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いざ塚田邸

 片岡については登場した時に記す。

 林は今までに見せ場、円卓会議での男気発露があったのだが、片岡には未だない、というのが理由である。もうちょっとで登場するので全国6人程度はいると思われる片岡ファンの方には、今しばらくお時間を賜りたい。


 もう一つの理由は、早いところ会場である塚田邸に行かねば、地獄の業火で焼かれることになるからだ。

 林はそこに存在するだけでチャーハンをパラリと仕上げさせるほどの高火力を誇る男である。それが地獄の業火、というのだからその火力は筆舌に尽くしがたい。なによりも、私の話は最近枝葉えだはに集中して、時間を忘れるきらいがある。さっさと行動を開始せねば、時既に遅し、となりかねない。


 塚田邸は我が家より徒歩で15分ほどである。

 車で行ってもよいが、それでは近すぎるし最近のガソリンは非常に高い。経済的事情を考えれば、歩いていくのがよいであろう。窓から空を見れば麗らかな散歩日和である。私は自らの足で大地を踏みしだきながらで向かうこととした。しっかりと大地を踏みしだきながら、と書いておいてなんであるが、普通にスニーカーを履き、ペタペタと徒歩で塚田邸に向かう。


 さて以前にも書いたが、歩くというのは頭の回転を良くする作用があるそうである。そしてそれは実感としてもある。これからは少し散歩を趣味とし、麒麟児の頃を思い出すのも悪くない、と思う。ペタペタと歩き、クルクルと頭が働き出す私。とりとめもない様々な考えが頭をよぎる。


 高校に在学中、塚田家は父、母、塚田、妹の4人家族であると聞いたことがある。母と妹については面識はないが、本人の言であるから、まぁ間違いはないであろう。流石の彼も、自分の家族構成に有益な情報、とはいわなかったし。なお妹の部分で思考がロックされた方は、今すぐ腹を掻っ捌き、モツ大放出のモツ祭りでも催していただきたい。


 よくよく考えてみれば、これから向かう塚田邸には、少なくとも貧乏神とぬらりひょんという妖怪が潜んでいる。再度再度申し上げるが、それほど面識のない塚田父を勝手にぬらりひょんと呼ぶ無礼は重々承知の上ではある。しかしあのぬらりひょん具合というのは、私の筆力ではとうてい書ききれない。言葉で表すならば、文字通り「絵に描いたような」が最も近い。あそこまで見事なぬらりひょんは、古今東西に比類ない。むしろ某妖怪マンガの大家たいかは、塚田父をモデルにしたのではないだろうか?と疑ってしまう。


 はてさて、家族4人のうち半分が妖怪、という事実はなんとも面妖である。

 母殿と妹殿については面識はないが、まさかそのお2人も、と考えるのは私だけだろうか。妖怪に身をやつしたものは引かれあう。ないとは言い切れない。いやむしろ今までの私の人生、流れを鑑みれば、その可能性が高い。あまりにも珍妙な人物との出会いが多い人生である。


 どうせなら妹殿は、雪女であっていただきたい。出来れば黒髪でお願いしたい。さらに読書好きであって頂きたい。私の人生には、そういうサービス的キャストが少ない。むしろ皆無だ。もし神がいるのであれば、そんな果実のようなキャストくらい望んでも罰は当たらないであろう。私とていい加減男地獄からの生還を果したい。これは私の切なる願いであるが、いくら陳情しても空から蜘蛛の糸は垂れてこない。いや、蜘蛛の糸をたらしたのは、神ではなく仏であったか。これは祈る対象を神から仏へ変えねばならぬ。


 かくして私は塚田邸に到着した。

 さて、ここまでの私の言をまとめると、モツ祭りを催さねばならないのは、私自身であるような気がしてきた。私はもう少しだけ男地獄生還のチャンスを待ちたいので、陪審員の皆様には温情ある判決を賜りたく存じます。


 そうこうしているうちに、私は円卓会議開催場所である塚田邸に到着した。私の腹部から何も放出していないことを見るに、陪審員の皆様よりモツ祭り判決はいただかなかったものと思われる。ご厚情痛み入ります。

 しかしながら、15分ほどの歩行で足腰が悲鳴をあげているのは、陪審員の皆様より軽い刑罰を受けた現れであろうか。日ごろの運動不足の可能性も強ち否定出来ない。


 塚田邸は、塚田父が建築会社の経営者なのだから、それは立派な邸宅、庭には池と錦鯉が配備されており、パンパンと手を叩くと鯉が寄ってくる、そんなイメージをもたれた方がいるかもしれない。

 そんな予想に反して塚田邸はごくごく普通の二階建て一軒家である。庭はあるが池はなく、代わりに家庭菜園が広がっていた。


 さて私は到着したことを連絡するため、塚田の携帯に通話を発信した。

 待ち構えていたように塚田が電話に出たが、すぐさま林に変わり、林より塚田邸に入る許可をもらった。私はこの数秒のやり取りで、家主の権利などやはり砂上の楼閣に等しい儚いものである、と確信せずにはいられなかった。なぜ林が許可を出すのであろうか。独身貴族円卓会議の権力とはかくもすさまじいものなのであろうか。

 様々な疑問が沸き立ち匂い立つのであるが、ともかく家に入らないことには話が始まらない。

 玄関のドアを開け、塚田邸へすわ突入をしかけることとした。

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