第31話 師の想い、弟子の夢
数刻の後、足音が戻ってきた。
扉が開き、店主と、リオンが入ってくる__。
いつもと違う店主の雰囲気から何かを感じ取ったのか、リオンからはいつもの陽気な雰囲気が感じられない。
部屋に入り、勇者やラットと目が合ったリオンは、軽く会釈だけをした。
「おい、師匠。どうしたんだ急に……! 『こい』だけじゃわかんねえよ」
「いいからこっちだ!」
促されるまま、勇者たちの前まで移動していた店主の近くでリオンが立ち止まる。
「リオン!!」
「はい師匠!!」
弟子の本能なのか、店主の呼びかけにリオンは背筋をまっすぐに伸ばした。
店主は腕を組み、リオンを鋭く見つめる。
「ここでの修行は終わりだ。お前はアートベーベンに行け!!」
ぱちくりと、リオンが瞬きをした。
「え?」
一歩前に出ようとするラット。を店主は手で制し、続ける。
「ドワーフの国だ。そこで鍛治を学んでこい」
「ドワーフの国!? っじゃなくて、え、え!? な、なんで急に!?」
憧れの国の名前に一瞬目を輝かせたリオンだが、すぐに止まらぬ瞬きに消える。当然の反応だ。この状況でこの話__話がまったく見えないだろう。
「今の勇者様の状況は何となく察しているな? こっちのラットくんたちが勇者様を助けるためにアートベーベンに行くそうだ」
瞬きは減り、次第に真剣な目付きになっていく。
「ラットくんの手助けをしてやれ。勇者様に、恩を返すんだ」
店主の眼差しが、ふっと和らいだ。
「いい機会だ。向こうで修行してこい」
店主の笑みにリオンは口を開き、しかし閉じた。少しの間を置き、再度、口を開く。
「いいのか?」
「どういう意味だ?」
「俺みたいな未熟者が鍛治の最高峰、ドワーフの国に、行っていいのかなって」
リオンは目線を逸らす。
「俺はここで修行している身だ。その看板を背負っていったことで、師匠の顔に泥を塗らないか心配で……わっ!?」
店主の大きな手が、リオンの赤茶の髪を掻き回した。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ! 俺が何も知らないとでも思っているのか?」
髪を、リオンの心配を、店主は笑ってぐしゃぐしゃにする。
「仕事が終わってからも毎日毎日寝る間際まで試行錯誤。休みといえば出かけるでもなく、一日中鍛冶鍛冶鍛冶鍛冶……。違うことやってるなと思ったら、使用感を試すための素振りや試し斬り__」
手を離すと、優しい瞳で告げた。
「とっくに、認めてる。俺がお前に教えることは、もう何もねぇ」
「師匠……」
「それに、お前の鍛治に対する貪欲さは、ここだけじゃ収まらねぇと思ってんだ」
そして笑みを消し、腕を組み直す。
伝える。
彼の師として、最後の命令を。
「改めて言うぞ。いい機会だ。向こうで修行してこい!」
リオンは一度だけ鼻をすすった後、姿勢を正し、返事をした。
「はい!!」
笑みを浮かべたラットに店主は視線を向け、頭を下げる。
「嬢ちゃん、ラットくん、リオンをお願いします……」
「……任せて」
「死なせません。決して」
その瞬間だった。
店の入り口の方から、騒がしい声が響いてくる。
「おい、出てこい!」
騎士の声に、空気が一変した
店主が舌打ちする。
「入るのを見られていたか? 慌ただしくてすまねぇが、すぐに裏口から行ってくれ」
目を合わせて頷き、示された裏口へ動く。
「師匠……」
リオンだけが、ついてこない。
「言い訳は任せろ。俺の教え、忘れんじゃねぇぞ」
店主が振り返らずに店へ戻ろうとした時、
「親父!」
店主の足が、止まった。
「ありがとう」
リオンへ振られる、大きな手のひら。店主と別れ、リオンもまた、ラットたちを追ってきた。
裏口を四人で抜け、外へ静かに出る。冷たい空気と一緒に、声が流れ込んできた。
「ここに勇者が入るのを見たと聞いたぞ! いないんじゃなかったのか!?」
ヒーロが足を止めた。
うまく誤魔化し切れるならば、いい。だがもしも、誤魔化し切れなかったら、匿った罪として、店主も――。そんな風に揺れるヒーロの肩を叩いたのは、リオンだった。
「勇者様、ここは師匠に任せましょう」
「リオンさんの言う通りだよ。行こう」
ヒーロはまだ揺れていたが、リオンとラットの言葉、そしてミルの頷きに促され、走り出した。
*
「ここに勇者が入るのを見たと聞いたぞ! いないんじゃなかったのか?」
「何だ、藪から棒に。嘘なんて吐いてないさ」
「見間違いだと言うのか? あの勇者を誰と見間違うと言うんだ?」
「確かに勇者は来たさ。だがそれは、あんたらが来る前の話だ。預かっていた装備を受け取ったら、すぐに出ていったよ」
「装備?」
「うちは鍛治屋だぞ。調整を依頼されていたんだ。何かおかしなことがあるか?」
「……勇者はどこに向かうか言っていなかったか?」
「知らねぇよ。お客の行き先なんて、いちいち聞かねぇしな。……あ、」
「何か思い出したか!?」
「そう言えば、窓の外を見ながら、西って呟いてたか……?」
「西……西門か!」
騎士は勢い良く振り向き、叫んだ。
「西門だ! 兵を集めろ!!」
遠ざかっていく騎士たちの背中を、店主は見送った。
やがて足音が消えた頃、息を小さく吐く。
「ありがとう、か……」
思い出すのは、弟子の最後の言葉。
(こっちの台詞なんだよ)
ありがとよ、リオン。
最初は、死んじまったあいつのためだった。
けど、お前のおかげで、俺の鍛冶屋は賑やかになった。
お前の成長が、楽しみだった。
毎日毎日、笑って暮らせたぜ。
だから、死ぬなよ。
叶えてこい、お前の夢。
「頑張ってこいよ……リオン」
弟子へ――息子へそう呟き、青空を見上げた。
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