第126話 熱砂の町を目指して
老土人族は地の国の現状を憂いだ。
しかし、それ以上語らなかった。
ただ静かに槌を振るう。
まるで失われていく時代を惜しむように。
「外の兵士たちを見たか?」
老土人は不意に尋ねた。
「見たけど……」
「どうだった? 死地へ赴く者たちの空気があったか?」
「準備で忙しそうって感じだったけど、酒を飲んでる奴もいたし、普段通りって感じなのかな?」
「そうじゃろうな……」
老土人は頷いた。
「団長が怪我をしていても、誰も負けると思っとらん」
「それだけ自信があるってことじゃないのか?」
心に余裕がある。
いいことのように感じた。
「そうとも言える」
老土人は槌を置いた。
「銃器の力を信じ切っておるんじゃよ」
それは強さへの自信というより、銃器への過信を憂いてのものだった。
「ワシは戦のことはよう分からん」
そう前置きする。
「だが、何か一つを信じすぎるのは、良くない気がするんじゃ」
その言葉に、リオンは考える。
確かに銃は強い。
それでも武器は武器だ。
絶対ではない。
不具合が起こることもある。
想定外の事態だってあるだろう。
そうなった時。
最後に頼れるのは使い手自身だ。
誰でも扱えるという利便性は。
同時に、使い手が成長する機会を奪うこともある。
武器に頼り切った者たちは。
想定外の事態に対応できるのだろうか。
言わんとしていることは理解できた。
「足元を掬われんといいがの……」
そう呟くと、再び作業へと戻った____。
*
それからしばらくして。
「よし……」
老土人が盾を持ち上げた。
「これで完成じゃ」
リオンは目を見開く。
確かに同じ盾だ。
だが別物にも見えた。
受け取ったシールがそれを構える。
その瞬間、違和感の正体に気付いた。
怪我による衰え。
落ちた体力。
それらを考慮して調整されたのだろう。
見た目はほとんど変わっていない。
それなのに不思議と違って見えた。
まるで最初からシールの身体の一部であったかのように馴染んでいる。
「すげぇ……」
思わず声が漏れる。
まさにシールのためだけに作られた武器だった。
「あと鎧もじゃな」
鎧も同様だった。
先程まで残っていた傷跡は跡形もない。
補修しただけではない。
損耗した箇所を調整し、魔力防御も見直されている。
まるで新しく作り直したかのような仕上がりだった。
「これで準備は整ったな」
シールが満足そうに頷く。
だが老土人は首を横に振った。
「まだわからんぞ」
「なんじゃ?」
「怪我の状態次第では、また調整が必要になるかもしれんしな」
そう言って工具を片付け始める。
「だから、ワシも行く」
当然のような口調だった。
「決戦の最中に装備の不具合なんぞ、笑えんからな」
シールは小さく笑う。
「相変わらず心配性じゃな」
「誰のせいじゃと思っとる」
老土人はそう言って肩を竦めた。
そのやり取りはどこか慣れたものだった。
長い歳月を共にした者同士だからこその空気があった。
*
リオンが老土人の鍛冶場にいる頃。
ラットとミルは砂漠への旅支度のため、街へと繰り出していた。
「水に食料……。保存食。暑さ対策はすでにあるから、こんなものかな?」
ラットは鞄の中を確認する。
砂漠は過酷だ。
水は命に直結する。
暑さ対策の装備はすでに揃っているが、食料や消耗品は補充しておかなければならない。
「あとは保存食だね」
「保存食……」
隣でミルがぽつりと呟いた。
どこか重たい声だった。
「ん?」
「保存食……」
再び、ミルは意味深にそうに呟いた。
そう。
これからまたしばらく保存食での生活が続くのだ。
保存食……。
干し肉。
乾パン。
携帯食。
栄養は十分だ。
だが、味気ない。
それでも砂漠は熱い。
通常の食料はすぐにダメになる。
限られるのだ。
「滞在……一日だけになっちゃったね」
「……ん」
ミルは残念そうに呟いた。
やっとの思いで、フェルゼンについたが、滞在は一日だけとなった。
食事を堪能するほどの余裕はない。
本来なら少し疲れを癒すため、あと数日だけいる予定だった。
その間に食事を楽しむつもりだった。
だが、到着した直後から状況は慌ただしく動いた。
そして明日、砂漠の町へと出発する。
ラットたちの目論見は脆くも崩れ去った。
「これからまたしばらく……保存食生活……か…………」
ラットも現実を認識した。
「……」
ミルは無言で肩を落とす。
二人は切ない背中を見せながら歩いた。
市場の賑わいを横目にしながら。
美味しそうな匂いが漂う。
楽しそうな笑い声も聞こえる。
だが二人の行く手にあるのは保存食。
どこか哀愁を漂わせながら。
二人は保存食の店へと向かうのだった____。
*
哀愁を漂わせながら、歩いていく。
そこへ。
「さすが流通の拠点となる街なだけあるね」
落ち込んだ空気を変えるようにラットが口を開いた。
「必要な物があっという間に揃ったよ」
「……ん?」
ミルが顔を上げる。
「正直、もっと苦労すると思ってたんだ」
ラットは鞄を開けた。
そこにはいくつもの金属部品。
「魔導機械に使う部品があると思ってなかったから」
地の国の発展は目覚ましい。
各地から物資が集まり。
新しい技術も次々と生み出されている。
科学技術に使われる部品も流通しており、思った以上に買い揃えることができた。
「これでできる……」
それを見たミルは呟いた。
ラットはミルに相談していた。
不穏な軍勢に立ち向かうために、作ってほしい魔導機械があると。
そのために、必要となる素材を探しに店を回っていた。
だが、見つけたのは素材どころではなかった。
土人族の手によって作られた高品質な部品が並んでいたのだ。
本来なら素材から加工しなければならない工程。
それが最初から完成された状態で売られていた。
しかも品質は申し分ない。
二人は予想外の掘り出し物に目を見張った。
そして、必要になりそうな物を次々と買い込んでいった。
砂漠の町での戦い。
相手は正体不明の軍勢だ。
ラットは一筋縄で終わる戦いだとは考えていなかった。
「使わないに越したことはないけど……。状況次第では役に立つと思う」
あらゆる状況を想定して、その対策に役立ちそうなものを考えていた。
敵の戦力。
罠。
地形。
その全てを考慮した上での備えだった。
ミルも真剣な表情で耳を傾ける。
先程まで食べ物のことで落ち込んでいたとは思えない。
彼女もまた職人だ。
「ん、できる……」
必要な機能。
使用する素材。
二人は意見を交わしながら、完成形を詰めていく。
開発は砂漠の町への道中になるだろう。
限られた時間の中で、どこまで仕上げられるか。
これから作る魔導機械について語り合いながら街を歩いていった。
*
そして翌朝。
準備を整えた一行は、新たな目的地へ向かう。
砂漠の中央。
熱砂の街ビステ。
決戦の舞台となる地へ____。
【旧版完結と改訂版のお知らせ】
旧版『元勇者パーティのアイテム係』を読んでくださり、本当にありがとうございました!
こちらの旧版は今回で一区切りとなりますが、
現在はブラッシュアップを行った改訂版を連載しております。
以降のエピソードは、改訂版の第七章から読むことができますので、
ぜひそちらもお楽しみください!
「第七章 熱砂の街ビステ ~古豪~」
改訂版では、
一章・二章を中心に大きく見直し、
三章も一部再整理しておりますので、
より読みやすい形で物語を楽しんでいただけるかと思います。
なお、伏線や本筋に大きな変更はありませんので、
こちらを読んでくださった方は、
そのまま続きから読んでいただいて問題ありません!
もしラットたちの物語を引き続き楽しんでいただけるようでしたら、
ぜひ改訂版の方もよろしくお願いいたします!
改訂版はこちら
https://ncode.syosetu.com/n5295md/




