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第28話 最新式のマナベル

「それじゃあ、これからどう動くか決めていこうか……と、その前にまずは王都の動きからかな。おそらく僕の国家転覆を歌っているってことは逃げ切れたとしても指名手配にはするだろうね」


 ヒーロは作業台の前に立ち、


「そうだね。ここまでやっておいて逃げられたらそのままってことは考えられない」

「ただ、国王の口ぶりだとラットをかなり軽視していたよね。となれば、ラットは指名手配にされない可能性がある……僕の発言を止めたのはナイス判断だったね」


 話をしながら簡単な地図を広げていく。


「それを踏まえた上で、これからどう動くか……」


 ラットはその横から、ミルは少し離れた位置から、地図を覗き込む。



「まず、仲間の場所を整理しよう」


 ヒーロの指先が地図の一点を叩く。


「トトは僕たちと同じ風の国、獣人の首都、シュトゥルム」

「獣人たちをまとめる八人いる長、その中の一人の娘だからね」


 ヒーロは頷き、すぐ隣に指先をずらす。


「エレは水の国、聖樹の街フルーテン」


 指先が飛ぶ。


「シールは地の国。ドワーフの首都である大地の城塞アートベーベン」


 地図の上で指が止まる。そこだけ少し強く押さえられるのを見ながら、口を挟む。


「ラピは……」

「相変わらず放浪中なんだよ。だから僕も居場所を知らないんだ。こんなことなら細目に連絡をとっておけばよかったね」


 沈黙__。

 ラットは唇を引き結び、地図を見つめた。


「しょうがないです。今後は定期的に連絡をしていきましょう」


 頷いたヒーロは、地図に再び視線を巡らせる。


「そして、僕たちがいるのが風の国の首都、ヴィントホーゼ。まずここから北東に向かい、水の国への連絡船が出ているヴィントシュティレを目指す」

「これが、ヒーロが向かえない最大の理由だね」

「王都管轄だし。規制して、勇者の渡航なんて確実にさせないよ」

「密航はできるかもしれませんが、万が一にも海の上で見つかったら目も当てられませんよね」

 

 ヒーロの両手が降参するように持ち上がる。

 だが、ラットなら。


「指名手配されていないラットなら、いや、例え指名手配されたとしても問題なく抜けられる。海を渡れば、水の国だ。フルーテンまでは険しい道だが、僕と共に旅を続けたラットならいけるだろう」


 ヒーロの言う通り、まずは隣接する水の国を目指すのが効率がいいだろう。

 だが、理解しているが、頷けない。


「けど……もし敵の目的が勇者パーティの襲撃だった場合、もっとも危険なのはシールだよね」


 ひた、とヒーロの視線が顔に止まる。


「理由は?」

「水の国には兵団もいるし、エレもいる。危険な状態とは考えにくい」


 ラットの意図を口にしたのは、ミルだった。


「……守りが厚いってこと?」


 頷いたラットに、ヒーロが息をゆっくりと吐いた。


「アートベーベンにも騎士団はいるだろう?」

「でも、シールは大怪我をしている」

「俺の回復魔法で致命傷は治したとも言ったよね?」

 

 バーでのやり取りが頭に浮かぶ。

 

「山を越えて、今は徐々に回復してきているはずだよ」


 それでも、ラットは首を横に振る。


「もう一つ、理由がある」


 ヒーロの視線が先を促す。

 

「彼の性格や戦闘スタイルだよ。エレは精霊魔法使い。つまり、後衛だから倒すためには兵団を掻い潜る必要がある。だけど、シールは前衛の上、進んで敵に立ち向かっていく。それに、追い詰められた際は殿を率先して請け負うのが彼だ」


 静かに、しかしはっきりと告げる。


「騎士団はもちろん、強力だ。だからこそ――狙うなら、その軸が弱っている今を逃さないと思う」


 ヒーロは目を閉じた。

 思案するようにしばらく瞑った後、開く。


「わかった__、水の国は素通りして、シールとの合流を優先する」


 わかってくれた相棒に、ラットは笑う。


「よし、これで当面の方針は決まったね」



 だけど……


「一つだけ懸念点があります」



「なんだい?」


 ラットの言葉に、ヒーロは続きを促した。


「連絡手段です。シールと合流できれば、マナベルを借りて連絡できるけど、それまでは長い期間、別行動になる。状況の変化に対応できない」


 マナベルを持つ勇者や他のメンバーは皆、マナベルを持っているから連絡が取れさえすれば、状況の変化に対応できる。しかし、ラットは違う。マナベルを持っていない。


 移動している間に

 

 __ヒーロに何かあったら?

 __仲間たちが移動していたら?


 ラットたちはそれを知る由がない。



 __にやり

 それを聞いて、ヒーロが不敵に笑った。

 腰の革袋から、小さな箱を取り出す。


「これを渡そうと思ってた」


 受け取った箱を開くと、耳飾りが収まっていた。


「これは?」

「マナベルだよ。それも魔法都市で出たばかりの最新式だ」

 

 一瞬にして、視界が輝いた。


「マナベル!? これが!? っすごい!!」


 マナベルということは、耳飾りのように見えて連絡ができるのだ。通信魔法と技術の結集。あまりの素晴らしさに、手が震える。

 ヒーロは笑いを堪えながら、自らの耳をちょいちょいと指す。


「耳にかけることで両手がフリーになる。戦闘中でも使うことができる」

「いいの? もらって」

「もちろんだよ!」


 破顔した彼は、次いで、いつもの大きなマナベルを取り出した。

 

「本当はもっと早く、陛下から預かったこのマナベルを渡すつもりだったんだ」


 ヒーロの話には、覚えがある。


「だけど、最果ての村……ウィアベルへ行っても、『ラット・クリアノートなんか知らない』って。そのまま渡せず仕舞いさ」

「来てたの?」

「何度もね。けど行くたびに誰に話を聞いても同じ返答。そうこうしている内に最新版が出た訳さ」

 

 苦笑する。

 ラットはあの村では幽霊扱いだったのだから、会えなかったのも無理はない。


 (勇者パーティの一人がいるって噂……あれはヒーロが探していたからか……)


 なぜ勇者パーティの一人がいるって噂なんかが立ったのだろうとは思っていた。しかし、これで合点がいった。



「……王さまからのプレゼント?」


 話が見えなかったらしいミルが、久しぶりに口を開いた。


「プレゼントと言えば聞こえはいいんだけど、実際は陛下が有事の際にヒーロたちを呼び出すための物だね」

「面倒事を押し付けられる呪いのアイテムさ」

 

 ヒーロが冗談めかして言う。


「ラットは受け取らなかったの?」

「……存在感がなくて」

 

 視線を逸らし、頬をぽりぽりと掻く。口ごもるラットの代わりに、ヒーロが後を継いだ。ふふっと笑って。

 

「マナベルを発注した人がラットを人数に入れてなかったんだよ。余分がなくて、後日ってことになったんだ」

「ラット……」

 

 ミルの呟きに、あるはずのない痛々しさを感じた。


「ちなみに……こっちの古い方も、もらっていい?」

 

 ヒーロは笑みを強くした。


「ラットらしいね」


 いいも何も、元々ラットの物だよ。そう笑って手のひらにのせられた重みに、幸せの溜め息が漏れる。

 

「これはこれで趣があって素晴らしい!! ぜひ僕のコレクションに加えたい!」


 右に新型、左に旧型。陽光と重なって輝く両方のルーリックを、ぎゅうぎゅうに抱きしめた。


「ミルさんにもあげる」

「わたしにも?」

「うん。さっきもいったように戦闘にも便利だからさ。それでラットを助けてあげてくれ」

「……ありがとう」


 ミルも、マナベルを受け取った。


「あと、予備用ね」

「まだあるの!?」

「綺麗な装飾だろ? 色々迷ってる内に買いすぎちゃって」


 ヒーロは頭を掻いて苦笑する。

 

「ミルみたいに仲間も増えていくかもしれないし、みんなに会った時に新しいのを渡してあげて」


 手渡される大量の箱。

 __一つ一つ見たい衝動を抑え、マジックバッグに詰めた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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