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第6話 S級冒険者

 夜闇が村を覆った頃。戦いの爪痕を月光に癒やされながら、祝宴は開かれた。


 会場の酒場は、男衆が堪能する酒や、女たちが次々と運ぶ山盛りの手料理により、芳しい匂いで満たされている。


 絶えぬ乾杯、舌鼓、笑い声。民謡に乗って幼子が踊る。すっかりできあがった仲間たちを横目に。剣士は、贈られた新しい軽鎧を装備し、ラットと勝利の美酒に酔っていた。


「は〜、じゃあ魔王を倒してから、ずっとこの村でアイテム屋やってたのか」


 先輩の治療や魔物の屍の処理、元々の目的だったゴブリンの討伐など、やるべきことが多かったため、こうして一対一で話すのは握手以来だ。


 乾杯するなり本当に始まったアイテムの魅力語りを経て、今はラットの身の上話を聞いている。


「アイテムの魅力を広めたくて!」

「けど、お前のアイテム屋、ないもの扱いだったぜ」


 食事処での村人たちを思い返す。アイテム屋は村に一軒のみ、という言い方だった。


「怖がられてしまったんです。僕は普通に接客してただけなんですが、なにぶん存在感がないので」


「声をかけては逃げられるのを繰り返す内に、あのアイテム屋は出るだの何だの、ウワサを立てられてしまい……」


 苦笑したラットは、酒をぐびぐび飲んだ。成人ほやほやの割に、意外といける。


「あの、めちゃくちゃな数の張り紙は……」

「まったく寄りつかれなくなってしまいましたから、どうにかして呼び込もうと。正解でしたね!」


(いや不正解だろ)


 心の中で突っ込む。


 剣士たちが入店したのは、追い詰められていたからにほかならない。通常は逆効果である。真実は、しかし正解と信じ切る無邪気な笑顔の前に葬られる。


「張り紙はともかく、蔦と看板は何とかしろよ」

「うっ」


「呼び込みたいんだろ?」


 アレらを直すだけでもマシになるはずだ。


「やらなきゃやらなきゃとは思ってるんです……! けどアイテムが……アイテムの管理が、たの、いえ、大変で……!」

「楽しくて」

「たいへんで……!!」


 バレバレの演技で誤魔化している。惜しい。


(アイテムの知識は間違いなく……)


「S級なのになあ」


 酒に口をつける。


「わ、僕がS級冒険者だってどこで聞いたんですか?」

「げぼっ!」


 むせた。


「大丈夫です!?」


 狼狽えるラットの前で咳を繰り返す。落ち着いた頃、見返した。


「……S級!?」

「まっすぐに言われると照れますね」


 頬をぽりぽり掻きながらラットがはにかむ。


「いや……そうだよな……! S級じゃねぇ訳ねぇよな……!」


 神業と称えられるほどのアイテム捌き。アイテムを武器とするなら、ラットは紛れもなくS級冒険者だ。


 ガタリと席を立つ。


「もう一度握手してくれ!」

「あ、はい」


 差し出した片手に触れた小さな手と、改めて握手する。


「S級……ははっ、本当にいたんだ……!」


 離した自分の手を握り締める。あまりの熱さに、男泣きしそうだった。


「飲んでるかぁ、英雄!」


 肩を勢いよく抱かれ、感慨を吹き飛ばされた。絡んできた酔っ払いは、


「おう村長!」

「好きなだけ飲めよ〜? 今夜は村の奢りだぁー!」

「へへっ、タダ酒に乾杯!」


 乾杯して飲み直す。


 同じタイミングで、ぷはーっと酒臭い息を吐いた。拳を向け合っていた奴と飲み交わす仲になるとは、本当に何が起こるかわかったのものではない。


「あっ、ラットさん!」

「ラットでいいですよ」

「勇者パーティーの御方を呼び捨てになどできません!」


「この村を見守ってくださっていたのに、ぜんぜん、まったく、ちっとも気づくことができなかった父を、私を、どうぞお許しください!」


 酒を置いた村長が頭を直角に下げる。


「気にしないでください。あるあるです」

「すげーあるあるだな」


「さすが勇者パーティ、懐が広い……! 村がこうして無事なのは、ラットさんのお力添えのおかげです! 改めましてありがとうごさいます!」


 びしりともう一度お辞儀が決まる。


「被害が最小限に済んでよかったです」

「くぅ〜っ、お優しいラットさんにかんぱーいっ!!」


 感涙して一気飲みをした村長は、浮かれた足取りで喧騒の中へと消えていった。


「で、これからお前はどうすんだ?」


 再度二人きりになったところで、切り出した。


「先輩の容態も良さそうだし、オレらは明日の朝、旅立つ予定だけど」


 ラットがどう出るのか、気になる。


「勇者パーティの一人が大怪我を負ったってウワサもあるしよ。仲間としては、放っとけねぇんじゃねぇの?」


「実を言うと、店を閉めて、会いに行こうと思ってます」

「仲間に?」

「勇者に」


 勇者。


「王都に住む彼は、情報を一番持ってますから。怪我は大丈夫なのか、彼ならきっと、教えてくれるはずです。それに彼には加護がありますしね」


 ラットの行き先は――王都。


「ならよ、一緒に行こうぜ」

「いいんですか!?」


 席を派手に鳴らされ、見えない位置で拳を握る。乗り気だ。


「オレらもちょうど、王都を拠点にしようと思ってたんだ。お前が一緒なら、これほど心強いことはねぇ」


 決まりである。駆け引きの快勝を祝って酒を呷り、


「いやあ、正直言うと助かります。前の冒険では、宿屋とか、一人だといい顔されなかったんですよ。普通に通してくれたらいいんですけどね、もう十八ですし」


「ブーーーーッ!!」


 噴いた。今度こそ。


「――十八ぃ!?」


 一番の衝撃だった。


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