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第4話 冒険者の本質

「……いや、どんな冗談だ!?」


 叫んだのは村長だった。


「どう見ても君、ただの一般人だよね!?」


 村長と、剣士も同意見だった。


 目の前の店主は、どう見ても強いとは言えない。


 小さく薄っぺらい身体に、生っちろい肌。威厳なし。貫禄なし。とことんなし。存在感すらなし。


 弱い。圧倒的に。


「それともあるのかい? 加護が!」

「えと、加護はないです。ないですが、」

「ないんだろう!?」


 やはり、ただの一般人だ。


「笑えない冗談はやめろよ!」

「成人ほやほやだからって、見逃してもらえると思ってんのか!?」


 村人たちの怒りももっともだ。七人目などと、先程のインチキ商売と言い、タチが悪すぎる。


「いえ冗談ではっ、あと僕はこれでもじゅう」

「君は下がっていなさい!!」

「わぷ」


 村長に押しのけられ、店主が退場する。


「勇者パーティなんて、デマでしかないってことだ……!」


 最後の希望すら、消えた。


 ――ズシン。地面が揺れた。


 肩を跳ね上がらせて入り口を見る。周辺一帯の破壊を終えた魔物が、こちらへと目をギラつかせて向かってきている。


 __ズシン。ズシン。


 散乱する木片を踏み砕きながら、迫る。絶望が、村人たちへ。


「ひっ……!」

「もうだめだ!」


 乱れ飛ぶ悲鳴の中で、項垂れる。


 終わった。

 村人たちも。

 剣士たちも。

 ここで。


 死――


「戦ってくれ!」


 悲鳴をかき消した一声に、もう一度、顔を上げた。


 村長が、剣士の前で、剣士と同じように。地べたに、額をぶつけている。


「か、勝てねぇって言っ」

「勝たなくていい!」

「……なに?」


 間抜けに聞き返した。


「時間を稼いでくれるだけでいい! 俺がみんなを村の外に逃がすまで!」


 それまでの間だけ、戦ってくれと言う。


「父さんに託されたんだ。大切な村のみんなを、こんなところで死なせる訳にはいかない。死なせたくない」


 頭を下げてまで。


「俺がみんなを守る。だからお前は戦ってくれ。俺は剣どころか何も使えない。A級はやられた。自警団もいない。勇者パーティもデタラメ。ッお前しかいないんだ!」


 猛者であると大口を叩いていた奴が、その実、自分と同じ青二才だった。殴り飛ばすはずだ。罵り、唾をかけるのが普通だ。


 けれど、彼はそうしない。

 ドス黒い感情を抑え込み、剣士を許した。

 震えを、涙を抑え込み、自らも立ち上がると言い出した。


「頼む! 立ってくれ! 剣を抜いてくれ!」


 村のために。

 勇気を出して。


「俺と一緒に、戦ってくれ!!」


 ――訓練生時代にちやほやされて、調子に乗ったか?


 先輩の声がする。


 ――冒険者の本質は、


「戦おうよ!」


 仲間たちが、立ち上がった。


「お前ら……」


 見限った目にさらされていると思ったのに。三人の瞳は、光をまったく失っていない。


 弓使いが続けて口を開く。


「新人だからって、この中で一番強いのには変わりないんだ」


 だから全員、同じ眼差しで、剣士を見ている。


「このまま何もしないで死ぬなんて嫌だよ!」

「一般人がここまで言ってるんだ。俺たちだって、やれるさ!」

「立ちなさい」


 魔法使いが一歩踏み出した。


「ここで立たなきゃ、本当に山賊で終わりよ」


 差し出してくる。剣士の頬を叩いた手のひらを。


「立って、冒険者だって証明するわよ! ――リーダー!!」


 掴み、立ち上がった。


「やるぞ! ッオレに続け!」


 付近の地面を踏み潰した魔物へ、剣を抜いて突撃した。


「グオォオオオ!!」


 邪魔者を払うように振り下ろされる魔物の前足。空気を裂いた鉤爪を、横に飛んで躱す。


(躱せた……!?)


 鎧を抉られることは覚悟していたのに、躱せた。


 剣士だけではない。懐へ共に飛び込んだ槍使いも、魔物の連打を間一髪で避けられている。


(一か八か!)


 隙を作った魔物の脇へ斬りかかる。


「グギャア!」


 噴き出す血。――当たった。


(しかも、効いてる!)


「グゲェエエッ!」


 よろける魔物。振り回される腕を掻い潜り、胸に追い討ちが命中する。弓使いの矢まで、当たった。


(ッよく当ててくれた!)


 詠唱を聞き取り、飛び退いた。


<焼き払え――ファイアボール!>


 剣士の視界の端を、烈火が貫く。


「グギィイイイー!」


 燃える魔物。致命打にはもちろんならなかったが、魔法使いの魔法により、魔物は痛々しく焼かれた。


「ギェエエッ!」


 すかさず、槍使いが追撃する。たかが知れているはずの一撃にも、強打のように苦しんでいる。


 身体が軽い。

 魔物の一挙一動がよく見える。

 攻撃が当たる。


 徐々にだが、魔物の動きは明らかに鈍ってきている。


 ダメージを与えられている!


 時間を稼ぐ。それが目的だった。

 生唾を飲む。


(いける……!?)


 だが。


「グオォオオオオオオオオオーー!!」


 咆哮。


 牙を剥き出しにした大口から、赤が覗く。

 反撃の炎の狙いは――避難の指揮を執る、村長。

 走る。


 吐き出された火柱よりも速く、がら空きの背中へ激突した。


 転倒した剣士の視界が、火炎に呑まれる。


(あ)


 確信した。


(死んだ)


 躱すことも、耐え切ることも困難。


 せっかく倒せるかもしれなかったのに。

 巨額の報酬を望めたかもしれないのに。


 誰かを庇って死ぬなどと、ずいぶん、馬鹿な末路を選んだものだ。


(まあ)


 焼き殺される寸前、思う。


(悪くねぇ、か……)



ここまで読んでいただきありがとうございます。


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