第34話 距離の壁
二発目が、きた。
空気が裂けるというより、一本の線が滑るように伸びる。細く絞られた光のような、弾。
(この弾は!!)
ドッ__
衝撃こそ小さい。
しかし、掲げる盾に激突した閃光は、盾の一部を無駄なく抉り取る。
「さすが、判断が早い。貫通弾__ピアスレイに切り替えてきましたね」
三発目、四発目……同じ音。
抉られ、亀裂が入り、盾はもう原型を留めていない。
「もう保たない! 二人とも、いけますか?」
「うん……」
「お、おう!」
ミルはガントレットを装着し、リオンは剣を抜いていた。
五発目が放たれる。
再度、切り替わる弾。
盾を丸呑みするような大きな閃光。
(範囲弾__ブロードレイ。保たないのを見越して……)
「大きいのがきます。避けて!!」
放たれたと同時、盾から手を離した。
転がり、草葉の陰に身を滑り込ませる。受け止めた盾は砕け、破片が飛び散った。
__ズキ
避け切れなかった。
腕が疼く。
ロック。
常に最善の弾を選択してくる__。
避ける際、遠くの岩陰に見えた影。
右へ退避していたミルが構える。
「……止める」
左隣では、リオンが走り出さんとしていた。
「や、やってやらあ!」
二人同時に、跳ぶ__
閃光を、ミルはスピードで躱し、リオンは剣で捌く。少しずつ、ロックとの距離を詰めていく。
だが、すぐに対処される。
ミルへはブロードレイを放ち、横へ大きく避けざるを得ない状況にさせる。前への進行は許さない。
リオンに対してはピアスレイを。剣で捌こうとすれば、逆に弾かれ、バランスを崩される。追撃のピアスレイを転がり、避けるリオン。彼もまた足止めされる。
それだけではない。合間にくるのは散弾。広く撒かれ、ラットまで炙り出そうとしてくる。
ロック自身も移動し、挟み込むことさえ許さない。
(やはり一筋縄ではいかない)
いくつもの戦闘、いくつもの死線を経て、魔王まで倒した勇者パーティの一人。初めての相手だろうと、即座に分析し、適切な弾で応戦する。
魔王の討伐__
だがそれは、ロックだけではない。
ラットは呼吸を整えた。腕はまだ痛い。だが、痛みを堪え、マジックバックに手を入れた。
バンプガンを抜く。
撃つ。
ミルとリオンへ。
強化水でスピードを増した二人へ叫ぶ。
「今だ!」
加速するミル。
その速度はブロードレイを避け、大きく躱したとしても、次弾がくるまでの猶予を作る。少しずつだが、距離を詰める。
リオンも次いで走り出す。
(魔銃はミルを捕捉するのに手一杯。次の行動は__)
ロックはミルへ銃口を向け続ける。
その傍で発生した赤い液体が集まっていき、塊となった。
「リオンさん、きます!!」
ラットの呼びかけに、リオンは剣を構える。
赤い塊から高圧で放たれた細い流れが、空気を切り裂く音を立てながら、高速でリオンへ向かう。
(やはりきた。ロックの血魔法。移動砲台__タレットレイ!!)
ラットのかけ声もあり、放たれた血液のレーザーを、リオンは弾いた。
「構わず前へ!」
そう。あくまでも主攻は魔銃による狙撃。
ロックは全方位への探知能力がある訳ではない。
ミルとは別方向にいるリオンに対し、牽制しているだけだ。
戦い方は熟知している。
だが、まだ足りない。
近付けばタレットレイの精度は上がるし、ロック自身も距離を取る。
再度、バンプガンを構える。
ロックの魔銃とバンプガン。その用途の違いから射程は圧倒的に魔銃が勝る。バンプガンの射程はその半分にも満たない。撃ち合うことは不可能。
であれば__。
狙いはリオンの手前。
何度も放たれるバンプガン。
着弾する弾。
広がる煙幕__
「ラットくん、ナイス!!」
リオンは煙幕に入り込む。
煙幕はロックまで続いている訳ではない。
だが、身を隠す余地がほとんどなかったこの草原に、ラットは煙幕によりいくつもの障害物を作り出した。
煙幕から煙幕へ。次々と渡り歩くリオン。
ロックは何度もタレットレイを放つが、煙幕に紛れるリオンを捕捉できない。手応えはない。
状況を把握する、ただそれだけだ。
一瞬、ロックは目を逸らす。
瞬間、ミルが突っ込んだ。否、照準を一点に引き付けた。
今まではミルの対処をしつつも、ロックは二人への警戒も怠らなかった。だが、今、それが消えた。
鞄から取り出したそれをバンプガンに装填。
__放つ。煙幕へ。
ミルの接近を食い止めたロック。
銃口をミルに向けたまま、タレットレイで牽制する。
煙に潜むリオンを警戒し、煙幕からは大きく距離を取る。
回り込み近付こうとするミル、紛れようとするラット。
針の穴を通すような集中力で、それらを意識下に置き、攻撃・牽制・位置取りをこなしていた。
だが、見落としていた。
ないものをあるものと思わされていた。
影に射す光__。
ついにロックを捉える。
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