第40話 〝コイバナ〟を所望する
リオンに訊かれ、ラットは天井を見上げる。
「アーティファクト……の話をしてたね」
「それだけ?」
「あと、アイテムの話を……」
「ずっと?」
「うん」
「ミルは?」
「無表情だった……」
リオンが腕を組む。
「それ引かれてないか」
ラットは目を伏せた。
「……ですかね」
「ラットはミルのことどう思ってるんだ」
ラットは目を泳がせながら答える。
「可愛い……とは思う」
リオンが机を叩いた。
「だったらもっと攻めろよ」
「攻める?」
「面白い話をするとか、この花綺麗だねとか、なんかあるだろ?」
バン__
リオンの言葉に熱が籠り、机をさらに叩く。
「ガンガンアプローチしろ」
「リオン、酔ってる?」
「水でどう酔うんだよ」
シラフで詰め寄っているらしい。
ラットは眉根を寄せて首を傾げる。
「いや、可愛いとは思うんだけど、好き……と言うか、これが恋愛感情なのかよくわからなくて」
「おいおい、そんな悠長なこと言ってると誰かにとられちまうぞ」
「そう言うリオンはどうなのさ?」
「俺か?」
「まさか……ミルが、タイプなの?」
「俺はやっぱり年上のお姉さんだよ」
リオンは不敵な笑みを浮かべ、語り出す。
「ミルやこの宿のポニさんもかわいいとは思うよ。だけど、年上のお姉さんのあの色気には敵わないかな」
「王都なら一番出会いがありそうな」
「いるにはいるんだよ。だけど、話しがたいっていうか、高値の花って言うか……俺が手を出していいような、そんな雰囲気じゃなかったんだよ」
「リオンこそ、何もできてないじゃないか……」
ラットはジトっとした目でリオンを見つめる。
「はは、違いない……。お互いがんばろうな………」
リオンは少し間を置き、手をかざした。
「ポニさん、このチーズたっぷりミートパイってやつお願いしまーす!」
「は~~い」
「まだ食べるの!?」
「うまいからな。こうなったら、いけるだけいく」
リオンは若干やけになっているように感じる。
「それにしても、ミルって本当に表情が変わらないよな~。あ、悪口じゃないぜ。
二人のやり取りは結構見てたんだけど、ラットばかりがリアクションしてて、ミルが退屈そうにしてるような、そんな感じに見えたんだよ。
もちろん感情がないからそういう裏がないってのは理解してるぜ。ただ事情を知らない奴から見たらって話だ」
「あ~、やっぱり他の人から見ると、そんな感じなのかな?」
「ん? どういうことだ?」
「確かにミルは表情の変化は少ないけど、完全にないって訳じゃないんだ。
嬉しい時は柔らかい表情になったり、怒っている時は少しだけ頬を膨らませたり、悲しい時は顔の力が完全に抜けたような表情をしたりしてるよ」
「よく見てるんだな。全然気が付かなかった。んん? でもそれじゃ、感情があるように聞こえるぜ」
「それなんだけど、ミルは起伏が少ないだけで、〝ない〟訳じゃないと思う」
「本人は感情がないって言ってたよな?」
「だから、ミル自身、自覚がないんじゃないかな」
「無自覚か……」
「ここからは推測なんだけど、おそらくミルは造られたばかりの頃は、もっとそれこそ完全にほとんど無反応だったんじゃないかと思う」
「それじゃあ……」
「きっかけがあったんだよ。長い間、博士と過ごす内に、今の状態になった」
「なるほどな」
「だからこそ、博士は最後に『経験することで、感情は得られるかもしれない』っ言ったんじゃないかって」
「よくよく考えれば、さっきの受付での時もそうだもんな。あれは俺でも動揺してるのがわかった」
納得したリオンは、次いで訊いてきた。
「本人には伝えないのか?」
ラットは少し間を置き、答えた。
「まだ確証がある訳じゃないから。
それにこの話をすると、昔のことまで聞くことになる。
おそらく聞いたら教えてくれるとは思う。
ただ感情がしっかりあれば本人の内に留めておきたいことも、今の状態のミルじゃ、すべて話してしまうんじゃないかって。
感情が未熟な状態であることに付け込んで、すべて聞き出したくない。
本人が伝えてもいいと本当に思った時に、聞きたいんだ」
そんな話をしていると……
「お待たせしました! チーズたっぷりミートパイです!」
ポニが料理を届けにやってきた。
「お~、これもうまそう!」
リオンが早速料理に手を付けようとした、その瞬間。
ポニが前屈みになる。
「さっきアプローチ……とか、好き……とか、話されてませんでしたか?」
ひそ、と二人に耳打ちしてくる。
「私も〝コイバナ〟聞きたいです。興味あります!!」
目を輝かせる彼女。
「誰ですか? 相手はミルさんですか? 好きなのはどちらですか?」
「実はさ……」
悪い笑みを浮かべたリオンが口を開こうとする。
(まずい__)
その時だった。
「ラット!!」
ミルがついに、整備を終えてやってきた。
――助かった。
「ではポニさん、クリームシチューとミルクを二人分お願いします。あ、ミルクは先に」
「はい、すぐにお持ちしますね」
ポニは残念そうだったが、即座に笑顔に切り替えた。ちぇっ、と面白くなさそうに舌を打ったリオンも、食べたミートパイに夢中になる。
「ラット!!」
ミルの鼻息が荒い。興奮しているようだ。
「まずは座って。すぐにミルクが来るからね」
「こちらミルクです!!」
ポニがすぐにミルクを持ってきた。
我慢できないというように、ミルはミルクをひったくった。
ぐびぐび飲んだ彼女の顔が、ぽわんととける。
「ミルなら喜んでくれると思ったよ」
ポニと笑う。次いで、ラットは話した。
「実はここのミルクって、ヒーロの店で扱っているんだよ」
「!?」
目を大きくしたミルは、
「味、違った……」
的確に感想を伝える。
「日持ちさせるために殺菌処理をしてるからね。やっぱり搾りたては格別だったでしょ?」
ミルはすごい勢いで首を上下させた。
「勇者さんと言えば、ここしばらく姿が見えないんですよね」
ポニが心配そうにラットに打ち明けてきた。
「怪我とかではないんですが、事情がありまして。しばらく来ることができなくなってしまったんですよ」
「そうなんですね。お怪我されてないようでしたら、よかったです」
あえて心配させるようなことはない。
ラットは詳細を語るのを避けた。
「おかわり」
ミルは既にミルクを飲み干していた。
__くすっ
ポニが笑い声を漏らす。
「気に入っていただけてうれしいです。多めにお持ちしますね」
それから料理も運ばれ、ラットとミルも極上のホワイトソースを遅れて味わった。
食事が落ち着いた頃、ラットは真剣に切り出した。
「これからの話なんだけど__」
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