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罪と罰

 さて、この後どうしようか。私は嫌がらせもどうでもよくなってきていた。


 気配を察するに、おそらく他の独身貴族達もそうであろう。全員目が虚空を捉えていた。


 おもむろに間宮は牛丼を食い始め、咀嚼音が部屋に響き渡った。しかしまだ食うのかこいつは。


 片岡は「人生について考察する」と座禅を組み、瞑想を始め、中村もなぜか同じことを始めた。


 塚田はネクタイの緩みを直しすっくと立ち上がった。そして、再度独身貴族を見渡すと、初めと同じように朗々と堂々と語り始めた。


 語り始めると同時に、中村と片岡がすーっと目を開け、そして片岡は少しよだれをすすった。


「諸君。我らが同胞加藤氏が、伴侶を見つけてこの独身貴族円卓会議より爵位を自ら捨てていった。これは独身貴族たる我々に対する挑戦とも受け取れる。しかし加藤氏ともそれなりに長い付き合いであり、何よりこの毒の沼地からの生還者である。これは喜ばしいことである。皆、拍手をしてくれたが、これは大変喜ばしいことであり、誇りに思うことである」


続いて林が立ち上がり、話し始めた。


「今後加藤への意趣いしゅ返し、仕返しなどは絶対に行ってはいけないと議決したいと思う。それが加藤への、せめてものはなむけだ。異議あるやつは、今この場で立ち上がってくれ」


 誰も立ち上がらなかった。加藤、幸せになれ。祝福あれ。


 林が再度話し始めた。


「OK。それじゃあ加藤への意趣返しは一切行うな。意趣返しをしたら、それ相応の天罰が落ちてくるぞ。具体的には俺から必殺の関節技、キャメルクラッチを食らうはめになる」


 塚田と林の演説が終わったが拍手は起こらなかった。皆が俯いているのは、キャメルクラッチをかけられた自分を想像していたのであろうか。


 林は座った。塚田はいまだ立っていた。

 塚田はまだ言いたいことがあったようであった。



「しかし諸君。円卓会議のメンバーが一人減ってしまった。ここは一人程度の補充を行いたいと思う。なぜなら長いこと七人でやってきたのである。六人というのはなんともすわりが悪い。やはり七人がいい。そこ、十年ぶりとか言うな。魂では我々はつながっているソウルメイト……そう! ソウルメイトではないか! さて、貴族補充については独身貴族であれば、誰でもいい。自薦他薦問わない。皆の友人でもこいつなら! と思う人の五人や十人いるであろう。そいつらを引きずり込むのである。なんなら知り合い一人を破局させて独身貴族にしてしまえばいい。加藤とか。目的のためには手段を選ぶな。この毒の沼地。地獄に生贄いけにえをささげるのである!!我らは独身貴族である! 」


塚田 …… 嫉妬


 語りに語った塚田は、満足げな顔をしていた。鼻が鈍い光を放っていたのは、脂汗だろう。まさしく男汁である。男汁が出てくるまで、熱を入れる必要があったどうかははなはだ疑問である。


 しかし塚田がすっきりしていればいいのだ。見るがいい、あの満足そうな顔を。つやつやではないか。そしてあそこまで言い切れれば立派なものであり、畏敬いけいの念すら覚える。来年の悪魔ドラフト会議では、間違いなく一位指名される。塚田との交渉権獲得は抽選になるのであろう。


 私がそんなことを考えていると、林が首を左右に、小刻みにひねっていた。

 そして一度うなずくと林はゆっくりを確認するように、「それって加藤に対する意趣返しじゃないのか?」と言った。


 凍りつく時間。


 色を失う塚田。


 現在目の前に広がる光景は、そのおぞましさのため、詳細に語ることはご勘弁願いたい。少しだけ申し上げれば、くんずほぐれつ、まさに男地獄である。そして私はその光景を見ながら、今年の独身貴族流行語大賞は、「加藤とか言ってないから! 佐藤って言ったの! 佐藤! 内藤でもいい! 腰! 腰 !腰! あー!」であると、確信するのであった。


 少し長い言葉の流行語大賞ではあるが、まぁたまにはよいではないか、よいではないか。

第五章 亡者 -了-


2018/12/25 加筆修正

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