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第7話 風の鐘

 東の空が明るみ、夜が終わりを迎えようとしていた。


「ったく、遅ぇなあ、ラットの奴」

「まだ日の出じゃないでしょ」

「いや、もう遅刻確定だろ。アイテム屋まで続くこの長い通りに、未だに影すら現れないんだぞ?」


 修復途中の村の入り口で、五人目を待ちわびる。日の出と共に出発という約束だったのに、ラットは影すら見せない。


 あと数刻で日が昇る。背後で暇を潰す仲間たちは楽観的だが、剣士は気が気でない。


「まさかとは思うが、まだ寝てんじゃねぇだろーな?」


 何しろ、昨夜は遅かった。酔いもある。その上、ラットには店じまいという特別作業がある。


 店主という職業上、寝坊するタイプには見えなかったが、これだけの悪条件が揃えばわからない。


「ありえねぇ話じゃねーぞ」


「……ダー、リーダー」


「どうする!? 今から叩き起こしに……いやもう少し待つか!? いややっぱ――」


「リーダー!」

「んだよ!?」


 槍使いの声に振り向く。この忙しい時に。


「いやだって、よかったの?」

「朝ご飯も奢ってくれるって話だったのに」

「律儀にお金払って、えらかったじゃない」


 何だ、そのことか。村を救った報酬として食事処の主人から申し出られた、引き続きの奢り。タダ飯を食べなかったことを、不思議がっている。


「いーんだよ」


 だから、答えてやる。


「だってオレら――冒険者だろ?」


 正当な報酬以上のものは、いらないのだ。答えを知った仲間たちは、一様にきょとんした後、


「リーダー、ばんざーいっ!」

「一生ついていきまーすっ!」

「アンタがまた暴走しないか、私がちゃーんと見張っててあげるわよっ」


 剣士に、揃って笑い返した。直後、陽射しが顔に当たる。


「とうとう日の出じゃねぇか!」


 結局、ラットは来なかった。


「しょうがねぇ。迎えに行ってやるか」

「あ、ここにいます」


「おわっ!?」

「きゃっ!?」

「わっ!?」

「ひっ!?」


 予想だにしなかった声に全員が驚く。


「おまっ、どっから現れた!?」

「この通りを歩いて。やはり気づいていませんでしたか」


「何度も見たぞ」

「一応手は振ったんですよ?」


「これがS級の力……」

「ただ存在感がないだけです……」


 そう言ってラットは苦笑する。


「それにしても時間ぴったりだったな」

「もちろんですとも。新たな旅立ちですからね。寝坊なんてしていられません!」


 元気そうに声を発する。しかし、声のトーン、揺れる身体。どことなく違和感を覚える。


 顔を覗く。血走った瞳に、気づいた。


「お前、さては寝てないな!?」


「こちらマジックバッグと言いまして、店のアイテムくらいなら余裕で入るレア中のレアアイテムなんですが……店中のアイテムを詰め込んでたら、うっかり朝に!」


 真相。寝坊どころか、寝てすらいなかった。


「皆さんはお早いですね!? お待たせしてしまいましたか!? すみませんでしたっ!!」


 一睡もしていないせいか、情緒がおかしい。謝罪とはかけ離れたギンギンの笑顔にたじろぎ、


「お、オレたちが早く来すぎただけだ。気にすんな、なあ?」

「う、うん」

「そうそう」

「ええ」


 受け流す。引きつった笑みで。


 パーティが揃い、いざ出発する。村が遠くになりかけた、その時だった。


「おーーーーい!!」


 降りかかってきた大声に、五人で振り返った。


 映ったのは、村の入り口に集まる村人たち。中心に立つ村長が、口を大きく開ける。


「気をつけてなーー!」

「いってらっしゃいませ、ラットさんー!」

「お帰りお待ちしてますー!」


 仲間たちの目が剣士とラットを見る。期待に応え、ラットと並んで息を吸った。


「お前らもなーー!」

「いってきまーーす!」


 振られるたくさんの手には全員で返し、黄金色の空の下へ踏み出す。絶好調の気分が、剣士に叫ばせた。


「行くぞ! ッオレに続け!」


「おー!」

「いよいよ伝説の始まりね!」

「俺らの大冒険が幕を開けるぞぉ!」


「あ!」


「のわっ!?」

「何ラット!?」

「忘れ物!?」


 深刻そうに、ラットは言った。


「語り明かしてないです!!」

「行くぞっ!!」


 こうして、剣士たちは旅立った。


 重度のアイテム好き、否。



 ――勇者パーティのアイテム係と。



 *

 


 最果ての村――またの名を風見の村ウィアベル。


 精霊たちが自然を育み、人々が精霊と共存する精霊界スピリエラと呼ばれる世界の風の国、その最果てに位置する村。


 村の中央広場には、存在する。


「村長、この音……!」

「ああ、風の鐘だ……!!」


 普段は風の流れを読むために利用されるものだが。大事の前、その予兆を告げる鐘の音が響き渡る、と言い伝えられている。


「大事が、起きるというのか……?」


 村を駆け抜ける突風は、英雄たちを見送る村長の耳へと、村全体へと鐘の音を届ける。



 

 それが何を暗示しているのか、今は誰にもわからない。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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