表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/85

七つの大罪

 我々は男地獄に堕とされた、恋愛亡者ではなかろうか、と考えてみる。


 恋愛は太陽のようにまばゆく、温かかさを放っている。しかし恋愛亡者が恋愛を直に見れば、すぐさま焼き払われてしまうだろう。それは亡者が日の光に当たるが如く、である。だから我々亡者は、斜にかまえ、直撃をしないようにしているのではなかろうか。そう考えると、全てがうまく説明できてしまい、心が納得してしまいそうである。そして現実には、涙で牛丼が塩辛くなるのであろう。


 そうこう考えている間に、間宮が三杯目の牛丼をやっつけた。口からはブホゥという音と、熱気が吹き出した。しかし以前から知っていたが、この男どこまで食うのか。胃袋はどうなっているのであろうか。

 それ以外の面々は、鬼の食欲に圧倒されたのか、それぞれ一杯の牛丼をボソボソと口に運んでいる。その光景は、私に更に強く地獄を想起させた。


 我々は男地獄に堕とされたわけだが、一体全体どんな罪を犯したのであろうか。我々はただモテないだけである。モテないことは罪であろうか。いな。断じていなである。我々は誰にも迷惑をかけずに生きてきたはずだ。罪なぞ犯しているはずがない。これは閻魔大王に直に文句を言ってやらねばなるまい。無罪だ。冤罪だ。プラカードの準備をしなくては。



 モテない理由だってそう大した理由ではない。


 間宮はやたらと食うので肥満が止まらない。デブなのが理由であろう。

 林はちょっとしたことですぐ怒る。しかし感情は人間の性だ。仕方ないではないか。

 片岡は無職で一切合財働く気が無いが、根は悪いやつではないし頭もよい。残念ながら金はいつも無い。

 加藤はただの猥褻なDVDマニアであり、好きなアイドルにセクシー女優を公言している程度だ。

 中村は物欲が人並み外れて強いだけだ。主にフィギュアに対する物欲が。


 これにより、我々のろくでもなさと、世の恋愛至上主義を呪うのも、ご理解いただけたかと思う。


 ドン


 その時、私の脳に稲妻が落ちた。

 私たちは罪を犯しているのかもしれない、それに気が付いたのである。


 皆様、七つの大罪はご存知であろうか。人間を罪に導く可能性があるとされてきた欲望、感情のことである。傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲だ。マンガなどでも度々モチーフにされるので、ご存知の方も多いであろう。

 さて、今現在のメンバーを、仮にであるが、その七つの大罪に当てはめてみよう。するとこういう関係図が出来上がる。



 間宮 …… 暴食ぼうしょく

 林  …… 憤怒ふんぬ

 片岡 …… 怠惰たいだ

 加藤 …… 色欲しきよく

 中村 …… 強欲ごうよく


 そして、元天狗である私は


 私  …… 傲慢ごうまん


 となる。


 あまりにうまく符合してしまい、寒気すら覚える。もしやこれが私たちの犯した罪なのであろうか。しかし七つの大罪は、男地獄に落とされるほどの罪なのであろうか。


 そんなことが頭をよぎる中、部屋にやけに色の悪い胡瓜が入ってきた。いや、胡瓜に酷似した、やけに顔色の悪い人間が入ってきた。言うまでもなく貧乏神こと塚田であった。いずれにしても待ちわびた男の登場である。


 塚田は何故かスーツ姿であった。そんなにめかしこんでどうするつもりだ。ここには男しかいないのに。そして家に入ってくる時には、チャイムくらい鳴らせ。


 しかしそんな私を気にかけることもなく、塚田は胸をはり、目に怪しい光をたたえていた。そして地獄に落とされた我々恋愛亡者を一通り見渡した後、それはそれは大仰に語りだした。


「只今より独身貴族円卓会議を行う。まずは前口上を聞いていただきたいので、皆々様、取り急ぎ牛丼を置いていただきたい。そこ、箸をおけ。ちょ、まーみーやっ!!ちゃい!!」


「まず今回皆さんに集まっていただいたのは他でもない、来る二月十四日、悪しきバレンタインデーに向けて、我々独身貴族のあるべき姿、それを再度確認しようと思ったのである。そして出来れば、身近な人たちに行うほんの些細な嫌がらせのアイデアも、募集しようと思ったのだ。なおこれは、決して嫉妬から来る悪意ではない。世の恋愛至上主義者たちに、いかに恋愛というものが稀有けうで有り難い、そう、有り難いものであるかを再認識していただく、自己犠牲の心を持った、崇高なる活動なのである!」


 塚田 …… 嫉妬しっと


 やはり我々は大罪を抱いていたのだ。それでは男地獄に落とされても仕方が無い。もう観念して男地獄に身をやつそう。それにしても蜘蛛の糸はまだだろうか。お釈迦様に催促の手紙を送らねば。


 そして独身貴族円卓会議が粛々と開始された。


 しかし何か外に向かってアクションを起こすのは初めてではないかと思う。しかも嫌がらせとは何の冗談であろうか。小学生でもやらないぞ。

2018/12/25 加筆修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ