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第9話 宝の山

 感じた視線、ラットはとっさに振り向いた。

 少し離れたテーブルに、艶のある黒髪を肩に流した、自分と同じ年頃の少女が座っている。


 少女は皿に入ったミルクスープをスプーンでゆっくりと飲んでいる。黒く塗り潰された、無機質な双眸。けれど、ミルクに注がれる眼差しはどことなく輝いているようにも見える。少女の瞳は乳白色に釘付けだ。


 視線は、気のせいだっただろうか?


 立ち去ろうとして、少女の格好に引き止められた。


 柔らかな曲線を覆い隠す、油汚れの目立つ作業着。腰には、工具一式が入ったウエストポーチも巻かれている。ぴんときて、話しかけた。


「もしかして、ジャンク屋の娘さん?」


 少女の瞳がこちらを見る。


「……魔機屋」

「まぎや?」

「アーティファクトに興味があるの?」


 その言葉の意味はわかった。


「やっぱり、そうでしたか。実は僕、アイテム屋を営んでおりまして、アーティファクトにも目がなくって。貴重なアーティファクトがたくさんあると聞いて、これから伺おうと思っていたんです。よかったら、お店まで案内していただけませんか?」


 スープを飲み干した少女は、席を立った。


「……ついてきて」


 店の主人自ら案内してもらえるなど、運が良い。大きな声で返事をしたラットは、少女――店主の小さな背中を浮かれた足取りで追いかけた。





 昼時を間近にして活気づく食事処の平穏を、扉の開閉音が打ち破った。


「おい聞いたか!? 最果ての村で暴れてたあの魔物、新人の冒険者パーティが倒したらしいぞ!」


 駆け込んできた冒険者の一言に、食事処は一転してどよめきに包まれた。


「本当か!?」

「間違いねぇ! 今ギルドで騒ぎになってる!」

「A級向けのクエストでしょ!?」

「C級が倒したの!? どうやって!?」

「そいつら一体何者だ!?」

「のんきに飯食ってる場合じゃねぇ! 俺らもギルドに行って、詳しく話を聞いてみようぜ!」


 食べかけの料理を捨て置き、冒険者たちがこぞって食事処を飛び出していく。


 閑散とした空間に、居残る者が一人。



「へえ。やるじゃないか」



 唯一の客となった紫色の髪の少年は、痛いほどの静寂をものともせず、ナイフとフォークを危うげなく使う。


「見ものだな」


 不敵な薄ら笑いを浮かべ、切り分けた肉を口内へ優雅に運んだ。





 __きらきらと、ラットの世界が煌めいている。


 ジャンク屋……ではない。

 店主曰く魔機屋の周りは、財宝に囲まれていた。


 店の外にまでゴロゴロ転がっている、という槍使いの話は本当だった。右を見ても、左を見ても、どこを見ても、アーティファクトだらけ。高揚を抑え切れず、叫んだ。


「宝の山だ!!」


 駆け出し、黄金へダイブするように突っ込む。アーティファクトを片っ端から奪取し、店主へ訊いた。


「これはどんな効果があるんですか!?」


「これは? こっちは!?」

「これは……」


 店主が一つ一つ、ラットとは相反して冷静に、端的に、しかし丁寧に答えてくれる。説明はアーティファクトの価値をさらに跳ね上げ、身体が一層熱くなる。



「すごい、すごい、すごすぎる!!」



「ああ博士、これほどまでの宝物を生み出したあなたに、ぜひお会いしたかった……! あなたは紛れもなく、大天才です……!!」


 瞬間、アーティファクトよりも、店主の瞳の輝きに魅せられた。陽光の射した瞳がラットを見つめる。だからか、冷めているようで、あたたかい。


「あっ、あんな所にも宝が!」


 別の煌めきに誘惑され、走った。

 辿り着いた時には、宝を手に入れることしか頭にない。無我夢中でアーティファクトを掘り起こす。



 __店主の視線にぽかぽか見守られながら。


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