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第一話 象牙の門

「おめでとうございます!!」

 ガランゴロンガランゴロン!!!

 激しくベルが鳴り響く。事態を飲み込めている生徒が誰一人としていないまま、しかし誰もが教壇に釘付けになった。

「皆様は「化受園」行きに当選いたしました!ご自身に盛大な拍手を!」

 ひょっとこのお面に手ぬぐいを被った男が高らかに言う。そもそも男は商店街の福引よろしく青い半被を身に着けて、下はよれたスーツにネクタイという格好だ。両手にハンドベルを持ち革靴で飛び跳ねる姿はどうにも学び舎たる教室にふさわしくはない。どちらかというと組合長だ。

「皆様、高校入学前には同意書にサインをされた方ばかりかと存じます。つまり覚悟の決まっているお方々!」

 ダン、と男は両足を教壇に打ち付ける。青波高校一年二組の面々は、入学ほやほやでまだ見慣れない互いの顔をせわしなく見合わせた。

「しかも!今から三十分以内に象牙の門を潜った方にはなんと!身を守るお守りをお付けいたします!」

パキ、と細い音がするのを、海老和日カイロ カズヒはかすかに捉えた。

「さてさてさてさて、それでは皆様」

 瞬間、教室の床が真っ二つに割れてに割れて下に開く。

「いってらっしゃあ~~~~い」

「うわああああああああああああああああああ」

 総勢23名の悲鳴が、空中に放り出されたのだった。


*******


 「化受園」とは、「知恵の実プロジェクト」という国際プロジェクトの実験場の別名である。とある国で70年前に発見された人類の進化を促すという遺伝子を実用可能にし、手術ではなく果物、いわゆる「知恵の実」と名付けられた果実を摂取することにより人体に影響を与えることにまで成功した。その「知恵の実」が生る木が植わっている場所こそが「化受園」。「知恵の実」を食べるものが集まる場所。どこにあるのかは機密事項で一般の人間には知らされず、実の管理は厳重に行われている。

 「知恵の実プロジェクト」に加盟する各国では、「知恵の実」の安全性が保たれたことでとある実験を行うことになった。それは、「知恵の実」を食べるのに最も適した15歳の少年少女達に、ランダムで知恵の実を食べさせるという事だった。年に一度、満15歳16歳以下の学生から一クラス選び、そのクラスは「化受園」に招待される。そして3年間「化受園」で過ごすことになるのだ。当然、プロジェクト発足当初から激しい反発も度々ある。しかしながら選ばれるクラスは事前に加盟国の学生たちに配られる同意書に全員がサインしたクラスのみであり、今のところ大きな問題は起きていないのが現実である。あるのだが…

「うおおおおおこんなの聞いてねぇえええええええええ」

 猛スピードで落下しながら、自分の声が遠くに置いてけぼりになっていくのが分かる。目の端々に同じく落花するクラスメイトが見えるが、もはやそれどころではない。あまりの恐怖に、カイロは意識が遠くなっていくのを感じた。


*******


 風が気持ちいい。頬を撫でる爽やかさの中に、わずかに青草の匂いが混ざっている。背中や手足、首元に感じる柔らかなくすぐったさがそれかもしれない。

カイロはわずかに目を開け、飛び込んできたその青い視界にパッと目を見開く。見渡す限りの青い空、柔らかな風にそよぐ緑の草原。それから。

「………門?」

 白く輝くような、アーチ状の格子門がポツン、と目の前にあった。風に揺れる草原の中でその門だけが孤高のように佇んでいる。

「どこココ」

 たしか、教室に居たはずだった。一年二組、入学したてで自己紹介をしたばかりのカイロのクラス。中々どうして、クラスは女子のレベルが高く属性より取り見取り…、いやいやこんなことを言ってはセクハラだ。しかし考えるくらいなら…いや、今はそれどころではない、とカイロは首を横に振る。

「それで、そうだ、あの組合長!」

商店街の福引みたいな恰好をしたあのふざけた野郎にわけわからん話をされて、なんかいきなり放り出されて落とされたのだ。

「思い出せば思い出すほどわけわからん」

 経緯も何も分からないが、とりあえず全員で落ちたはずだ。何故今は一人なのだろうか。いや、もしかしたらよく見たらそこら辺に生徒に一人や二人転がっているかもしれない。

 とりあえず立ち上がりながらズボンを叩こうとすると、手元から何かがポトリと落ちる。不可解に思い地面を見ると、メモ帳の切れ端の様なものが畳まれて落ちていた。それを拾いよく見ると、「カイロ君へ」と書いてある。すぐにメモを開くと、そこにはびっしりと文章が書いてあった。


『カイロ君、今君は一人で戸惑っていると思います。申し訳ない、事情があり、僕たちは先に白い門、あの商店街の福引を担当している組合長みたいな恰好の人曰く「象牙の門」を潜ります。カイロ君も連れていこうとしたのですが、一度に二人以上は潜れないみたいでした。落下のショックで君だけ気絶して、一向に目を覚まさないのでどうしようもありませんでした』

 君だけって余計じゃない?

『時間もない気がするので仕方がなく、このメモを残します。あの福引の人が色々言っていたのですが、この先何があるかよくわかりません』

気がするってなんだよ。

『僕たちはとりあえず先に進むので、合流できることを願っています』

 文章の書き方の節々に引っ掛かりを覚えるが、つまり、みんなすでにあの門を潜ったという事か。

改めて、カイロは白い門を見つめてみる。「象牙の門」と書いてあったが、きっとこれで間違いはないだろう。辺りには何もないし、非ッッッッ常に怪しい事極まりないが選択肢としてはこの門を潜ってみる他ないだろう。足踏みしていても事態が好転するとは思えないし、先に行ったクラスメイト達と合流できなくなってしまうかもしれない。ここは、一か八か潜ってみるしかない。

もう一度、目線をメモ帳に落とす。

『追伸 僕たちは「知恵の実プロジェクト」に選ばれたんです。胸を張りましょう。』

 そこまで読んでメモを畳み、ズボンのポケットに突っ込む。息を整えて、目の前の門を見据えた。考えている暇はない。こうなれば自棄だ。

一歩踏み出し、多少早歩きになりながら門に直進していく。勢いのまま門の格子を掴み、思いっきり開けて一歩門の中に飛び込んだ。

 その時、ふと疑問が頭をよぎる。

 あれ、なんでみんな俺を置いて行ったんだろう。文章にしたって、何だか言い訳じみていた。時間がないとかどうとか書いていたが、時間って——

 はっと脳裏に組合長の姿が浮かぶ。

『しかも!今から三十分以内に象牙の門を潜った方にはなんと!身を守るお守りをお付けいたします!』

 つまり。あいつらお守りに釣られて俺だけ置いてけぼりにしやがった‼

「あんの薄情者共めがああああああああああああああ!」

 その断末魔の様な叫びと共に、海老和日の体は、眩い光に包まれていった。


同サイトでちょっとだけ書いていたものをリメイクしたものです。読んでもらえたらいいなぁ。

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