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第23話 勇者の罪

〝勇者、ヒーロ・ドラグニル! 国家転覆を企てた罪で、捕縛する!!!!!〟



 二日後の昼、王城の謁見の間。ヒーロに降りかかった国王の怒号の意味が、ラットには一切わからなかった__。


 ――せっかく会うなら、魔王軍の暗躍の可能性を国王にも共有した方がいい。当事者のラットの方が詳しく話せるだろうから、一緒に行こう。


 ヒーロの誘いに乗り、ミルには町に残ってもらい、ヒーロに付いていく形で登城した。国王からの呼び出しの理由を、ヒーロはきっとまた面倒な頼み事だよ、と苦笑し、ラットも同調していた。そう、だから、ヒーロもラットも思わない。こんな、ありもしない罪を突きつけられるなんて。



「陛下、一体何のことでしょうか?」


 頭の切り替えは、ヒーロの方が早かった。張り詰めた空気に怯まず、踏み込む。


「この期に及んで、とぼける気か?」


 だが、国王は玉座からヒーロを冷たく見下ろす。


「ある者から、勇者が国家転覆を企てているという密告があった」


 転移門で各国を飛び回りながら、仲間を集め、この王都を滅ぼして、自分が国王になるつもりだろう。

 その証拠に、日中は街から姿を消し、夜は自分の店で諜報活動。

 実際に転移門で移動するところや、店で情報を探っている様子を何度も確認できている。

 勇者パーティの他のメンバーにも協力を持ちかけていることも、すべて知っているぞ。


「これでもまだ、シラを切るのか?」

「国家転覆など、そのようなことは断じて企てておりません」


 ヒーロは視線を逸らさず、言い返す。


「確かに、転移門で各地を周り、店で情報収集もしています。――しかし、それは元の世界へ帰るためです」


「つまり、密告が間違っていると?」

「女神様に誓って」

「……では、君の仲間に確認すれば、無実は判明するかね?」


 頷くヒーロ。


「そうか。――入ってきたまえ」


 謁見の間の重厚な扉が、待っていたかのように開く。


「……ロック!?」


 入ってきたのは、勇者パーティの一人、ロック・スネイク。

 茶色のスーツに長い赤髪をなびかせながら、仲間の青年は歩みをしなやかに進めてくる。何故ここに? と思ったが、ちょうどいい。彼なら、ヒーロの無実を確実に証言してくれるはず――


「密告に嘘はありません」


 耳を、疑った。


「ヒーロが国家転覆を狙っているのは本当です。手を組まないかと誘われましたが、断りました。口外すれば命はないと言われ、その場では了承しましたが、多少なりとも世話になった国を裏切る訳にはいかないので」


 いつも通りだ。

 赤い瞳。女好きのする甘い相貌と声。黒いシャツの襟元に咲く、彼らしい気障な薔薇のブローチも、いつも通りだ。


「それに、道を逸れてしまったら、正しい道に戻すのが仲間ですから」


 その唇だけが、裏切る。

 考えすらしなかったその言葉に、ヒーロは目を見開いたままでいる。


 だから、ラットが前に出た。


「僕も勇者パーティの一人ですが、そんな話は聞かされていません」


 もちろん、ロックもヒーロの事情は知っている。苦楽を共に味わってきた仲間を裏切るようなことを、彼はしないはずだ。こんなあからさまな嘘を吐くのは、何か、止むに止まれぬ事情があるのかもしれない。


 だが、今はあらぬ罪を被せられようとしているヒーロへの誤解を解かなくては。


「ヒーロ・ドラグニルは、勇者は、常に人々の笑顔を願う、誰よりも優しいひとです。国家転覆などという、人々の幸せを壊す事態を望むはずがありません」


 ……ぽん、と肩を叩かれる。

 振り向くと、ヒーロが進み出ている。


「ここにマナベルがあります。他のメンバーにも確認させてください。ロックの証言が誤りだと分かるはずです」


 真剣な瞳で、国王に挑む。

 ラットも同じ考えだ。ロックとラット、意見は一対一。国王はまだどちらの意見が正しいか、判断しかねるはずだ。


「……よかろう。連絡してみるがいい」


 許可を得て、ヒーロが通信の魔具を使う。


 ――ザー……

 応答する。砂嵐が、無情に。


「反逆者に応える者は誰もいない、ということだな」

「ちが、」

「口を慎め、運搬兵!」


 国王の罵声がラットの反論を塞ぐ。


「お前の証言など当てにならん。子供や弱小種族がやる荷物持ちを、国家転覆の仲間に入れる訳がないだろう」


 誘われていないのは当然だと、国王は言う。


「おこぼれで金やS級の称号をもらって調子に乗ったか? 口答えするなんて、いいご身分だな」


 国王に倣うように、周囲に控える側近たちもせせら笑う。


「そもそも、私たちは反対だったんです」

「魔王討伐時は勇者を立て、賞金を出し、S級の称号も与えましたが、財源とて無尽蔵ではないですからな」

「国民の血税ですよ、血税」

「勇者の一言で何の成果も上げていない者にまでポンポン報酬を出していては、国は成り立たんのです」


 重なる嘲笑を遮ったのは、ヒーロの背中。


「聞き捨てなりません、陛下。ラットは命がけで……!」


 頼もしいそれを、しかしラットは手のひらで止めた。

 振り向いた不服そうな顔へ囁く。


「もう、何を言っても無駄だよ。――全部、仕組まれてる」


 ここまで来れば、さすがにわかる。


「ここは一旦逃げて、何が起こってるのかを調べるべきだ」

「だが……!」


「いいよ、僕のことは。言わせておけばいい。油断してくれた方が、やりやすいしね」


 状況が状況だ。時間はかけられない。渋々納得したヒーロは、国王に向き直った。


「……陛下の言い分はわかりました」

「やっと罪を認めたか」


「私たちはこれで失礼します!」


 ヒーロが転移門を開く。


「……!?」


 が、常なら展開されるはずの門が、現れない。

 しかし、すぐさま切り替える。


「ラット!」

「うん」


 二人同時に走り出す。開かない理由は後回しだ。転移できないなら、扉を使って物理的に逃げるまで。


「逃がすな! 反逆者をひっ捕らえよ!」


 国王がすかさず命令する。

 立ち塞がる騎士たちをヒーロが聖剣で蹴散らす。見出した活路を抜け、扉を体当たりで開ける。


 国王の叫びが後を追ってくる。


「追え! 絶対に逃がすなーー!!」


 絶叫と、騎士たちの荒々しい足音から逃走する。

 

 __ロックは真剣な表情で逃げる二人を見送った。



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