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どす黒いオーラに満たされて

 おじゃまします、と声を発しながら玄関を開けると、これまたタイミングを図ったように目の前の階段上より、ドスドスと何者かが降りてくる音が聞えた。足元より少しづつ上にズームアップし見えてきた人物は、その巨大なシルエットより間宮であるに間違いがなかった。

 ドスドスと降りてくる間宮、足音がだんだんと大きくなっていく。階段を降りきるまで、後二段と迫り、そこに間宮が足を乗せたとき、階段よりミリッと、何かが裂けるような嫌な音がした。


 私と間宮の時間が止まった。


 ビジュアル的には、瞬間的に、色が失われて灰色の世界になったとイメージしていただきたい。

 時が止まってよりたっぷり五秒ほど経過し、時間が動き出し色も戻った。

 やぁ、と声をかける私と「皆集まっているのでともかく上に」と会場への来場を促す間宮。

 私達は独身貴族円卓会議会場、二階にある塚田の部屋へと向かった。


 階段を上りきるその数秒、私と間宮は無言であった。その数秒の間に私の心には「優しさというのは一切触れないことなのではなかろうか」という疑問が浮かんで湧いてすぐさま消えて、そして会場到着。


 独身貴族円卓会議。またの名を男地獄。


 塚田の部屋に到着をした私を待ち受けていたのは、例のごとく車座になって鎮座ましましている独身貴族どもと牛丼の芳香であった。

 また牛丼なのか、と思われるかもしれないが、牛丼は男地獄名物なのでご勘弁願いたい。いや、別にそういう風に決まっているわけではないが、まぁなんとなく話の流れで、そういうことにしておいていただきたい。ここは深く突っ込むところではない。


 私と間宮が部屋に入っても、皆、私に一瞥いちべつ食らわしたした後は、すぐに牛丼に意識を向けた。大都会よりも他人に無関心なやつらである。主催者の林は眉間に皺をよせ、ただただ黙々と牛丼を口に運んでいた。本当に寝ているとき以外は眉間に皺がよっているんだ、と思わずマジマジと顔を見てしまいそうであったが、しかし男の顔をマジマジと見るというのもなんとも気持ち悪いので止めておいた。私にそのような趣味は無い。


 家主の塚田をみれば、なぜかいつも以上に顔色が悪く、今にも故郷の金星に帰りそうである。塚田の顔色の悪さは、私が今現在感じている息苦しさに起因しているのかもしれない。

 ここは二酸化炭素の濃度でも高いのであろうか。

 林の怒気と間宮の体温から発している熱気、そして他の独身貴族から発せられる、なんだか得体の知れないあからさまにどす黒いオーラが、酸素の流入を妨げているのではないか。もしそうであるなら、素晴らしく地球に優しくない、時代に逆行する集団と言わざるを得ない。即刻政府に非エコ集団がここにいます、と通報しなければならない。もしくは環境税でも課税されるべきだ。


 さらにその有様は、もう独身貴族円卓会議をやめ、男地獄という呼称を使うべきではないか、と疑問を持たずにはいられなかった。もう諦めてそれでよいではないか。しかしそうなると「なんでわざわざ地獄の亡者どもを招集し男地獄を創り出すのか」という新たな難問が生まれるため、呼称はやはり独身貴族円卓会議で行こう、と改めて心に誓った。


 ここにいるのはまさしく男地獄の亡者どもであるが、地獄だ毒沼だと騒ぎ立てるのもいささか自嘲気味過ぎる。少し現状を把握し、よいところでも探してみよう。


 先回、加藤がこの男地獄より生還し、現在地獄を這う亡者は六名。どこをどう見てもいずれ劣らぬ猛者であり、厳選された亡者であり、そして大罪を背負った咎人とがびとである。そういう言い方をすればマンガや小説に登場する「異能者集団」によくあるパターンとも言える。その異能をもって敵をばったばったとなぎ倒したり、地球に隕石がぶつかるのを阻止したりするのだ。

 しかし残念なことに、空を飛ぶや電撃を発するといった特殊な能力があるわけでもなく、別に体に紋章が浮き出てくるわけでもない。能力も無いから隕石が降って来たとしてもなんとも出来ない。敵対する組織、例えばそれはカノッサ機関という名前の組織があるわけでもない。

 やはりどう考えても、ただの毒の沼地であり、まったくもって不毛な考えであった。さらに、改めて私は本当に麒麟児であったのかと疑問をもたずにはいられない。


 私は地獄にのまれ、深淵を覗き見た気持ちになった。しかし深淵を覗くとき、深遠もまた私を覗いているのだ。このままでは私の精神が危ういし、なによりも立ちっぱなしなのも馬鹿馬鹿しい。私は今回の主役、片岡の横に陣取り牛丼を胃に押し流すこととした。胃に牛丼を入れれば、少しは元気も出るというものである。

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