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酒宴、フィギュア、そして中村

 中村とひとしきり、塚田について話し合った。最終的に、塚田には独身貴族円卓会議で、その行く末を発表させる、ということが決定した。

 そしてもう一つ決定した。本日夜、中村のフィギュア部屋に行き、そこで酒を酌み交わすという運びとなった。私はフィギュアに興味はないのだが、酒を振舞ってくれるというのだから、行かない理由は無い。


 酒は好きだし悲しいことに、どうせ暇なのだ。おそらく中村も自慢のフィギュアに囲まれながら、その愛を誰かに語りたいのであろう。


 さて、中村のフィギュア部屋は、我が家より車で二十分ほどのアパートである。歩いていくには少々距離があり、車で行けば駐車場の問題が出てくる。遊びに行って駐車禁止を取られてしまうのは気持ちのいいものではないし、なにより財布が風邪をひいてしまう。しかし中村はなんと、車で迎えに来てくるというのだ。こいつは重畳ちょうじょうである。


 それから一時間後の夜十一時、中村から到着した、とメッセージが入った。

 私は中村の車がどんなものか、とても興味があった。もしやテレビなどに登場する、美少女キャラの描かれた、いわゆる痛車いたしゃではないかと期待していたのだ。

 そんな私の期待をよそに、中村の車は普通の白いワンボックスカーであった。極普通な車でありちっとも面白くないのであるが、質実剛健、自分の趣味以外には一切金を使いたくないという意思が見え隠れし、さすが中村と賞賛の拍手を送りたくなった。


 それにしてもこの車、見るからにおんぼろであり、なおかつ汚い車である。ワザと古くて汚い素材ばかり使って製造しました、と言われても、諸手を挙げて納得するような風情である。重ねて言うなら、助手席のシートに貼ってあるガムテープはアクセサリーのつもりであろうか。ガムテープで補強するにしろ、もっと考えていただきたいものである。


 そうこうしている間に、程なくして中村のフィギュア部屋に到着した。


 中村の借りている部屋は八畳ほどのワンルーム、そして車に負けず劣らずのボロアパートである。私が入るのは二回目であるが、過去見たときよりもフィギュアの数が明らかに増えている。以前は窓があったが、今では窓がどこにあるのかよく分からない。フィギュアの置かれた棚で、壁全てが埋まっているのである。


 ショーケースに飾られているわけでもなく、むき出しで飾られていることも相まって、視界の全てがフィギュア、フィギュア、フィギュアである。

 フィギュアの保管してある部屋ではなく、フィギュアで作られた部屋というほうが正しいのでは、と思う。

 視界の三百六十度のうち、二百七十度がフィギュアであり、残りは中村と絨毯である。


 先ほども申し上げたが、フィギュアの種類にも取り止めが無い。美少女が多いようであるが、アメリカンコミックものもあるようだ。美少女フィギュアの横に、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうでピッチリしたタイツを着ている、いかにも男むさいフィギュアが並んである。


 なお読者諸兄、そろそろフィギュアという文字が鬱陶しくなってきた頃であると思うが、もう少しだけ我慢していただきたい。私自身も、おそらく一年分のフィギュアという文字をここに書いた気持ちである。


 さて、とりもなおさず酒宴と中村フィギュア独演会の開始である。

 さすがに金を持っている男なので、日本酒洋酒、東西様々な酒が出てきた。つまみは燻製肉である。

 見たことの無い酒ばかりであり、どれから飲んで良いかよく分からなかった。私がどれから飲もうかと迷っていると、中村がついと一つの杯を差し出してきた。中身は日本酒、とのことである。とりあえず中村が差し出したそれを、恐る恐る口に含み飲み込む。


 これは旨い、いや、本当に旨い。


 日本酒というのは、もっと甘ったるく酒臭いもの、というのが私の持っていた雑感である。しかし中村が差し出したこの日本酒は大変爽やかでフルーティーである。飲み込めば冷たく、かつ暖かいものが喉を伝っていくのが分かる。


旨い。


 もうこの時点で中村に感謝である。フィギュアの話しごとき、どれくらいでも聞いてやろうではないか、という気概が私の中で巻き起こった。さぁ独演会よ、かかって来い。


 中村が話し始めて十五分後、すでに私はフィギュアの話に飽きていた。自分の興味範囲外の話しというのは、やはり苦痛なのである。中村の弁舌が熱を帯びるに従い、私の目は虚空こくうを捉えていった。

2018/12/31 加筆修正

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