第39話 動物大好き看板娘
部屋に荷物を下ろして向かった食堂では、客がちらほら座っていた。奥の席を陣取ってメニューに目を通していたリオンが、ラットに気付いて手を上げる。
広い通りを歩き、リオンの前に座った。
「来たことあるんだろ? オススメとかあったりするのか?」
「ここの特産は酪農だから、ミルクやチーズ、バターを使った料理ならハズレはないよ。中でもイチオシは極上のミルクをベースとしたホワイトソースに、選りすぐりの野菜を加えて、じっくりと煮込まれたクリームシチュー。一度食べたら忘れられなくなるね」
風語りの村ラインブリースは、風の国の中でも風の精霊が多く存在している。その影響で気温や湿度が適度に保たれ、さらには良質な牧草が育つことで、酪農に適した土地となっていた。ここで作られる製品は、風の国の至る所で親しまれている。
「やけに語るじゃん。そこまで言うなら、それにするか! すいませ〜ん!」
呼ばれてポニがやってくる。注文を受けた彼女は、すぐに踵を返した。
彼女の揺れる長い髪を見ながら、思い出す。
ラインブリースでも、この宿の料理がとりわけ有名な理由。それはポニが動物に愛されているからだ。料理の味と動物に好かれていること、一見関連がないようにも思えるが、彼女についてはこれに尽きる。
ポニの世話したニワトリは、彼女の両親が世話したそれよりも格段に美味しい卵を産む。何も変わったことはしていないのに、だ。
森に動物たちと食材を探しに行けば、より質の良い食材ばかりが見つかる。動物たちが集めてくるのだ。時には貴重なものまで。
他にも買い物に行けば動物たちが良品を目利きしたり、そういうことが度々起きる。言わずもがな、ミルクもそうだ。
それらから作られる料理は正に極上。王都から貴族だけでなく、姫などもお忍びで来たと噂されるほど。
すごいよなあ、と改めて思っていると、当の本人が戻ってきた。
「お待たせしました! こちらクリームシチューです!」
ポニが笑顔で、リオンの前に料理を置いた。
「おお〜、いい匂い〜」
「お口に合えばよろしいのですが」
リオンが早速シチューをスプーンで掬う。息を二、三度吹きかけ、口に運ぶ__。
「なにこれ、うっま!!!!!」
リオンは叫んだ。あまりの反応に、ラットだけでなく、ポニまでびくっと肩を揺らした。
リオンは熱さと戦いながら、一気に料理を食べ尽くした。あっという間で、口を挟む暇すらなかった。
最後に水を飲み切り、リオンは大きく息を吐いた。
「いや〜、俺の人生でこれだけ美味い料理は初めてだぜ」
「お気に召して頂いたようでよかったです」
リオンの食べっぷりと感想を聞き、ポニはご満悦だ。
「お腹いっぱいになりましたか?」
リオンは腹をさすりながら、一瞬だけ考えた。しかし、考えるまでもなかったようだ。
「これだけうまけりゃ、いくらでもいけそうだ」
ぐっと親指を立てるリオン。その様子を見て、ポニが相談するかのように話を切り出した。
「あの~、よかったら私の作った料理も味見していただけませんか?」
「いいのか!?」
リオンが飛び付く。
「はい! すぐにお持ちしますね」
ポニは、本当にすぐに戻ってきた。
「グラタンか……」
__ゴクリ
と唾を飲んだのはリオンだけではない。
チーズが焼けた香ばしい香り。
とびきり美味しそうな匂いに、ラットもまた喉を鳴らす。
待ち切れないようにスプーンで掬ったリオンを、ポニは真剣な眼差しで見つめている。
「うまいっ!!」
一口食べた途端、リオンはまたしても叫んだ。
「いや、匂いの時点で、食べるまでもなくうまいのはわかってたよ。それでもつい口に出ちまうくらい、うまいっ!!」
そう、食べなくてもわかる。盛りだくさんの野菜と肉。染み出す旨みと絡むホワイトソース。何より、たっぷりと塗された、とろけたチーズ。シチューと同様に極上のミルクで作られたグラタンは、店の看板メニューですと言われてもおかしくないほどだ。
「よかった〜」
がつがつと食べ始めるリオンに、ポニは安堵したように肩の力を抜く。
ぴい__。
鳴き声がした。
「チリリ! お客様に喜んでもらえたよ。頑張って練習してよかったね。チリリもありがとっ!!」
飛んできたチリリにポニは抱き付いた。
「ポニさんも料理を始められたんですね」
微笑ましい光景を見ながら、ラットは問いかけた。
「そうなんですよ。元々、手伝いはしていたんですが、少し前にお前も一品出せって言われて……一品出すってことはその料理の評価って完全に私のものじゃないですか。もう不安で不安で……」
空のトレイを抱きしめるポニ。
「もうすぐお父さんたちに批評してもらうから、知り合いの方がいてくれてよかったです」
知り合いのラットを見つけ、批評の前に第三者の意見を聞きたかったらしい。これで試作段階というのが、この店のレベルの高さが伺える。
「ラットさんの分は後でお持ちしますね。リオンさん、ありがとうございました」
ぺこっとお辞儀をした後、彼女はスキップをしながら戻っていった。
「はふはふ……そう言えば、ラットは食べなくてよかったのか? めっちゃうまいぞ」
料理を口に頬張りながら、リオンが話しかけてくる。
「僕はミルが来てからいただくよ」
「……悪い、先に食べちゃって」
「大丈夫だよ。僕がそうしたかっただけだから。それに待ち切れなかったよね。よだれ出てたよ」
「ん……まあ………」
見透かされているのが気まずいのか、リオンの目が泳ぐ。
「どちらにしろ、それほど時間はかからないと思うよ」
「どうしてだ?」
「さっきミルクを持って行った時、一口飲んで目の色が変わってたから。きっと今頃ものすごい速度で整備してるよ」
「何だよ。ミルのことならわかってますって口ぶりだな」
「そ、そんなことないよ」
今度はラットの目が泳ぐ。
しばらく沈黙__。
〝ミル、可愛いよな〟
リオンの唐突な言葉に、手が止まる。
「無口だけど、声はそよ風みたいで心地いいし」
「……」
「目はジトってしてるけど、あの大きな黒い瞳でまじまじ見られたらドキってするよな」
「…………」
「無表情だけど、童顔で可愛いし」
「リオン? ちょっと悪口も入ってない?」
「あと、胸も大きい!」
「リオン!!」
ニシシ__とリオンが笑う。
「戦闘中、揺れるの気にならなかったのか?」
ラットは視線を逸らす。
「……戦闘中なので」
「俺はちょっと気になった」
一口、水を飲んだ。
リオンが椅子に寄りかかり、両手を頭の後ろで組んだ。
「二人で王都まで旅してたんだろ?」
「そうだね」
「どんな感じだったんだ?」
ラットは天井を見上げ、二人での旅を思い出す__。
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