表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/85

掃除の先より出しもの

 中村がフィギュアの塊に、成って果てた翌日その夜。私は家の大掃除をすることにした。


 というのも、あの地震で自宅の二階が壊滅的打撃を受けたからである。

 一階は比較的無事であったが、二階は日頃使っていないこともあり、なんというかこう、言葉では形容しづらい様相を呈していた。机の引き出しを引っ張り出し、中身を全部床に散らかしたような、といえば分かりやすいだろうか。

 大掃除は件の化け猫騒動以来であるが、現在の状態はあの騒動後よりも凄まじい。自然の力というものは妖怪物の怪の力を凌駕りょうがするのである。


 しかし言葉を発していても、部屋が綺麗になるわけではない。ともかく手と足を動かさなければならない。


 掃除機、雑巾、ゴミ袋そしてビニール紐を持って二階に上がり、清掃を開始する。物を片付け、いらないものをゴミ袋に詰め、袋の口を縛り、掃除機をかけ、汚れの酷いところは水拭きをする。そんな単調な作業が進む。

 それにしても物が片付いていく様子というのは、気持ちのよいものである。私は一種の爽快感を感じていた。


 さて掃除をしていると懐かしいものを見つけ、それに心奪われて作業が止まることがあるだろう。読者諸兄身に覚えは無いだろうか。いやあるに違いない。これは日本人の因習いんしゅうである、と、ここは断定させて頂く。

 そしてお察しのとおり、現在の私もそのようなものを見つけ、手が止まっている。


 まず手始めには、中学校の卒業文集が見つかった。


 まだ私が麒麟児天狗、そして髪の毛のことなど微塵も気にしていない頃のものだ。文集を開いた私は、懐かしさに体がむずむずした。当たり前のことだが皆若い。いや幼い、というのが正しい表現か。


 そして自分を発見したとき、恥ずかしさの余り、すぐに文集を閉じてしまった。


 一時の感情に流されたとはいえ、これはあけてはいけないパンドラの箱だ。ワインのように、とことんまで熟成させればなんとかいけるかもしれない。しかしあの頃の自分を笑い飛ばすには、私はまだ若すぎるようである。とにかく碌な思い出なんぞ、ありはしない。


 次に発掘されたものは、十五年も昔のマンガ雑誌であった。懐かしさに涙が出そうになる。


 中学生、高校生の頃が思い起こされた。


 しかしやはり碌な思い出が蘇らなかったので、早々に意識に蓋をし、梵字の書いてあるお札をベタベタ貼り、無意識の海の底に沈めることにした。このマンガ雑誌に罪は無い。すべては私の罪である。なんとも罪深い人生を送っているものだ。いや恥の多い人生か。


 さて、次に見つけたのは将棋盤である。

 木製で脚は無く、ぱっと見少し厚めの板である。黒茶け色あせた盤面が時代を感じさせる。今は亡き祖父曰く、江戸時代だったか明治時代から存在する年代物である。今なら金銭的価値も、少しは上がっているかもしれない。

 不意に盤を裏返してみると、アニメのシールが貼ってあった。間違いなく幼き日の私の仕業である。過去の自分は、物の価値が分からない男であったことを再認識し、自分の阿呆さ加減にほとほと愛想が尽き果てる。まぁ今年だけでも数多あまた、愛想が尽き果てているのであるが。


 さてこの将棋盤は、祖父の所有物であり、祖父が亡くなる少し前に譲り受けたものである。

 物語は私がこの将棋盤を見つけたことで、過去に遡る。少し私の昔話に付き合っていただきたい。

2018/12/31 加筆修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ