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第19話 武器オタク

 作業の途中だったのだろう。

 黒がシマのように混ざった赤茶色の前髪は、汗で額に張り付いている。後頭部で無造作にまとめられた後ろ髪もほつれが目立ち、乱れた様子だ。


 お仕事の邪魔を……。

 この人がこれらの武器をっ!


 激突する申し訳なさと興奮。結果、後者が上回る。


「って、あれ? いねぇじゃん、師匠」


 鍛治師は気付かず、身体がぶつかりそうになるほどの近さまで迫り、立ち止まった。目の前に飛び込んできた二の腕は、職業由来か、男でも一目見てしまうほど、逞しく鍛えられている。


「ここです」


 振り向く鍛治師。

 目の前に現れる顔。


 濃い赤茶色の瞳が極限まで見開かれ、


「おわあああああぁぁぁーっ!?」


 想定以上の反応だった。


「おいっ、よく見ろ。人だ。お前が兄ちゃんの目の前にやってきたんだぞ」


 反り返ったまま、まじまじと見つめてくる鍛治師。


「ほ、ほんとだ……。びびった〜」


(ぜんぜん気づかなかった…)


「お前の剣に夢中になってなあ。話したいそうだ。見どころのある兄ちゃんだぜ」

「いや〜、俺なんかまだまだ」


 鍛冶師が照れ照れとこちらに向き直る頃には、ラットも笑えている。


「リオン・スマイトっす! どうもよろしくっす!!」

「ラット・クリアノートです。刀を始め、これほどまでにこだわりを感じさせる剣は初めて見ました。お会いできて光栄です!」


「よく知ってるね! 刀なんて獣人の一部の流派が使うくらいだから、知らない人の方が多いのに」

「両親が商人なんですよ。あと、これでも冒険者で、各国を旅していたので、色んな武器や防具に触れてきたんです。刀については仲間の一人が使ってますしね」


「か、各国って、まさか地の国、エルデラントも行ったことある?」

「ドワーフの住むあそこは、格別でしたね! 騎士でもなかなか手が届かないような高品質な武器が、安価で店頭にずらりと並んでいて。正に圧巻でした」


「うらやましぃな〜~~!!」


 リオンが高らかに叫んだ。


「あ、すいません。地の国は俺の憧れなんで。つい、興奮しちゃいました」

「ふふっ、鍛治師の聖地ですものね」


 ラットとて、もしもアイテム屋の聖地があるなどと聞かされたら、すべてを忘れ去る自信がある。


「わかる!? そう、そうなんだよ! 鍛治師の聖地なんだよ、地の国は! 決めてるんだ。師匠に認めてもらったら、絶対修業しに行くって!」


「造るんですね、最強の武器を!」


「惜しい! 俺の夢、それは使用者の実力を最大限引き出し、どんな時も共にあり使用者を最後まで守り抜く、最高の武器を造ること!! 文献読んだり、試作品造ったり、日々実践してるんだけど、独学じゃ足りない。だから学びたいんだ、聖地で! 最先端の技術を学べば、きっと叶う。いいや、叶えるんだ!」


「好きを極めたいその気持ち、全力で同意です!!」


 燃え上がって捲し立てる。


「僕もアイテムが好きで――」

「すげぇんだよ鍛治道は――」

「うっかりご飯を忘れてしまって――」

「気付いたら完徹しててさ――」


 無我夢中で語り合う。

 口が止まらない。

 話したい。

 もっと。もっと。もっと!

 


 ――ドアベルに、待ったをかけられた。


 燻るものを感じつつも、営業妨害をする訳にもいかず、大人しく聞き入れる。振り返った出入り口には、左目にモノクルをかけた、長身の男性。


「いらっしゃい、アルフェンさん!」


 見知った顔なのか、リオンが揚々と駆け寄っていく。


「随分ご機嫌ですね、リオンくん」


 長い緑髪をうなじで結わえた、アルフェンと呼ばれた二十代と思しき男性がにこやかに答える。打ち解けた雰囲気だ。常連なのだろう。長髪と言い、白い肌と言い、中性的な容貌だからだろうか、一瞬女性と見間違うような気品がある。


「以前買わせていただいた武器ですが、いい出来でした。無理をさせてしまって壊してしまいましたけど、値段以上の働きをしてくれましたよ」


「いや〜、アルフェンさんはお世辞がうまいっすね」

「ただの本心ですよ。という訳で、また買わせてください」

「俺の武器で良ければ!」


 導かれたアルフェンは、店内の一角へ迷いなく向かう。足音の一つも立たない。


(この方……)


 白衣がラットの前で蝶の羽のようにひらめく。すれ違いざま、モノクル越しに翡翠の瞳と視線が交わる。しかし、彼は何事もなかったように通り過ぎていった。


(驚かれなかったな。目が合ったような気がしたけど、気のせいかな……?)



「へ~、こんな形状の武器もつくってみたんですね。こっちも興味深い――」

「そうなんですよ。文献で見て、どんな使い勝手なんだろうと思って――」

「前のあの形状の武器は――」

「なるほど、参考になります――」


 リオンと共に、和気藹々と武器を数点選んだアルフェンは、支払いを済ませると、来た道を戻った。


「それじゃあリオンくん、また」

「ありがとうございましたー!」


 ドアベルの向こうへ、アルフェンが去る。柔らかな笑顔を残して。


「……あの方、相当強いですね」


 ラットは存在感のなさに加え、より紛れるための技術を磨いてきた。だからこそ気付く。別種ではあるが、彼のそれも洗練された足取りだ。


「やっぱそう思うか!? ……そう思いますか?」


 気を抜くと、友人関係のような口調が飛び出してしまうらしい。きっと、リオンの素なのだろう。


「ただの優男だって、師匠は笑うんだけどさ。動きがなんだろ、洗練? 研ぎ澄まされてるって言うか、そんな感じなんだよな」


 ラットが抱いた印象と同じだった。それを感じ取るリオン自身も鍛治だけではなく、何かに精通しているのだろうか?


「アルフェンさんは、俺の数少ない常連さんなんだ。半人前の俺の武器を、いっつも好んで買ってくれてさあ。めっちゃくちゃ、いい人だよ!」


 リオンは自慢するように胸を張る。


「若いけど……孤児院の院長!! それが俺の予想だ」

「商人に一票です」

「絶っ対教師とかだね!」

「あれほどの目利きがですか?」

「対野盗用に護身術を子どもたちに教えてるんだ」

「町を行き来する個人の商人は自分を守るために強いんです」


 アルフェンの職業は何か? そんな話題から、


「そういや俺の好きな武器なんだけど――」


 少しずつ好き語りにシフトしていき、


「僕の推しはですね――!」

「エクスキューショナーズソードって用途は血生臭いけど、カッコいいんだよ――!!」


 数刻過ぎる頃には、アルフェンのことなど、すっかり忘れていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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