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開けぬ悟り、そして金棒

 私は酒が好きであるが、かなり弱い部類に入る。


 麦酒ビールをコップ数杯程度であれば問題は無いが、日本酒や焼酎など少し強めの酒になるともう駄目である。ウィスキーやブランデーなど人外の飲む酒と思える。読者諸兄のご友人にも、強い酒が飲めない人というのがいると思うが、おおよそそんな感じだと思っていただきたい。


 まぁ考えようによっては、経済的といえば経済的である。麦酒数缶の代金、千円もあれば十分気持ちよくなり、浮世の憂さ晴らしが出来るのである。我ながら安く出来ている。


 私は酒は好きだし、友人との飲み会も好きである。しかし会社の飲み会は全く好きではない。


 会社の飲み会は、お題目は親睦の場であるが、実際は上司からのお説教の場であり、仕事の延長線上である。金を払ってお小言てんこ盛りとかどんな罰ゲームであろうか。このあたりサラリーマン諸子であれば、納得していただけるであろうし、いまだその経験のない学生諸君は、今のうちから覚悟をしておいたほうがよい。


 恐ろしいほどの気を使い、眠い目をこすり、上司のお説教や人生訓を聞くというのは、苦行以外の何物でもない。そして苦行の時間ほど長く感じる時間も無い。以前、上司のお説教を聞きつつ、もう一時間は経過したかと時計を見たら、六分しか経過していなかったことがあった。その驚愕の事実に、私は一寸悟りが開けそうになったが、仏陀の言うとおり苦行では悟りは開けず、開いたのは瞳孔と口ばかりである。


 そして、なにより飲ませられる、ということがイヤである。自分の配分で飲めないというのがこれまた苦痛以外の何物でもない。


 上司に「俺の酒が飲めんのか!」と言われれば、飲まざるを得ないのだ。あぁなんと悲しいサラリーマンのさがであろうか。

 酒に弱い私はその後、いいパンチをもらったボクサーのように倒れこむのがお決まりである。もうすぐ三十路というのに、そんな玩具のような不当な扱いを受けているのである。私の体を玩具にしないで、と女性が言えば卑猥であり、あらぬ妄想を掻き立てられる。しかし三十路に片足突っ込んだ私が言えば、冷ややかな視線で射抜かれること請け合いである。男女平等を叫びたいところであるが、こんなところが平等になっても全く嬉しくない。


 そんなこともあり、会社の飲み会はストレスが溜まるのである。


 溜まってばかりでは体に悪いので、もちろんそれを吐き出す場がいる。そんなストレスは、私的に飲みに出かけることで発露することにしている。言葉悪く言えば口直しであり、言葉よく言えば、と、思ったが、どういっていいか言葉が浮かばない。まぁ愚痴吐きゴミ捨て場である。


 飲み相手は貧乏神の時が多いが、狐や狸、はたまた笹山、そしていずれ書く間宮のときもある。友人と大いに酒を飲み、語り、心に溜まった澱を吐き出し、そしてかわやに汚物を吐き出すのである。ここで最も重要なことは、会社の人間が絶対に来ない店、ということである。これは自分が匿名でいられる場所という意味である。壁に耳あり障子に目ありな場所で、呪詛は唱えられないのだ。


 ある土曜日、私は貧乏神こと塚田と飲むことにした。

 私は先週の会社の飲み会でもひどい目に会ったはずである。はず、と不確定なのは、その時の記憶が封印されており、翌朝、道路の中央分離帯で、爽やかな目覚めを迎えたことしか記憶に無いからだ。


 さて最近のお気に入りは、やけに奥まった店「居酒屋きんぴらごぼう」である。この店は看板に偽りがあって、メニューにきんぴらごぼうがない。看板に偽りありなのだが、そのことが人の話題に上らないほどの知名度を誇る。要するに流行ってはいない。まさしく私のような、匿名性の闇に潜みたい妖怪にとっては、これ幸いな居酒屋なのである。


 いずれ書くといっていた間宮について唐突に記す。


 間宮は貧乏神と同じく、高校時代からの友人である。高校卒業後は某有名私大に進学をした。大学では建築土木を修め、現在は建築系の企業に、現場監督として勤めている。

 専門の建築土木はもとより、歴史、数学、哲学、文学、科学などなど文理問わず、広く深い造詣をもっている。ちなみに初対面時に披露してもらった知識は、仏像についてであった。


 そして身の丈は190センチを少し超え、その長身を生かしスポーツも得意である。


 さらには顔は少し赤みを帯びている。古来より美形を現す表現として紅顔こうがんというのがあるが、間宮はまさしくそうと言える。


 さてここまで読んで、間宮をどのようにイメージされたであろうか。

 高学歴。博識。長身。スポーツマン。紅顔。

 ここまでは古代ギリシャ美術がイメージするような、完璧男子を表す単語が散りばめられている。

 しかし人間とはそれだけで構成されているものではない。このままでは木を見て森を見ずであるため、カメラを引いて全体像を書いてみることとする。


 さて、身長は190センチを少し超えているが、体重も130キロを少し超えている。大銀杏おおいちょうを結っていない力士をイメージしていただければ、大方間違いない。

 また髪は天然パーマであり、かつ全体的に体毛が濃い。その剛毛は使い古した亀の子だわしに比喩される。

 目はぎょろぎょろと大きく、やたらめったら眼力がある。その眼力は、電車内で目を逸らされることを得意とするほどだ。

 そして建築土木を生業としているせいか、専ら作業着を着てあちこち出歩き、またもや生業の癖なのか、声も大きくよく通る。

 紅顔もあいまって、形容するならばまさに赤鬼であり、おそらく金棒が日本一似合う男であろう。惜しむらくは、そんなコンテストなぞ、過去一度たりとも行われたことがないことである。まぁそんなコンテストは誰も得をしないのであるからやる意味も無い。もし行われたとすれば、優勝商品は金棒一年分に間違いない。毎日新しい金棒を、使いたい放題である。


 間宮について詳細に述べてみたが、美形のイメージを損ない、気分を害された方も見えるかもしれない。しかしこれが現実であり、現実は時に非情なのである。

2018/12/19 加筆修正

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