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第32話 しばらくの別れ

 街中は時間が経つにつれ、騒がしくなっていく。

 通りには急ぎ足の影がいくつも行き交っていた。

 ラットから渡されたフードを被り、ヒーロはラットたちの影に隠れながら、路地裏を歩いていた。

 視線は低く、足取りは一定に__。


 昼下がり、こんな路地裏でも多少は人通りがある。何も考えず走ったりすれば、すぐに人目につく。ゆっくりと慎重に、それでも急いで歩を進めていく。

 角を曲がる手前で、ラットは足を止めた。


「ここまでだね」


 ここを抜ければ、南門だ。

 すなわち、ヒーロとの別れを指す。

 ミルとリオンの間に紛れるヒーロが頷いた。


「しばらくお別れだね」


「……さっきから、騎士たちが西門の方へ急いでる」

「多分、師匠のおかげだ。うまいこと言って向かわせたんだよ」

「おかげでこっちは警戒が薄いね。南門にも最低限の騎士はいるだろうけど、ヒーロなら一気に抜けられるよ」


 ヒーロは微かに笑みを浮かべた。


「アイテム、ありがとう。ほんと急だったから助かったよ。これだけのアイテムがあれば、安心して向かえる。それにこのフードもね。本当に僕がもっていっちゃっていいのかい?」

「もちろんです。予備もありますし、そもそも僕はなくても潜伏できますから。ぜひ活用してください。逃亡生活には役に立ちますよ」


 事態は急だった。

 旅支度をする余裕など、もちろんない。

 それを察し、ラットは自分のアイテムを使うようヒーロに提案していた。

 鍛冶屋では時間がなかったため、移動しながら、必要なアイテムをありったけ渡した。


 ヒーロはそのまま笑みを広げようとし、やめた。引き締めた表情で、ラットに言う。


「大丈夫だと思うけど、ロックのこともある。気をつけて」

「うん。ヒーロも無事で」


 拳と拳を合わせる。短い沈黙の後、ヒーロは走る。振り返らなかった。ラットも、それ以上声をかけなかった。少しだけ見送り、ミルとリオンと走り出す。


 __北門へ。





 ヒーロが向かった南門では、空気が張り詰めていた。

 鎧の擦れる音が遠くからでもわかる。門の前には騎士たちが待ち構え、通行人を制限している。

 これ以上隠れる場所がないギリギリまで近付いた後、ヒーロは一気に駆けた。


 距離が詰まった瞬間、騎士たちも気付く。瞬間、巻き起こした。突風が地面を削り、騎士たちの視界を狭める。

 何が起こったのか理解できず、パニックになる集団。阿鼻叫喚の横を、通り過ぎる。


「――勇者だ!」

「門を閉めろ!」

「絶対に通すな!!」


 冷静を取り戻した数人の騎士が行手を阻む。しかし、ヒーロは足を緩めない。聖剣を構え、騎士たちを払う。


 時には魔法も使い、騎士たちを跳び越しながら、門へ向かう。

 追手を阻止するために、放った。


<蹴散らせ――ソル・エアボール!>


 風の球が騎士たちを弾き飛ばす。

 もう少しだ。

 もう少しで、門を抜けられる!

 その時、飛ばされる騎士たちの隙間を縫うように、影が滑り込んでくる。

 フードを深く被った、新手だった。


<叩け――リ・エアハンマー!>


 叩き込んだ風の槌で、かろうじてエアボールに耐えた騎士たちごと吹き飛ばした。

 のに、殺気が、きた。


 死角から走ってきた刃に反応し、身体を捻る。だが避けた直後、別の角度から、きた。不規則な軌道。距離も近い。


 紙一重で躱す。

 躱した、はずだった。


「っ……!?」


 纏っていたフードが斬られ、地面に落ちる。

 あらわになった髪を風が揺らし、頬を冷やす。地面に足を叩き付け、体勢を立て直す。意識を失い横たわる騎士たちの中で、影は冷静に佇んでいる。


 __敵を、ヒーロは正面に捉えた。





 ラットたちが辿り着いた北門は、比較的静かだった。

 門の前で、検問が行われている。騎士たちは一人一人を確認しているが、視線は明らかに別の方向を探している。


 ラットは少しだけ衣服を正し、前へ進んだ。


「どこへ行く」


 ラット、ではなく、リオンに騎士が形式的に尋ねる。


「港町ヴィントシュティレです」


 答えたラットに騎士は目を見開いたが、叫び声は上げなかった。リオンはやや硬い顔付きで、ミルは無表情に頷く。騎士は一瞬だけ三人を見回すと、興味を失ったように視線を逸らした。


「行け」



 __門をくぐり抜けた瞬間、ラットは息を吐いた。だが、足は止めない。


「やはり僕は手配されていないようですね。顔を見ても素通りでした」


「さすがに、ちょっと危険過ぎなかったか?」

「ラット、無謀……」


 二人から責められる。


「まあ、二人の言い分はわかります。だけど、おそらく問題ないとは思ってました。それに指名手配になっているかどうかは早めにわかっていた方がいいですし」

「危険を犯すほどか?」


「はい。例えば野営するとき、追手や賞金稼ぎなど、大勢いに狙われているならどうしても見張りが必要になってきますよね。三人での旅なので負担がかなり大きいです」

「言われてみれば確かにそうだな」


「罠を仕掛けて対策する、とかもありますが、それでも精神的に大きく変わります。それにこの段階なら僕は人ごみに紛れられますし、二人は『他人です』と白を切れば難を逃れられますしね」


「なるほどな、ちゃんと考えてんだ」

「ラット、策士……」


「なんか二人、息が合ってませんか?」


 妙な一体感を感じざるを得ない。


「あっ、すまない。……すみません。お客さんに向かってまた……」


「これからは仲間ですし、話しやすい言葉でいきましょう」

「仲間……」



 __そんな会話をしながら三人は歩く。

 門から少し離れ、視界が開けたところで、耳を掠めた。


 切り裂かれるような――風の悲鳴。


「伏せて!!!」


 マジックバックから引き抜いた大きな盾を、身を投げたミルとリオンの前に突き出す。金属がぶつかる乾いた音が炸裂し、盾が大きく揺れる。


 弾かれた閃光が、地面を抉る。

 リオンが頭を庇いながら息を呑む。


「い、今のって……」

「狙撃です」


(門を素通りできたから、警戒が薄れていました。まさかこちらとは……)


 盾を構えたまま、視線を走らせる。

 起き上がったミルが、一歩前に出る。


「……来る」


 隠れられない、開けた場所。戻ろうにも、門は既に遠い。ロック・スネイクからの狙撃を躱せる逃げ場は、ない。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!!

皆さまからいただく感想や応援が、〝明日もいい作品にするぞ!〟という原動力になっています。


「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけたら、

「ブクマ」や「評価」、「感想」はもちろん、

リアクション(顔文字のやつ)だけでもとても嬉しいです。

感想は一言でも大歓迎です。

どんな形でも反応いただければ、とても励みになります。


毎日7時10分に更新していますので、

明日以降も引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

さらに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、どうぞ応援よろしくお願いします!!



最後にひとつだけ。


▶ これから戦闘回です。引きはいかがだったでしょうか?

良かったところや気になったところなど、一言でもどんな感想でも大歓迎です。


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