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鵺との遭遇

 鵺という妖怪がいる。

 「ぬえ」と読む。

 名前くらいはご存知の方も多いのではないだろうか。


 少し詳しくご説明すると、古くは平家物語などに登場する妖怪である。猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇、声はトラツグミであるそうだ。様々な生物が合体した奇々怪々ききかいかいな風貌と言える。

 それにしても、何故声だけがトラツグミというイメージしにくいものなのかが謎である。「ヒョーヒョー」という鳴き声だそうだが、私には一向にイメージがわかないし、読者諸兄も同じであろう。

 その昔の日本人が如何様いかようにして、このような妖怪を発想をしたのかはわからない。酒にでも酔っ払って思いついたか。しかし、様々な生物が合体している得体の知れない恐ろしい妖怪であることだけは確かである。


 実際の日本語でも鵺という言葉は使われる。鵺のような人物といえば、ドラマや小説で登場する所謂いわゆる得体の知れない人物である。他にも底知れない、食わせ者、気味の悪いといった意味を含み、物語に登場する政治家なんぞにかなり使いやすい日本語と言える。


 さて話を進める。なぜ最初に鵺の話をしたかというと、私の目の前に鵺がいるからである。


 その鵺は、人間の顔と狸のような腹、豹柄のシャツと蛇っぽい網タイツを身につけ、カナリアのような声をした、生後六十年は優に経過しているであろう熟した女性である。ついでに言うなら、髪の毛は奈良鎌倉の大仏様の如きパーマがかかっており、さらにはその髪の毛は光沢を帯びた紫色に染められている。

 見た目とその見た目からかもし出される得体の知れなさと底の知れなさ。これはもう見まごう事なき鵺である。


 ここでさらに、現在の状況をご説明するのであるが、少し時間を巻き戻させていただく。


 まずいつもどおり土曜日である。何度も申し上げるが、土曜日は社会人にとって祝福された日であり、満願成就まんがんじょうじゅの日でもある。

 そんな土曜日、私は黒髪の読書好きな女性とのデート、は、やはり気配すらなく相も変わらず自宅の居間でゲームに興じていた。

 今回やっていたゲームは、悪魔を召還して戦っていくというRPGである。仲間の悪魔のを合体し、より強力な悪魔を仲間にして敵をなぎ倒していくのである。悪魔にもレベルがあり、自分より強い悪魔は仲間にすることが出来ない。レベル上げが非常に楽しい良作である。私はこのRPGシリーズを非常に好んでおり、まさに祝福された土曜日に相応しい満喫方法と言える。


 ふと塚田や間宮はどれくらいのレベルであろうか、と考えてみた。やつらの能力からいって、レベル20そこそこだろう。うむ、確かにそこそこの強さである。ゲーム的に一番面白いレベル具合であろう。


 さて現実に戻る。


 ゲームに興じていた私を、甲高かんだいカナリアのような声が引き裂いた。何が起こったかと言うと、玄関の前で何かしら大声で叫んでいる人がいるのだ。

 何を叫んでいるのか耳を傾けてみると、回覧板、回覧板と叫んでいる。どうやら回覧板をもってきてくれたらしい。


 そこで、はた、と私の思考が停止する。

 はて、隣の家は穏やかそうな中年の夫婦が住んでいたはずである。いままでにも回覧板が回ってきたことは、それこそ幾度と無くある。しかし、回覧板を持ってくる奥様は清楚と良妻を絵に描いたような、見るからに大人しい方である。回覧板を届けてくれる時にも「よろしくお願いします」と小声で挨拶をしていただいている。あの奥さんがこんな声で叫ぶとは考えにくい。もしあの奥様がこんな声で叫んでいたら、それこそ悪鬼にでも魂を食われたか、と疑わざるを得ない。


 それにしても回覧板の声がうるさい。私は玄関チャイムよりもうるさい声に急き立てられ、ドアを恐る恐る開けた。叫ぶ前にチャイムを押していただきたい。


 そこに前述の鵺が出現したのである。ゲーム風に言うなら「鵺が一体出た!」である。


 大変失礼ながら、その風体に私の時間はたっぷりと三秒は停止し、合わせて思考も停止した。私の過去の経験からも、なんとも形容のしようが無い風体である。あえて形容するならば、大阪は通天閣の真下がジャストフィットしそう、といえる。むしろそこにしか存在してはいけないような風情であり、ここが大阪で無いことが悔やまれる。なお、大阪の人には申し訳ないが、頭に浮かんだのだから仕方が無い。


 ここで時間を現在に戻す。いや、巻き戻す必要があったのか分からないくらい近々の出来事、実に一分も前の話ではないのであるのだが。

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