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第14話 人でいたい

 切り裂かれる作業着の袖……。


 とうとう、少年の攻撃が命中した。


 だが。高笑いしてもいいはずの少年の口が、どういう訳か、砂利を噛む。

 理由はすぐにわかった。

 血が、出ていない。

 抉られた白い皮膚から露出するものは、無機物。


「お前……人じゃないのか?」

「ギアノイド」


 店主が呟く。


(ぎあ……ノイド?)


(たしか魔導科学が目指していると言う、あの?)


 胡散臭い。

 ずっと、そう思っていた。思っていたが、今こうしてフレームを目撃したら、撤回せざるを得ない。


 少女らしからぬ、規格外の身体能力にも説明がつく。


人間族(ヒューマ)じゃないなら、仲間に入れてやってもいい」


 少年がサーベルを下ろした。


「人手不足でな。見どころのある奴には率先して声をかけてる。僕には敵わないが、お前はなかなかの強さだ。敵として殺す、いや、壊すには惜しい」


 剣士の聞き間違いではない。

 店主を、引き入れようとしている。


「変わり者」


 押し黙る店主に、少年は言った。


「噂は聞いてる。ヒューマと馴染めてないんだろう?」


 変わり者。

 くだらない。

 ガラクタ。

 槍使いの笑い声を思い出す。

 彼女の産みの親と、彼女自身が、この街の中でどんな扱いを受けているかは想像に難くない。


「俺たちの元に来れば、そんな目には遭わない。どんな酔狂な奴でも大歓迎だ。実際、お前みたいな性格の奴もいる」


 だが、と少年は言葉を強める。


「ヒューマはそうじゃない。あいつらは、自分たちと違う異端には、どこまでも残酷になれる醜い種族だ。――なあ?」


 話を振られ、目線を逸らす。剣士もまた、彼女を変わり者と蔑んだ内の一人。その過去が、口を噤ませる。


「予言してやる。お前が人もどきだとわかれば、疎外だけじゃ済ませない。徒党を組んで排除にかかる。絶対だ」


 少年が踏み出す。


「俺たちと来い」


 店主に向かって、手のひらを差し出す。


「機械なら、何が合理的かわかるだろう?」


 まずい、と剣士は思った。

 もしも店主が頷けば、少年を止める者は誰もいなくなる。すなわち、死ぬ。


 剣士も。

 弓使いも。

 槍使いも。

 ……魔法使いも。


 変わり者扱いしておいてムシがいい。

 わかっている。


 けれど、それでも今は、願わずにいられない。


 頷かないでくれ。

 頼む、助けてくれ!

 オレはどうなってもいい。

 せめて、こいつらだけは――


 だが、店主は頷いた。


「あなたの言うことは、合理的……」

 

 時が止まる。

 身体中のすべての血が流れたように、視界が闇に覆われ――


「でも」


 言葉が続いた。


「わたしは、人でいたい。……行かない」


 誘いをはっきりと断った店主の声に、救われた。

 引き上げた手のひらで、少年が髪を掻き上げる。


「この僕の誘いを断るとはな」


 口を開けて笑い、


「ジャンクが!!」


 冷酷に吐き捨て、店主へと斬りかかった。

 ガントレットを構えて応戦する店主。

 だが、拳は宙を虚しく突く。空振りは凶刃を次々と呼び込み、店主の肌がズタズタになっていく。


 傷口は増え続け、ついには、痛々しく放電するまでになる。痛覚がない故か、顔色こそ変わらなかったが、追い詰められているのは明らか。


「スクラップになれ」


 トドメが叩き込まれる瞬間を見ていられず、目を瞑る。



 ――バシャ!


(…………ばしゃ?)


 破壊音の割には、やけに、瑞々しい響きだ。

 瞼をゆっくりと開く。


 そこには、ずぶ濡れの少年と、

 息を切らし、汗だくになった、もう一人の仲間。


(……ああ)


 急激に、眠気に襲われる。


(なんでだろうなあ)


 成人ほやほやと間違えられる顔で、

 存在感がなくて、


(隙あらばアイテム語りしてくるような奴なのに)


 こと戦いの場になると、ひっくり返る。


(……あんしん、すんだ)


 凛々しいその姿の――なんて、頼もしいことか。

 だから、こんなに、瞼が重い。


 きっと、勇者たちもそうだったのだろう。

 それがどんなに絶望的な状況でも。

 何とかなる。



 (こいつが…………)


 ラットが、いれば。

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