅は私。

 プレゼントは木彫りの熊。北海道直送で、しかも着払いの品である。口にはしっかりと木彫りの鮭が咥えれている。

 イヤな土産物の定番である。まったく実用性がないことといい、北海道には行っていないことといい、我ながら模範的な迷惑プレゼントではないかと思われた。


 頼れる副将は片岡。

 プレゼントはカンフー映画のDVDと木製ヌンチャク。

 これはあれだ、間宮に何をやらせようか明確すぎるくらい明確である。紆余曲折うよきょくせつを経て、間宮の頭をタンコブだらけにしようという算段であろうか。しかし間宮はそのだらしない体に反比例して運動神経はなかなかもものである。近い将来、ヌンチャクを振り回し、私たちの度肝を抜いてくれるかもしれない。


 トリを飾る大将は我等が塚田。

 プレゼントはプラモデルシリーズ「田舎の風景」三十個。

 茅葺屋根かやぶきやねの家に杉の木などが入っている一品である。

 以前私が将棋の駒を買ったおもちゃ屋が廃業したらしい。塚田はあそこの主人と旧知の間柄だったらしく、一個当たり五十円で、この一品を押し付けられたそうだ。なんだか体のいい廃品回収のような気がしないでもない。


 以上、独身貴族から間宮へのプレゼント紹介である。


 さて、プレゼントの贈呈は終わった。

 今、間宮の眼前には我々独身貴族が腕によりをかけて選別したプレゼントが広がっている。

 読者諸兄、それを見た間宮の表情を見てみたまえ。

 それはそれは満面の笑みで


 いや、嘘はよくない。私危うく嘘をつくところであった。事実だけをお話しよう。


 間宮の表情をご報告申し上げる。

 眉毛は八の字にひんまげられている。その八の字度合いは、達筆すぎる書家が書いたが字の如く。

 さらには眉間に皺が少しよっている。年輪を重ねた樹木の表皮の如く。

 あまつさえ、下唇が少し前に出ている。例えるならば、両親がおもちゃを買ってくれない子供の如く。


 もうこれだけ表現すれば十分であろう。我々は、いや我々の迷惑なプレゼントはその目的を完遂した。十分すぎる戦果である。


 さて、肉も食べたし、ケーキも食べた。

 プレゼントの贈呈も滞りなく終わった。


 あとやることは何であろうか。

 そう。

 何も無い。

 後は帰るだけである。


 しかしそのまま帰るのも芸が無い。

 なにより本日は間宮の誕生日である。私たちはこの荒れ果てた荒野のような誕生日会の後片づけをすることにした。


 さっささっさと掃除をする。

 さすがに五人がかりである。それはそれは素早く片付いていく。


 こういうときのリーダーは林である。皆にてきぱきと指示を出している。

 指示だけでなく、自分自身も空のペットボトルを集めるなど八面六臂はちめんろっぴの活躍である。さすが独身貴族唯一の良心。


 塚田は洗い物が分担である。先ほどまで肉祭りが繰り広げられていた食器を洗っている。基本的に油汚れなので、当然ながら洗剤をたっぷりと使っているのであろう。キュキュっとなるほど綺麗に洗って欲しいものだ。


 中村と私はゴミ片付けである。

 燃えるごみ、燃えないゴミを分別し、袋につめていく。燃えそうだけど、実際どうかよくわからないゴミを前に頭を抱えるのがもうひとつの仕事である。


 片岡はほうきである。

 それをギターのようにもち、エアギターを楽しんでいる。

 ちょっと待て!遊んでんじゃないよ片岡!と思ったら案の定、林に怒られている。どうやらそこまでが片岡の分担らしい。まぁ林が片岡を怒るのはいつものことである。意識的に放っておく。


 なお間宮はそれを見ながら果物を食べる係である。先ほどはオレンジを、そして今はバナナをほうばっている。

 それにしても間宮の食欲に限界は無いのであろうか。これをうまく論文に書ければ、学会などで発表できないか。


 そして掃除のすべてが終わり、独身貴族各位、それぞれ家路につくことにした。かくして間宮の誕生日会は、本当の意味で終了と相成った。

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