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驚愕すべき祖父と驚嘆すべき間宮

 私は祖父を、じさま、と呼んでいた。


 じさまは趣味の人であった。将棋、囲碁、華道、茶道、柔道、工作、絵、麻雀、そして歌に読書となんでもござれな人であった。他にも食品などにも通じており、味噌などの発酵食品を自分で作っていた。


 じさまの趣味の中で、特筆すべきは柔道と将棋である。


 柔道は中々の腕前だったらしく、近所で柔道を教えていたそうだ。教えられるくらいであるから、腕は推して知るべし。更にはその武勇を伝える逸話もあるので、私がじさまから直接聞き、知っている範囲でご紹介したい。


 剣道の有段者と立会った時、面を白羽取りし、そのまま投げ飛ばした。


 じさまがまだ若い時、修行の為に山篭りをししていた。その時天狗に勝負を挑まれた。猛然と襲い掛かる天狗を見事にさばき、そしてこれを大外刈りで斬って落とした。


 じさまの道場に身の丈七尺の大男が道場破りにやってきた。じさまは五尺の普通の体格であり、体力差はまさに大人と子どもであろう。まともに戦っては勝てないと思い、ここは将棋道場であると手八丁口八丁で丸め込み、将棋の勝負に持ち込んだ。そして三間飛車で斬って落とした。


 この話しを聞いて皆様どう思われただろうか。


 まず間違いなく、適当な人間だと思われたであろう。その判断は正しい。最後の逸話にいたっては柔道ですらない。じさまはいい加減で適当な人なのであった。


 前述もしたが、じさまといえば、もう一つは将棋である。


 これは掛け値なしに強かった。私自身が、柔道の強さは体験していないが、将棋の強さは体験をしたからである。大男を言葉で丸め込んだ後のじさまは、将棋では鬼神のごとき蛮勇を奮ったであろう。

 私は、じさまと百を超える回数、将棋で対局をした。しかし一度も勝ったことが無かった。数度惜しいときもあったが、それでも最後には負けてしまう。

 余りに負けが込んできて頭に来、麒麟児の全知能を賭して将棋に打ち込み再度勝負を挑んだ。だが全部負けた。それほど強かった。


 じさまは将棋に勝つと、まるで子どものようにニヤニヤと、意地の悪そうな笑みを浮かべる癖があった。さらに決め台詞があり、「修行~が足りんわ!」と勝つたびに言う。

 「行~」のあとをやけに伸ばすのが、ものすごくうざったく腹立たしく、それが私に将棋の勉強をさせる原動力となった。思い出したらなんだか腹が立ってきた。思い出話でご立腹である。


 まぁいずれにしても、将棋は強いじさまであった。

 山で天狗を投げ飛ばしたのは嘘に違いないが、私という麒麟を将棋で打ち倒したのは本当である。あ、まさか天狗というのは、鼻っ柱の高い柔道家という意味だったのだろうか。それであれば、私はじさまに謝らなければなるまい、ごめんなさい。


 話しが長くなったが、じさまとの将棋でいつも使っていたのがこの将棋盤なのである。


 将棋なんぞ久しく指していない。しかし目の前にある将棋盤は、じさまとの思い出を蘇らせた。たまには詰め将棋でもやってみようか、これも何かの運命かもしれない、と思うのにそう時間はかからなかった。

 早速私は将棋の駒と、詰め将棋の本を買ってくることにした。


 将棋の駒をホビーショップで買った。四百円ほどの安い、プラスチック製の駒である。

 次は詰め将棋の本を買おうと、この辺りでは大きい部類に入る書店へ向かった。程なく到着し、書店の自動ドアより私は中へ入る。

 趣味のコーナーはどこであろう、ときょろきょろする私。その目に飛び込んできたのは、どうみても間宮な巨大な人影であった。顔を見ていないので確信は無いが、周りの人よりも頭二つ分は大きいシルエットは、この片田舎では少ない。間宮でまず間違いないであろう。


 しかし、私は声をかけるようかどうするか逡巡した。万が一人違いであったならば、少し面倒なことになるからである。私は以前、知り合いの男性と思って肩をポンとたたいたら、全く見も知らぬ女性であったことがあり、冷や汗を流したこともあるからだ。ともかく顔を確認するべく私はその巨漢に近寄り、その横で立ち読みをすることにした。間宮であれば声をかける、間宮でなければそのまま立ち去る、そういう段取りである。


 私は近づいていった。近づいてみて分かったことだが、間宮らしき人物がいるコーナーは、その、なんというか、古い言葉で言うならば「萌え」というジャンルを集めたところなのだろう。その一角だけ色彩が鮮やかな蛍光色である。


 ともかく目的優先である。巨漢の顔を横目で見やると、恐ろしいまでの集中力を発揮して、雑誌を読んでいる間宮であった。何やらニヤニヤしており気持ち悪い。


 大切なことなのでもう一回申し上げる。


 気持ち悪い。


 間宮は自分の顔を覗かれていること察知し、こちらを向いた。眉間に皺を蓄えた私と目が合い、間宮は怒りと悲しさを湛えた、えもいわれぬ表情を浮かべた。おそらく一番プライベートな時間なのであろう。スマン。


 私は間宮と少し本屋で立ち話をし、本屋に来た経緯を話した。

 将棋が間宮の心の琴線に触れたようである。なんでも最近、将棋のマンガにハマっているようであり、将棋の勉強もしているのだそうだ。そんなこんなで、あれよあれよと言う間に、間宮と将棋をさすことになった。間宮は一旦家に帰宅後、我が家で落ち合うこととなった。

2018/12/31 加筆修正

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