第36話 狙撃手の攻略
マジックバックの中。
機械が剥き出しになったミルの腕に、ラットは顔をしかめる。
「これじゃあもう、戦闘は無理だね……僕とリオンさんで何とかこの場をやり過ごすから、ミルは鞄の中で休んでて」
ミルは首を振る。横に。
「平気」
「けど、その怪我じゃ……」
「き、機械!? え? え? どういうこと?」
「そういえば、まだリオンさんには伝えてませんでしたね。ミルはギアノイドなんですよ」
「ラット、ポーション……もらっていい?」
ラットはその言葉に疑問を感じざるを得なかった。
「いいけど……」
鞄の中だ。ラットは走り、いくつかのポーションを抱えて戻ってくる。
「ここにかけて」
ミルは傷口を差し出した。
「失礼します」
ラットは膝をつき、疑問に思いながらも、言われるがままミルの腕を取る。
改めてミルを見るが、彼女はやはり頷いた。
「大丈夫……」
促され、ラットは小瓶を傷口へ傾けた。
「!!」
液体が触れた瞬間、信じられないことが起こった。ミルの皮膚が、ゆっくりと塞がり始めたのだ。
「驚いたよ。ギアノイドにも、効くんだね」
「普通の塗り薬は効かない……。だけど、身体を構築しているナノマシンに、ポーションの魔力が作用してる」
「ギアノイドって確かあれだよな。魔導科学の……。文献で見たぜ。あれ? でも、あれって確かまだ……」
「僕もミルと出会って知ったのですが、完成していたんですよ」
ラットは簡単に説明した。そして、気付いた。
「強化薬も同じ原理?」
今まで何の疑問も抱かずに使用していたが、身体の細胞を活性化させ、能力を上げる強化薬とて、ただの機械ならば効果がないはずだ。
ミルは頷いた。
「だけど、人ほど強く作用しない。回復の時は時間がかかる」
確かにそうだ。
今、使用したのは上級ポーション。すべてかけて、なんとか傷口が塞がってきたかと思う程度だ……。本来なら完治はしないまでも、もう少し回復していてもいい。
(今までの違和感はそういうことだったのか……)
回復の度合いを確かめるため、ミルの手首を軽く曲げる。ミルも小さく息を吐き、腕を上げる。まだ傷口は残っているが、動く。ミルは拳を握り直した。
「ミル、まだ本調子じゃないと思うから無理はしないでね」
「行く……」
「次こそ」
マジックバックの出口へ向かうミルと、追いかけるリオン。踏み出した二人の前に、ラットは立ち塞がった。
「待ってください__」
「ラットくん?」
「先ほど鞄に入る前に煙幕を張りました。リオンさんや僕の奇襲を警戒して、ロックは移動したはずです。外に行ったところで、ロックはいませんよ。攻撃の要のミルは負傷させましたからね」
「わたし……囮になるよ?」
「確かに、ミルのスピードで注意を引けていたよ。でも慣れてきてるし、同じ手は間違いなく警戒されているかな」
ロックは伊達に死線をくぐり抜けてきた訳ではない。それにミルの負傷を考えると、成功する確率はかなり低い。
「じゃあ、どうするんだ?」
「向こうも姿を見失ってるはずです。このまま出ていけば見つかって的になるだけですが、出ていかなければどうなると思いますか?」
リオンは腕を組み、目を閉じた。
「辺りを一掃する?」
「なくはないですが、可能性は低いでしょう。ここは王都からも近いので、そんなことをすれば大騒ぎになってしまいます」
「あー……」
「指名手配となっているヒーロが相手なら、それだけの事態になってもおかしくはないですが。僕たちは陛下から見ればただの小者です。そんな小者を相手どって、王都近辺を破壊しようものなら、騎士たちが黙ってはいない」
「うーむ」
「特に今はヒーロを追うのに躍起になっています。国側についているとは言え、そんな状況下で騎士たちに余計な手間を取らせたなんてことが発覚すれば、どう咎められるかわかりません」
つまり、闇雲に攻撃を仕掛けてくる、という行動はない。
リオンが眉根を寄せる。
「さすがにノコノコやってきたりはしないよな……」
「それです!!」
「は?」
ぱちくりと瞬く赤茶色の瞳。どういうことかと訊いてくるリオンに、ラットは身を乗り出した。
「おそらく、ロックは近付いてくるでしょう」
「狙撃手が自分から近付くか?」
「お互いに倒すことが目的なら近付かないでしょう。ですが、僕らの目的は?」
「……逃げること」
気付いたミルが、言葉を挟んだ。
「そう! ロックは既に逃げている可能性を考慮する必要がある。その場合、気付くのが遅れるほど、逃げ切られる可能性が高まってしまいます」
「なるほど! 姿を見せる気配がなければ、近付いて確認するしかない。でも、それでも待ち続けられたら?」
「それも限界があります。時間が経てば夜になる。ロックは鬼族の中でも夜目が効く吸血鬼ですが、完全な暗闇になれば、その夜目も厳しい」
となれば__。
「――やってくるな、ノコノコ」
にやりとしたリオンに、さらに、とラットは続ける。
「本来、ロックは二人以上の戦闘で本領を発揮します。前衛が気を引き、意識が逸れたところにあの威力の精密射撃がくる。けれど、今は」
「……一人」
ミルに強く頷く。
「正直なところ、ロックが一人で助かった。おかげで、付け入る隙が生まれてる」
青ざめたのはリオンだった。
「あれで、アウェーみたいな状況なのかよ。やばいな、勇者パーティ……」
ラットは笑いかけた。
「ロックが一人の時は、最初の一撃で仕留めるか、完全に隠れ続けて隙を狙います。今回のような戦闘は不本意なんですよ。そのような状況を作ったのはミルと、そしてリオンさんの実力があってのことです。自信を持ってください」
フォローにリオンも微かに笑ってくれたのを見てから、告げる。
「作戦を伝えます__」
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