第33話 流転自在の暗殺者
「少数じゃ足止めにもならん、増援を呼べ! 早くしろ! 勇者が逃げるぞ!」
騎士たちの叫び声と鉄靴のでたらめな足音を聞きながら、ヒーロは正面の影__深くフードを被ったその者へ目を細め、得物を観察する。
両手の短剣とナイフ。
それぞれ、形も違う。
片方は細く、もう片方は大きく湾曲している。
あの湾曲、下手に防御すれば歯の部分が当たる。
左右で異なる対処を要求される。
明らかに対人を想定した獲物__
そして、
この風貌と気配の消し方、先ほどの動き。
これは__
〝暗殺者〟
そう、考えてよさそうだ。
と、暗殺者が地を蹴る。
フェイント。潜る、また、死角へ。
最初の一撃を躱す。瞬間、どこからともなく、二撃目が煌めいた。剣で受けようとしたが空を切り、遅れて脇腹を掠める。布が裂けた。
思わず後ろへ跳び、剣を構え直す。
「驚いたよ」
注意するのは形状だけじゃない。急加速したかと思えば、失速する。本当に、不規則な軌道だ。
(……けど)
息を短く整え、全身に覆っていた魔力をさらに巡らせる。
さらに数回、切り結び、次の斬撃が肩や手など数箇所に入るが、痛みはさほど感じない。
「やっぱり、一撃が軽い」
確かに不規則ではあるが、体重はそれほど乗っていない。これなら魔力を厚めに纏えば怖くない。
ヒーロの笑みに暗殺者は一瞬間を置くと、別の短剣を抜いた。
今度の刃は軌道が素直だった。剣で難なく受ける。が……
(なっ!? 重い__)
――衝撃。
重みがのしかかり、足が地面を滑る。その武器の見た目からは予想しなかった重量に目を見開く。
(これは打撃か!?)
重量だけじゃない。手が痺れる。
まるで固いものに剣を打ちつけたような痺れが手だけでなく腕まで伝わってきていた。
暗殺者は連続で刃を叩き込む。
加速。減速。斬撃。打撃__。
武器を即座に持ち替えながら、繰り出す。
多彩な攻撃はいとも容易く防御を抜き去り、ヒーロを捉えた。
だが、ヒーロは崩れなかった。
周辺の風が流れを変え、集まり、ヒーロの体表で渦巻いていく。
<風守>
轟く風が鎧のように纏わりつく。暗殺者の刃が当たるたび、風が受け流し。弾き。守る。
その衝撃に今度は暗殺者の手が震えた。
武器を持ち替える暗殺者の手が止まる。見逃さず、ヒーロは剣を振った__。
咄嗟に受ける暗殺者。
魔力で纏われた両手の武器ごと、押し退け、迫る。
斬られるギリギリのところで、暗殺者は転がるように回避した。
<風刃>
暗殺者がいた地面に刻まれる斬痕。
「どうだい? 魔力じゃなく魔法を纏わせた剣と鎧は。威力も硬さも別次元だろ」
ヒーロは魔法を纏わせる。
魔力は纏わせないよりも、纏った方が優位だ。
それは肉体に纏わせれば、魔力が肉体を活性化させて、本来の肉体以上の力が出せるからである。そして、武器に纏わせれば、固さ、そして鋭さが増す。
ヒーロのやっていることは、さらにその上。
魔力は魔法になることで、元になる魔力自体が活性化してより大きな効果が得られるようになる。それは魔力をまとったときの比ではない。しかし、魔力を纏うのが眠った小動物を抱くようなものなのに対して、魔法を纏うのは獰猛な大型動物を手懐けるようなもの。
それほどに魔法を纏わせるのは難しいが、ヒーロはそれをやってのけた。
ヒーロの言葉に対して、暗殺者は未だ黙秘を貫く。
「無口だね」
溜め息を吐いて会話を諦め、斬りかかる。
地面を抉る連続の風刃。暗殺者は木を蹴り、門の壁面を走り、紙一重で避け続ける。
間合いを取った暗殺者は、魔力をロープのように伸ばし、短剣へと絡めた。
そして、投げ縄のように振り回し、放つ。
「!?」
投擲__。
まだ引き出しがあるとは。
しかし、勢いよく飛んできた刃をヒーロは弾く。
「その器用さはすごいけど、それだけでは魔力と魔法の差は埋まらないよ」
弾いた衝撃でロープは切れ、短剣は宙に放り出された。
宙を舞う短剣。
そこに魔力のロープが伸びる。
空中で繋ぎ合わされた短剣。
さらに、短剣はロープの動きに合わせ、縦横無尽にヒーロを襲う。
「驚いた! 即座に繋ぎ直すことで差を埋めにきたよ。それにこの起動はまるで鎖鎌だね」
弾いては繋ぎ、避けても追ってくる。
しなり、地面を無作為に這いながら何度も何度も襲い来る短剣を、避けては剣で払い続けた。
その時だ。
ロープが回り込み、身体に絡み付いて動きを縛った。
「時間稼ぎにしかならないよ」
再度、風守を発動して、ロープを引きちぎる。
瞬間、ハッとして上を向いた。
真上から一直線に落ちるナイフ。――異様な速度。
上に手をかざす。
<護れ――エアバリア!>
風の壁をドーム状に展開し、ナイフを跳ね飛ばす。
頭上へ注意を向けたその一瞬。
風の壁が展開される直前。
壁の内側に暗殺者が入り込んでいた。
懐から突き上げるナイフ。
死ぬ。
疑いようがない。
相手が、ヒーロでなければ__。
振り返りざま、剣に纏わせた竜巻で凶刃を流す。
軌道を逸らされ、体勢を崩した暗殺者へ斬撃を走らせた。
<風鏡>
斬られる暗殺者。
手からは力が抜け落ち、武器を落とした。
膝をついて息を荒らげる。
「なぜ……」
「やっと喋ってくれたね」
独り言にも飽き飽きしていたところだ。
表情が緩む。
「完全な死角。その上、意識までを逸らしたのに、なぜ気づいたのですか……」
ヒーロは剣を下ろさず、答えた。
__ 風詠み
暗殺者の攻撃をことごとく防げた理由を。
「魔力を風にのせ、周囲の状態を把握していたんだよ」
暗殺者は、笑い返すように息を吐いた。
「相性が悪い。これは勝てませんね」
ゆっくりと立ち上がり、振り向きざまにナイフを投げる。
背後の、門へ__。
ナイフに繋がれたロープを一気に引き寄せた暗殺者は、門を駆け上がり、去っていった。地面に残された短剣には、見慣れないルーンが刻まれている。ヒーロはそれを拾い、自らも門を抜けた。
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