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逆転の独身貴族円卓会議

 片岡はおもむろに手近にあった塚田のパソコンを操作すると、あるBGMを流しだした。どこかで聞いたことのあるBGMだと思ったら、某裁判を扱った有名ゲームの曲であった。ご存知の方は脳内で流し、ご存知で無い方はサントラなどでお聞きいただきながら次からを読んでいただきたい。なお、決着がつきそうな時の、あの曲である。


【片岡】そもそも皆は違和感を感じないか?


【中村】違和……感……?


【片岡】そうだ。少なくとも4つおかしい部分がある。それではひとつずつ考え、検証していこう。


【中村】これは面白そうだ。やらしてみよう。


【私】なんだか探偵小説みたいだな。


【間宮】こういうシュチエーションを待っていたのだよ!俺は!


【私】シチュエーションな。


【間宮】はい。


【片岡】よし、それでは1つずついこう。さて中村、君は以前、職場の同僚に塚田が声をかけていた、と言っていたな。


【中村】おうともさ!


【私】なんだその返事は。


【間宮】なんか時代劇の人夫の掛け声みたいだな。


【片岡】あれだ、籠を担ぐ人。話を進めるぞ。その時、どう思った?素直な観想を述べよ。


【中村】3次元に現を抜かすなど、正しい独身貴族ではない!と思った。


【私】なんだか大幅に間違っている気もするが…。


【間宮】いや流石中村。ぶれないな。一本筋が通っている。


【中村】褒められた!


【私】褒められたのか?


【片岡】つまりだな、次にこの会議が行われるなら、中村が主催で塚田を二次元に戻す会を行う可能性のほうが高いだろう。


【私】いや、塚田は二次元に旅立ったわけではないと思うのだが……。


【間宮】あと、中村がそう思ったから即行動、とは言えないだろ?あとその議題よりも今回の議題のほうが早く会議として行われただけかもしれない。


【片岡】うむ鋭い。まさしくそのとおりだ。俺も最初そう考えた。


【私】じゃあ片岡。お前の推理は破綻はたんするんじゃないのか?


【片岡】普通に考えればな。しかし、俺はこう考えた。今回の会議は、中村が主催する会議よりも早く、行う必要があったのではないか?と。


【中村】なん……だと……?


【間宮】どういうこと?うまく飲み込めない。


【片岡】間宮にも飲み込めないものがある方が驚きだけどな。まぁおいおい話していこう。さて次は2点目だ。何故塚田の家が会場なのか、だ。


【私】ん?別に変ではないぞ。独身貴族円卓会議は、主催者と会場家主が一致しないこともある。


【間宮】実際のところ、前回主催は塚田で、会場はこいつの家だったしな。


【片岡】まぁそいつのことはいいんだ。ほうっておけ。


【私】私の扱い悪過ぎないか?


【片岡】でだな……うーん。そうだな。とりあえず塚田を見てみてくれ。こいつの顔色をどう思う?


【中村】すごく……悪いです……。


【私】これはもう胡瓜きゅうりじゃない。茄子なすだよ茄子なす


【間宮】浮世離れした顔色ともいえるな。


【私】浮世離れって、そういう言葉の使い方でいいのか?


【片岡】多分それは間違った使い方だな。まぁいい。いずれにしても顔色は悪い。つまり疑問とは、男気溢れる林がこの体調の悪そうな塚田の家を会場に使うのか?ということだ。


【中村】ぬぅ……確かに……。


【片岡】いくら我々が悪鬼羅刹だとしても、体調の悪い男の家を会場に使うだろうか?いな、使うことはない。ここ反語な。まして男気溢れ出る林であれば、急遽会場を変更する可能性が高いだろう。


【私】要は林のパーソナリティと行動に矛盾があるということか。


【間宮】言われて見れば確かにそうだ。


【中村】これは林は褒められているのかね?


【私】精一杯の賛辞だろう。特にこの会議メンバーでは。


【片岡】そして3点目。なぜ今回、塚田は一言も発しないか、だ。


【私】そういえば、俺の入室許可も林が出したよな。


【片岡】いくらなんでも元気が無さ過ぎる。そしてこれが最後の4点目だ。これが最大の疑問だ。結論を言おう。いくら会議で話し合ったところで、俺が就職するわけない!


【私・中村・間宮・林・塚田】!!!!????


【片岡】絶対にだ!


【私】待て待て!三十路手前!いくら推理中とはいえ、それもどうかと思うぞ、おじさんは!就職しろ!


【片岡】いや!ここは断言させていただく!俺は就職はしない!当分!


【私・中村・間宮・林・塚田】働け!!!!!!


【片岡】働くくらいなら食わん!


【中村】……。これが突き抜けきったものの強さなのだろうか……。


【私】いっそ清々しさすら感じるな。


【片岡】これは林が一番よくわかっている客観的事実だ。どれだけ口酸っぱく言ったところで、俺の強固な意志は砕けない。


【私】すごい男だ……。


【林】ああ。ダメな方向でな。


【片岡】さて推理を進めるが、これらの違和感から、会議の目的は他にあったと考える。


【私】しかし一向にわからんな。見えてこない。


【片岡】ふふふ……ここで発想を逆転させてみよう。


【私・中村・間宮・林・塚田】?


【片岡】目的があるから集まった、のではなく、集まることが目的だとしたら?


【私・中村・間宮・林・塚田】!!!???


【片岡】そして今回の会議は、中村主催の会議よりも早く行う必要があった。……さらには……塚田の顔色は、体調ではなく心の調子だとしたら?中村と心の調子の共通点……。そして集まることが目的……だとすれば?


【間宮】まさか!?


【片岡】そうだ!これは中村の同僚にフラれた塚田の慰め会だったんだよ!!」


【私・中村・間宮】なんだってー!?


【片岡】おそらく数日前、塚田は中村の同僚にフラれた……そして塞ぎこんだ……。塚田が話したのか、それとも何かの拍子か、林はその情報をつかんだ……。男気溢れる林は、塚田をなんとか励まそうと考えた……。塚田の憂さ晴らしのために、会議を行おうと……。しかし、塚田慰め会では、心が再度折れてしまうかもしれない、と林は考えたのだ……。そこで、俺をダシに使い会議を開催した……。塞ぎこんで動きたくない、塚田の家を会場にして……。以上が俺の推理だ。塚田、林、反論はあるか?


 片岡の推理独演会は終了した。塚田、林から反論が出ないということは、これが真実ということであろう。男気あふれる林の行動に、私、間宮、中村は、涙を抑えるのに精一杯だった。そうか、そうだったのか。


 塚田よ、がんばれ、精一杯応援しよう。

 そして、林。

 お前はやはりいいやつだよ……。


 間宮は目頭を押さえ必死で涙をこらえ、中村は「漢だ…漢の中の漢だ…」とむせび泣いている。私も林のその男気に、心を震わさずにはいられなかった。なにもそこまで、と思われる向きもあるだろう。しかし、プライドは天空を遥か越えるが、自己評価は沼底に潜む河童ほど低い独身貴族である。打算なく心を汲んでくれることがいかに嬉しいことであろうか。人であれば推し量っていただきたい。人であれば分っていただきたい。

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