群れをなす化け猫ども
私の参加しているSNSには、コミュニティというものがある。
まぁ趣味思考の同じものが集まる、ネット上の同好会みたいなものだ。共通点と言い換えてもいい。
SNSではネットを介して、顔も知らぬ他人同士がつながりを持とうというものだ。趣味や価値観などで共通点があるというのは、なんとも親近感を感じるのである。お見合いで最初に「ご趣味は?」と聞くのもそういう理由なのかもしれない。同じものが好き、というのは人間関係を作るうえでこれ以上ない好材料だ。
さまざまな価値観が跋扈する現代、コミュニティはそれこそ星の数である。むしろ余りに多すぎて全体を把握することがほぼ不可能であり、コミュニティを探すのも一苦労といえる。
居住地、年齢、やってるスポーツ、好きなアーティスト、生い立ち、卒業学校、萌え対象、性癖、過去の失敗談などなど、それこそ言い出せばきりがない。
そんな同じ共通点を持つもの同士が、コミュニティの中で、日々語らい、知り合っていくのだ。
さて、その意味ではコミュニティ独身貴族円卓会議における共通点とはなんであろうか。問うまでも無い。モテない、ということである。
コミュニティ独身貴族円卓会議に集っているものたちは、間違いなくモテないのである。
恋愛至上主義とも言える現世で虐げられた者ども同士、なんとも強そうな絆を結べそうではないか。虐げられた者たちは共通の敵がいるため、結束が硬い。
そして、どうせなら私はもっと前向きなもので強い絆を築きたい。
なお、コミュニティ:独身貴族円卓会議と書くのは長ったらしいので、以下毒コミュと略するので、あしからずご了承頂きたい。ぜひ「ドッコミュ」と読んでいただきたい。
さて取り急ぎ、毒コミュの参加者数を確認してみる。
十八名。
個人的な感想だが、その。なんだ。その。思ったよりも多い。
見やれば毒コミュは、塚田の立ち上げから、ちょうど一週間を超えたところであるらしい。
一週間で十八名は多いのか少ないのか良く分からないが、数がやけにリアルで気持ち悪い。我々。つまりは皆様ご存知でお馴染みの独身貴族だけでは六人にしかなら無い。つまりこれはネット上の有志も参加していることが断言できる。それは同時に我々身内だけのコミュではなくなったということでもある。
独身貴族円卓会議は、全国に飛び出したのだ。
無論、そんなもの全国に飛び出させるな、というお叱りはあるだろう。
しかし、もしかすればこれが全国のモテない者、持たざる者の救いになるかもしれない。そうなのである。これは一種の救世のコミュニティなのかもしれないのだ。ただし、傷の舐めあいが全国区になっただけなのかもしれないことも重々承知しているので、そこには触れないで頂きたい。あえて放っておくのも愛なのだ。
そんな毒コミュであるが、半強制的かつ運命的に参加をした私が、まず手始めに行うことは何であろうか。様々あるであろうが、まずはコミュニティ参加者への自己紹介であろう。昔からの付き合いのある者どもだけなら自己紹介なんぞ無用ではあるが、今回はそういうわけではない。なんといっても、名も見も知らぬ独身貴族たちも列席しているのである。
さて、コミュニティにはトピックスというものがある。要するにコミュニティ参加者が書き込める掲示板であり、実際のコミュニケーションの場である。
無論、毒コミュにも当然自己紹介用のトピックスがある。「自己紹介用トピックス」という名前のトピックスがそれだ。つまりはここに、私も自己紹介の文章を書き込めばよいのだろう。私はそこに飛び込んだ。
そこで私は、はたと立ち止まった。
というのも、自己紹介にとんでもないルールがあったのだ。
いや、もちろんトピックはコミュニケーションの場であるからして、最低限のルールはあるだろう。しかしそれは、丁寧な文章を心がけましょう、とか、まぁそういう常識の範囲内のものだ。あるいは、独身暦を晒すなど、同士であることを立証する、もっと突っ込んだルールもあるか。いずれにしても想像の範疇には収まる。
まさか「語尾には必ず ニャ☆ を付けること」というルールがあるとは思ってはいない。
想像の範疇どころか沙汰の外であると思われるがいかがだろうか。
……
読者諸兄、いつも本小説、物の怪日和を読んでいただき、誠にありがとうございます。感謝申し上げる。
さて、私はこれまで可能な限り、冷静に、詳細に、順を追い、口語を避け文章を綴ってきたつもりである。
これは私が文章を書くにあたり自分に課した枷であり禁である。淡々と、可能な限り淡々と、波風立てぬように書いてきた。
私は自己紹介トピックスの中身ををつらつらと眺めていた。
そこでは、参加者のほとんどがちゃんと自己紹介をしていた。
それはいい。素晴らしいことだとも思う。
しかしながら、私はトピックスを眺めていて、どうしても感情を抑えることが出来なくなった。怒りとは違う。悲しさとも違う。私が生まれて初めて経験する、沸々と湧き上がってきた、言語でご説明するのは難しい感情である。
その感情が、私に初めて自らに課した枷をはずし、禁を破らせた。
今よりそのトピックスで見たものに対して、思ったことを素直に、感情の赴くまま書きたいと思う。以下ご覧頂きたい。
……
それにしてもなんだよそのルール。キメエよ!!ものすごくキメエ!!
ニャ☆ってなんだよ!!何が面白くて、男が語尾にニャ☆を付けなくちゃ何ねーんだよ!!しかも何人かは三十路、へたすりゃ四十路超えてんだろ!そりゃモテないことにも大々納得だわ!!
しかも!自己紹介見てみれば、みんなちゃんと守ってるし!!ルールはちゃんと守ろうは、確かに小学生でも分かることだが、こんなルールまで守ることねーだろ!悪法でも法は法か!?間宮!片岡!少しは疑問を持て!それみたことか、林が挨拶できてねーだろうが!
中村にいたってはやけにノリノリでニャ~☆って付けてるし!よろしくニャ~☆頼むニャ~☆って、本気でキモイわ!!お前絶対脳内では猫耳付けてるだろ!自分に!少したれ気味のやつ!
ともかくニャーニャーニャーニャーうるせえ!!あぁもう!!
この……
化け猫どもがあああああああああああああああああああああ!!!
……
さて読者諸兄、私はネットの中ですら、変人奇人妖怪物の怪との関係は切れないようである。諸行無常、常なるものは一切なく全ては移ろい行く、というが、一行も早くこの境遇と運命が移ろい行くことを切に願う。もうね、いやほんと、神様仏様、宜しくお願いします。
第九章 化猫ふたたび -了-