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物の怪日和(モノノケビヨリ)  作者: 白房(しろふさ)
第九章 化猫ふたたび
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壊滅的な精神被害

 私の携帯電話は、独身貴族の珍言メール以外では滅多にならない。




 今、出し抜けに、ものすごく寂しいことを書いた気がするのは私だけであろうか。

 現在の私の状況を簡単にご説明すると、自分で書いた文章により壊滅的な精神被害を受けている、と言える。パッキリボッキリメッキリチャッキリという音をたて、心が真っ二つに折れそうである。なんという自業自得であろうか、自分で自分の首を絞める、と言ってよい。私は自分の阿呆さ加減に、いささか愛想が尽きて、今生への別れが頭に浮かんだ。


 いやしかし。

 これは誠に悲しい客観的事実であるが、如何いかんともしがたい現実でもある。うむ。現実なのだから仕方が無い。そうだ、まだ独身貴族からメールがくるだけマシではないか。誰からも連絡が来ず、孤独を抱きしめて毎夜涙で枕を濡らしているわけではない。

 私は古今まれに見る強靭な精神力を発揮し、現実、その全てを受けとめることで大破壊を最小限に食い止めることに成功した。我ながらなかなかの現実主義者リアリストっぷりである。自分で自分に惜しみない拍手を送りたい。パチパチパチ。


 なお、哀れむような目でここまでの流れを読んだ読者諸兄には、隕石が落ちてくる呪いをかけたいと思うので、正直に挙手を願いたい。さぁ、さっさと素直に挙手す


 いきなり話が脱線しそうになったので、元に戻す。


 さて、その滅多にならない私の携帯電話が、着信音を発した。

 またもや珍言妄言メールか、とも思ったが、どうやら独身貴族どもからのメールではなさそうだ。どうやら電話を着信したようである。なんだ、ただの電話の着信ではないか。滅多に鳴らないから焦ったではないか。


 携帯電話のディスプレイを見てみれば、どうやら私の携帯電話には登録されていない番号のようであった。そこには名前は表示されず、見慣れない番号が表示されていた。


 ピルルルルルルル……


 電話は鳴り続いている。ここで、少し考える。果たして誰からの電話であろうか。また、出てもよいものだろうか。最近誰かに電話番号を伝えたか、と言われればそういうわけでもない。


 ともあれ考えているだけでは話が先に進まないし、読者諸兄もそれを望んでいるだろう。私は電話に出ることにした。


 確かにキャッチセールスの可能性もある。実は以前、実際にそういう事があり、イベントへの参加をオススメされた。何故なにゆえ私の電話番号を知っているのかわからずに、焦りに焦り「友達居ないんで!」と、よく分らない文言もんごんを吐き、電話を切った。なのでこういうことには慎重で敏感で、年頃の少女のように感受性が高い。


 しかし、誰かが電話番号が変わったので、電話してきたのかもしれない。それでは電話に出ないわけにはいかない。


 さもしくは、私に好意をもつ黒髪の読書好きの妙齢の淑女が、非合法な手段により私の電話番号を入手し、今まさに震える手で電話をしているのかもしれない。これならば刹那せつなの時を争い、電話に出なければならないだろう。


 さて、私は三十路も間近であるため適当なところで妄想をやめて、いい加減電話に出ることにした。


 「もしもし」と、私は電話の先にいる相手に話しかける。


 電話の主は、「よっ!久しぶり!加藤だよ。」と言った。声と内容から察するに、彼女ができて毒沼から生還し、そして亡者に追われまくり、さらには裏切り者の名をうけた加藤であるらしい。


 なんだ加藤か。


 私は即座に、彼女のいる加藤めがけて隕石降って来ないかな、と思った。しかし以前の独身貴族円卓会議の議決で意趣返しを禁止している。

また刑罰を食らった塚田のその後をかえりみるに、隕石を降らせる呪文は唱えないこととする。


 加藤について簡潔に記す。


 加藤には彼女がいて、近々隕石が加藤めがけて降ってくる。私の預かり知らぬところで。


 以上。


 さて、何故加藤が、私の携帯電話の番号を知っていたのか?という疑問が当然に生まれる。

 以前、加藤と再会した前回の独身貴族円卓会議時というのは優に十年ぶりの再会である。私はそれまで加藤に会っていないし、円卓会議時にも電話番号の交換はしていない。つまり、お互い電話番号は知らないのだ。しかし今回電話がかかってきた。これはおかしな話といわざるをえない。


 黒髪ロングの読書好き、特に明治から昭和初期の純文学が好みの妙齢の淑女、ではなく、毒沼から生還者である加藤が、如何いかなる非合法な手段により、私の電話番号を取得したのか、を把握しておかねばならぬ。そうでなくては、枕を高くして眠れない。


 私はそれを加藤に問う。

 その答えは、何でも間宮であるそうだ。


 独身貴族円卓会議時は、実に十年ぶりの再会である。それならば旧交を温めるだけでなく、電話番号の交換くらいはしたいところだ。しかし、加藤の彼女騒動でのすったもんだにより、その機会は永遠に近く失われつつあった。このままではいけない、と、間宮は加藤に連絡し、独身貴族どもの連絡先を教えた。そして、加藤はその番号に一つずつ電話を入れているそうである。


 なるほど、全て合点がてんがいった。ならば加藤が私の電話番号を知っていても何の不思議も無い。


 これで心置きなく、旧交を温められる。


 さて、加藤と話をするといえば、どうしても彼女さんの話となる。そもそも、独身貴族円卓会議に一種カタストロフィともいえる騒動を起こしたのは、加藤に彼女ができたからなのだ。その話にならないほうがおかしい。


 さて、いくらか問いただしてみると、加藤とその彼女さんはSNSで知り合ったそうだ。

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