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第16話 バンプガン

 ラットの目の前で、店主のトドメの一撃を喰らった少年が吹き飛んでいく。

 勢いで炎が鎮火し、臭いだけが残る。


 ――炎水の臭いが。



 地面に倒れた少年が、ぴくりと動く。

 土埃から身をどうにか起こした少年は、ラットを睨んだ。


「いつからだ?」


 ……と。

 警戒を解かずに近付きながら、ラットは答える。


「変だと思ったのは、対面した時でした」


 思い出す。


「血色の悪さ、微かなすえた臭い」


 ただの剣士、ではない。


「意識を取り戻した彼から聞いた、『傷を見ろ。血がねぇ……』の一言」


「そして、血のない頬の傷を見て、確信しました。あなたが死体――つまり、死霊系の魔物であることを」



 人のフリをした、人ならざる者。



「種類の特定まではできませんでした。ですが、死霊系の魔物は弱点が火であることが多い。だから、炎水……燃える水を浴びせた後で、突き飛ばしてもらいました。魔導コンロまで」


 輝かしい魔導コンロが外にも置かれていたのは僥倖だった。

 本来であれば大したことない火も、炎水というアイテムを使った上でならば、話は違う。火に触れると燃える水は爆発的な炎上を発生させ、店主を勝利へ繋げた。



「とは言え、最初から狙っても上手くなんかいきません。あなたの職業は〝予言士〟ですから」


「……そっちは、一言も喋ってないぞ」


「店主さんの攻撃や僕のスパイダーネット。死角だったにも関わらず、あっさり避けたでしょう? 何より、相手の未来が読めていると言わんばかりの先回りや、避けた先への攻撃。喋らなくてもわかります」


「……それで、煙幕か」


「予言士は相手や周囲の情報から、未来予知とも言える予測をする職業です。情報を遮断されたあなたは、読み通り、これまでの情報から店主さんの攻撃を予測しました。店主さんの速度が変化しているとも知らず」


「どうやって、速度を変化させた? こいつのあの速度域で、アイテムなど当てられないはずだ」


「これを使いました」


 手に持つ、腕くらいの長さの砲身のそれを見せる。


「……銃? 地の国のあれか? いや、そんなはずはない。発砲音なんて聞いてないぞ」

「でしょうね。この銃に火薬は使われていませんから」


 通常の銃とは違う。


 〝バンプガン〟


「隠れながらサポートできるよう、圧縮された空気の強い反発力を利用しているんです」


 存在感のないラットのためだけに造られた、銃。


「仰る通り、店主さんは縦横無尽に飛び回る戦法なので、投げてだと追い付けません。だから、撃ち込みました。速力の水と、弱化水を交互に、段階的に」


 適合するサイズのアイテムならば、近付けるだけで自動で球状化し、装填してくれる。この宝物により、投げるよりも速く、さらに遠距離からアイテムを的確に当てることができる。


「動きを読まれてしまう以上、近付くのは危険ですし。今回のような戦いでは、ぴったりです。まさか、こんな形でお披露目するとは思いませんでしたが」


 ……胸が痛む。

 

店主に対する礼のためのアイテムが、血生臭くなってしまった。



「強化水だけじゃなく、弱化水まで使って変化をつけるとはな……あのぬるついた水も、計算の内か?」


「滑水ですね。滑りやすくして、サーベルを少しでも振りにくくできればいいなって程度だったんですけど、いい仕事をしてくれました」


 少年が唇を噛む。


「……まんまと、踊らされた訳か」

「状況を誤認させ、こちらの優位に変えていくことが、僕の役割です」


 足が、彼の前まで辿り着く。

 捕まえようと、並ぶ店主が拳を振り上げる。


 その時、突然、白がちらついた。

 少年を守るように現れたのは、白髪の少女。


 初めて見えた彼女の瞳は、無風だ。

 店主の無感情な瞳と通ずるようで、違う。何の揺らめきもないのに、揺さぶられる。見ているだけで、胸の奥が疼きそうになる。神秘的な双眸に、一瞬、吸い込まれかける。


「あなたは、さっきの……」

「今回は、俺の負けだ」


 少年の声が言葉を遮る。少女に支えられて立ち上がった少年は、ラットを見据えて言った。


「俺はトゥーロ・グリード。お前は?」


 まっすぐに見返し、名乗る。


「ラット・クリアノートです」

「……ラットか。覚えておいてやる」


 店主が動く間もなく、少年――トゥーロと、少女は、幻のように姿を消した。


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