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第24話 逃走中

 逃げる二人と、追いかける騎士たちを見送った後、ロック・スネイクは国王へ進言した。


「……陛下、騎士たちではおそらく逃げ切られてしまうでしょう。二人を指名手配して、国内に閉じ込め、精神的に追い詰めていくのが得策です」

「これだけの包囲網を突破されると?」


「勇者だけなら、私もいれば問題なかったでしょう。――ラット・クリアノート。彼が合流していたのが想定外でした」


「運搬兵の一人や二人加わったところで、どう変わると言うんだ!」

「彼は侮れません。油断してると、足元をすくわれますよ」

「……わかった。本当に逃げ切られるようなことがあれば、指名手配にしよう。ただし、勇者だけだ」


「陛下っ!!」

「荷物持ちごときに懸賞金を賭けられるか。そんなやつよりも勇者だ勇者! お前も行け!」


 国王は耳を貸さない。


「……仰せのままに」


 溜め息を堪えて頷いたロックは、消えた。

 ――影に。





 ヒーロと二人で城内を駆け抜ける。


「待て!」

「止まれ!」


 だが、追手は鍛え抜かれた騎士たち。

 簡単には撒けず、鉄靴の騒々しい足音がみるみる迫ってくる。このままでは、追い付かれるのも時間の問題だ。視界に長い階段が飛び込む。


 ――しめた。

 マジックバッグから瓶と粘土を取り出す。

 掴んだ瓶の蓋を外し、階段へと振りまく。陽光に煌めく液体を見ながら、空いた両手で粘土を伸ばす。


「粘土遊びとは気でも触れたか!?」


 勝利を確信した騎士の一人が嘲笑う。


(ただの粘土じゃあ、ありません)


 正式名称、魔力粘土。魔力を流すことで形状を固定化することができ、建物を補修する際には重宝する優れモノ。


(作れるんです。――こんな風に!)


 細長い板を即興で完成させ、飛び乗る。


「なっ……!?」


 騎士の驚愕は、すぐに置き去りになった。まいた滑水により、板は階段を高速で滑り落ちる。


 〝ボードスライド!〟

 〝キックフリップ!!〟


 手すりや段差を利用しながら次々に技を決めていくラット。

 ラットに合わせ階段を飛び降りたヒーロが笑いながら、話しかけてくる。


「久しぶりだね、ラットのスケボートリック!」

「ちゃんと覚えてますよ。ヒーロに教わった技」


 ヒーロは着地の寸前、階下へと右手をかざした。


<受け止めろ――エアクッション!>


 発光した手のひらから放たれる風の塊。ヒーロお得意の風魔法。

 雲のように広がったそれが、ヒーロの落下の衝撃を吸収する。直後、ラットも到着した。


 揃って着地し、走り出す。


「うわっ!?」

「っなんだ、足が……!?」

「くそっ滑る!」

「来るな、罠だ!」


 背後では、騎士たちが滑る階段に足を取られている。滑水は、高速移動のためだけではない。追手を足止めする狙いもあった。計算通り。


 無事、城内から抜け出すことに成功する。


「っ……!?」


 が、城門へ繋がる門は、既に封鎖されていた。


「おい、いたぞ!」


 階段下にいた兵たちが集まってくる。


「もう逃げられんぞ! 観念しろ!」


 剣先の群れに、じわりじわり、追い詰められる。

 ヒーロと目が合う。


「お次はどうする?」


 何が飛び出るのか、期待する眼差し。


「お見せしましょう! 新アイテム!!」


 背をくるりと向け、塀に向かって突進する。


「馬鹿め、行き止まりだ!」


 塀がぶつかる。

 直前、駆け上がった。


 ――履き替えた(アーティファクト)で。


<飛び上がれ――フライ!>


 ヒーロも後に続き飛翔する。


「そうくるか! アーティファクトかい?」


 飛び上がりながら、靴を輝いた目で見てくる。


「スティックブーツ! これさえあればっ、塀でも崖でもっ、上れない場所はないっ!」


 息を弾ませつつ、そびえ立つ塀を平地のように走り抜ける。騎士たちの遠吠えは、風にかき消されてもはや聞こえない。


 上る。

 上る。

 上る!

 辿り着く天辺。

 青空の麓で、すかさず、抜き放った。


 ――バシュ!

 銃口から放出されるワイヤー。乱立する塔の一つに貼り付いた頑丈なそれを支えに、ダイブする。


 猛風が髪を逆立たせ、浮遊感が全身を襲う。自殺行為も、ワイヤーがあれば移動手段に早変わりだ。重力を退け、塔までラットを導いてくれる。

 踏んだ塔をスティックブーツで蹴り、先端まで一気に躍り出る。


 すると、ヒーロが追い付いた。


「またアーティファクトじゃないか! 貴重なのに!」

「ミルの店で大人買いしておいたんだ」

「いいね、ワイヤーアクション」

「その名もワイヤーガンさ!」

「今は冒険用に、こんな便利なものがあるんだね」

「洗濯用だよ」


 ヒーロの目が丸くなる。


「ってことは、洗濯紐? ははっ、本当かい!?」


 次いで、面白そうに笑い出した。


「色んな場面で使えそうだなって、即決したんだ。僕の目に狂いはなかったね!」

「アイテムの使い道にかけては、右に出る者はいないね」


 戻したワイヤーを別の塔へと貼り付かせ、またダイブする。

 すでに追手の声は遥か彼方に置き去りとなっていた。


 塔から塔へと飛び移る間に、喋り合う。


「ヒーロが転移してきたばかりの頃は、こうしてよく逃げてたよね」

「まだ加護をもらう前だったからね。ラットの親御さんが商品として剣を扱っていてくれたから多少は戦えたけど、魔物はサイズが人の数倍の奴もちょくちょくいたし、数も多かったし……もちろん剣道には自信があったさ。だけど、人以外となんて戦うことなかったからね……っ!?」


 突然、ヒーロが凍り付いた。

 

 視線の先__

 眩い光__


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