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第2話 アイテムの妖精

 縋るような思いで、剣士はアイテム屋の扉を恐る恐る開けた。



 __ちりんちりん。


 何の変哲もないドアベルに胸を撫で下ろす。普通だ。と安心したのは、間違いだった。


(な、なんだぁ……?)


 視界を埋め尽くす、棚、棚、棚。


 狭い室内いっぱいに棚が錯綜し、そのすべての段にアイテムがぎゅうぎゅうに並んでいる。先程の強面親父のアイテム屋は、商店の常識通りに棚もアイテムも見栄えよく配置されていたため、雑多さが目立つ。


 棚の迷宮。アイテムの迷宮。そのアイテムも、一般的なアイテム屋と違い、ごちゃ混ぜだ。


 コボルトホイホイ。

 食用油。

 うねうねとした……用途不明のオブジェ。


 種別ごと、という概念はない。馴染み深いものからガラクタのようなものまで、一緒くたになっている。


 アイテムたちの見た目は、意外にもぴかぴかだ。店の外観に反して磨き抜かれており、商品として置かれているのは間違いなさそうだ。


 村に一軒しかないはずのアイテム屋が、何故もう一軒? 店主はいないのか?


 謎だらけではあるものの、ここが正真正銘のアイテム屋であるなら、幸運だ。仲間たちと頷き合う。死の運命を蹴散らすポーションという名の宝が、きっとどこかに――


「何かお探しですか?」


「どわっ!?」

「きゃー!」

「女神様ぁ!」

「ごめんなさいぃ!」


 降って湧いた第三者の弾んだ声に、全員で叫んだ。


 先陣を切って振り返ると、いる。大きな碧眼を丸眼鏡越しに爛々とさせる、鼠色の髪の少年が。


「ゆ、ゆゆっ、幽霊!? いや、妖精か!? アイテムの!?」


「店主です」

「……は!?」


 店主!?


「いらっしゃいませ! アイテム屋へようこそ!」


 妖精、いや店主が晴れやかに言う。笑うと、顔立ちがますます幼くなった。十五歳くらいだろうか? 強面親父とこれまた真逆の、成人ほやほやの少年。それはいい。


「あの、お客様?」


「浮いては……いないか?」

「透けてはないね」

「羽根もないわよ」

「小さいけど背もあるね」


 店主の身体を四人で確かめてみた結果。


「……人間、だな」


 どうやら、本当に人外ではないらしい。冒険者の背後を取るなどと、存在感がないのにも程がある。


「お客様が来てくださるなんて、張り紙作戦の効果ですね。どのような商品をお探しですか?」


 微笑んで接客してくれるあたり、剣士たちの評判は店主の耳には入っていないようだ。


 買える。三対の視線に送り出される形で、いざ口を開く。


「これからパーティ初のクエストに行くんだけどよ、ポー……」


「パーティ初のクエスト! ではアイテムはたくさんあった方がよろしいでしょう! クエストでは、思わぬ強敵に出くわす場面も多いです。そんな時に頼りになるのが、お馴染みの強化水シリーズ! もちろんご存知ですよね!」


「いや、ポーショ……」


「速力の水は素早さを、剛力の水は攻撃力を、理力の水は魔法攻撃力を、守力の水は防御力を、胆力の水は魔法防御力をアップしてくれます! さっとかけるだけで即強化の優れ物! 強敵対策に、どれも持っておいて損はありません! いえ持つべきです!! それからこちらの」


「だーっうるせぇ!! ポーションよこせっつってんだよ! ポーション!」


 間。


「……ああ、ポーション! ポーションですか! ええ、ポーションも欠かせませんよね。ご一緒にコボルトホイホイはいかがですか? 対象にぶつけると、途端にねばっ! なんと、粘液で動けなくしてしまうんです! ああ素晴らしいっ!!」


「いやそれ狩猟用で魔物の力なら簡単に抜け出せるやつだろ!」

「なんでススめたんだよ?」

「まさか、わからないと見くびって、売りつけようとしたのか!?」


「ちょっとアンタたち――」


 遮ろうとする魔法使いを逆に遮った。


「舐めんじゃねぇ!」

「インチキ商売!」

「守銭奴!」


「違います! コボルトホイホイは確かに狩猟用です。ですがこの子は、」


 尚も売りつけようとしてくる店主に、キレた。


「んなクソアイテムいらねぇ! さっさとポーション持ってこい、このインチキ店主が!!」





 ポーションを手に入れて店の外に出た途端、魔法使いが剣士たちの行く手を遮った。


「恥ずかしくないの、アンタたち! いい大人が、あんな成人になりたての子に寄ってたかって……!」


「う……」

「そう言われると……」


 剣士の後ろで尻込みする弓使いと槍使い。


「インチキ野郎に同情の余地はねぇ」


 弱気な二人を引っ張るように、魔法使いを抜く。


「ポーションも手に入ったし、ゴブリンをさくっと討伐して村を出るぞ。次のところで、今度こそオレらの力を思い知らせてやろうぜ」


 林道を歩き出し、立ち止まった。足音が聞こえてこない。


「あ、あのさ、リーダー」

「次は、普通にしない?」


 代わりに聞こえてきたのは、弓使いと槍使いの、そんな声。


「……あ?」


「ほ、ほら、先輩にも怒られちゃったし!」

「こういうの、よくないんじゃないかな〜って」


 目を見張る。魔法使いだけでなく、こいつらまで。


「命の見返りもらって何が悪い!?」


「ひっ!」

「悪くないない!」


 引っ込んだ二人に満足し、再度歩き出す。


「……ついてけないわ」


 ただ一人、魔法使いだけが引っ込まなかった。早足で抜き返され、追いかける。


「そうカリカリすんなよ。怒った顔もカワイイけどよ、」

「触らないで!」


 頭を撫でようとした手を弾かれる。剣士を振り払った彼女は、そのままスタスタと歩いていってしまった。


「あーあ、嫌われちゃった」

「まあ無理もないよ。やり過ぎだし」


「文句あんのか!?」

「ないです!!」


 声を揃えた男どもを従え、林道を荒々しく進む。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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