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第27話 再結集の時

「おかえり……」


 リオンの案内で鍛冶屋の扉を潜った途端、ミルと出くわした。


「ちょうどよかったぜ、兄ちゃん。今、依頼品……全部のアーティファクトのパーツを渡したところだ」


 ミルの対面から向けられた店主の笑顔で、思い出す。


(そうだ……修理に出していたアーティファクトの部品を取りに行くって言ってたな)


「……?」

 

 揺らめく黒い瞳。何も知らない彼女を目の当たりにし、つい、言葉が詰まる。


「お! 誰かと思えば、勇者様じゃねぇか!」


 ヒーロが、後ろから出てきた。

 

「ラット」

「わかってる。大丈夫だよ」


 躊躇している時間はない。息を吐き、顔を上げた。


「話があるんだ。ミル」


 店主との話を切り上げ、ミルが頷く。


「師匠。店の奥、借りるぜ。勇者様、使ってください」


 リオンに促され、三人は揃って奥へ進む。

 店主の視線を背中に感じながら。





 棚と作業台がひしめき合う、昼でも薄暗い鍛冶屋の奥で。ラットはマナベルを片手に持ち、使った。


 ……反応はある。


 だが、繋がらない。

 音とも言えない微かなノイズが、耳の奥に残るだけ。


「……もう一度」


 隣に立つヒーロに促され、もう一度。

 目を閉じて視覚を遮断し、耳を澄ませて。

 勇者パーティ全員の名を順に呼び、試した。

 

 たが、結果は変わらない。


「だめだね」

「全員?」

「誰一人、反応がない」


 繋がらない。


「どうしたの?」


 作業台に一人寄りかかりながら、ミルが訊いてくる。マナベルが相変わらず使えないことはわかった。最優先事項の確認が済めば、次は彼女への説明の番だ。

 

「僕たちにもわからないんだけど……」


 言いかけ、ハッとした。


(そうか……僕はこの状況に呑まれていた)


 頭の中を埋め尽くす疑問は、思考を妨げていた。それがわかったことで、徐々にだが巡り出す。理解できないなら、まずは理解する。状況の整理も兼ね、これまでの出来事を、ラットはミルに聞かせた。


 国王や、仲間の一人であるロックの裏切り。

 使えない転移門。

 繋がらないマナベル。


 棚の造りかけの装備品が目に入る。職人技に無意識に見惚れる自分に気づく。思考を巡らせる時の癖だった。


「俺からいいかな」


 ヒーロが片手を上げ、口を開いた。


「マナベルなんだけどさ。実は俺の世界にも似た物があったんだ」


 初耳だった。


「今回のように誰とも繋がらないこともあった。もちろん、マナベルも同じ原理とは限らない。でも、繋がらないことが必ずしも裏切ったにはならないと思うんだ」

「繋がらないから全員がヒーロを見限った。陛下の口ぶりはそんな感じだったね」

「あの場にいたのはロックだけだ。ブラフの可能性は十分ある」

「そのニホンの道具について、聞いてもいい?」


 マナベルは最新の技術。この場にいる誰もがその仕組みを知らない。だがニホンの道具と似ていると言うのなら、その原理を理解することでマナベルの原理も理解できるかもしれない。

 ラットの意図を掴んだヒーロは、頷いて話し出す。


「俺の世界のスマフォ……マナベルは、声を波に変換して相手の元に届けるんだ。この波が相手のマナベルに届くことで相互に会話ができるようになっている」

「繋がらない場合って言うのは?」

「原因として考えられるのは、主に三つ」

 

 ヒーロの指が立つ。

 

「一つ目、相手もしくは自分が魔力が通らない場所にいる。二つ目、通信そのものへの干渉。三つ目は……」

 

 三本目が立ちかけ、折れる。

 

「壊れている、は考えにくいかな。全員同時だしね」

「なるほど……確かに仕組みが同じようなものなら、単純に繋がらないはありえるね」


 黙って聞いていたミルが、ふと手を伸ばしてきた。


「ラット……貸して」


 渡したマナベルをミルはいじりだす。


「仕組みは似てると思う……詳しくはもっと調べないとわからないけど、断片的な部分だけでも今彼が話したイメージに合う……」


 ミルの話が、根拠になった。ヒーロと目を合わせ、頷く。

 

「陛下がヒーロを捕らえようとしたときの強引さ。やっぱり、ブラフだったんだよ。――妨害されている可能性が高いと思う」


 室内が一段、静かになる。

 音が消えた訳ではない。ただ、誰も言葉を足さなかった。


「……ヒーロ」

「うん」

「これは、緊急事態……かもしれない」

「ヒーロだけが狙われているとは限らない。もし糸を引いている者の狙いがそれぞれの分断だとしたら?」

「知らせる必要があるね」


 ラットは頷いた。


「だけど、おそらくヒーロはこの国を出られない」

「分断が目的なら仲間の元へは向かわせないよね。必然、国を出るための交通手段。船を抑える」


 転移門は使えない。

 手紙も同じ国にいるトト以外は、そもそも流通がない。

 

 選択肢は他になかった。


「僕が行くよ」


 口に出してから、初めて自分の中で決まった感覚があった。


「直接、伝える。時間はかかるけど」


 ヒーロはすぐには返事をしなかった。視線が一瞬、床に落ちる。


「……危険かもしれないよ」


 それだけで十分だった。


「任せて! 僕が支えるよ」

 

 答えがわかっていたかのように、ヒーロは小さく笑った。


「頼んだぞ、相棒。ラットをよろしくね、ミルさん」


 __コクリ

 ミルが頷いた。

 

「トトの方は任せてくれ。陸地なら何があろうとたどり着いてみせるよ」



 窓から射し込んだ陽光が、部屋を照らしていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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