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第122話 立ち塞がる石城岩峰

 シールへの度重なる攻撃の末、リオンは一つの結論に至った。


 攻めでは不利だ____。



 防御に徹したシールを崩すには、今の自分では力不足だ。


 そう判断したリオンは、逆にシールの攻め気を誘うことにした。


「あんたは攻めてこないのか?」


 リオンは剣を構え直し、シールへ問いかける。


「もし俺の役目が〝足止め〟だった場合……目的を達成しちまうぜ?」


 リオンは架空の戦場での状況を思い浮かべた。


 シールは自分より遥か格上だ。

 もし自分一人でシールを引きつけられるのなら、大きな意味が発生する。


 引きつけている間、他の仲間たちが動けるのだ。

 前線の負担を減らすことができる。

 戦場では、それだけでも十分戦果になるのだ。


 シールとしては、足止めされたままとなるのは不都合だ。

 だからこそ、突破するために自分から攻める必要がある。


「いいだろう」


 リオンの考えを察したシールは、ニヤリと笑った。


 確かにその通りだ。

 これを実際の戦場と考えるなら、十分あり得る状況だ。


 そして、リオンは明らかに攻撃を誘っている。

 自身からの攻撃では、突破は難しいと考えた上での行動だろう。

 おそらく狙いは、カウンターだ。


「いくぞ!!」


 その瞬間、空気が変わった。


 防御を主体とした構え自体は変わらない。

 だが、纏う圧がまるで別物だった。


 巨大な盾を前へ突き出し、腰を深く落としこむ。


 先ほどまでの〝城塞〟のような重厚な雰囲気とは違う。


 今そこにあるのは。


 押し寄せる雪崩のような圧だった____。



「こいッ!!」


 リオンが叫ぶ。

 剣を握る手にも自然と力が入った。


 ズンッズンッズンッズンッ____


 シールが歩き出す。


 一歩、また一歩。


 ゆっくりと。


 だが、そのたびに地面が震えた。



 シールが近づいてくるのを、注視してしまう。


 水の国の妖精族フェアリのような速度ではない。

 だが、決して遅くはない。


 いや。


 恐ろしいのは速さではなかった。

 その踏み込みだ。


 一歩ごとに地面が砕ける。

 その衝撃に目を奪われた。


「っ!?」


 リオンの背筋へ寒気が走る。


 重戦士。

 しかも、並のそれではない。

 一歩踏み出すたび、振動が身体へ伝わってくる。


 まるで災害だった。

 迫ってくるシールが、岩山のようにさえ思えてくる。


 大柄な冒険者の倍はあろうかという拳。

 そこへ握られた、重く長大な盾。


 それを振りかぶる。


 ゴオッ____


 空気が悲鳴を上げた。

 盾が空気を押し潰しながら迫ってくる。


 硬さ__


 重量__


 圧力__


 それら全てが一撃へ込められていた。


 まともに受ければ終わる。

 圧し潰される。


 リオンは直感で理解した。


 まともに受けてはダメだと____。



 目前に迫る重量。


 額から汗が伝う。

 だが、視線は逸らさない。


 見開かれた目で、それを確実に捉えていた。


 斜めへ踏み込む。


 剣を滑らせるように添えた。


 流す。


 ギィィィン____


 響き渡る甲高い金属音。


 盾の軌道がわずかに逸れ、そのまま地面へ叩き込まれた。


 ズウゥゥン____


 地面が爆ぜる。

 石片が吹き飛ぶ。


 暴風が横を通り抜け、リオンの髪を激しく揺らした。


「おいおい……なんだよ、この威力……」


 リオンが顔を引きつらせる。



 シールは盾使い(フォートレス)となる以前、大槌を得意としていた。


 純粋な〝石城岩峰ストーンクレスト流〟の使い手である。



 石城岩峰流は地の国に伝わる騎士流派だ。


 重心を深く落とし、大地と一体化することで莫大な安定性を生み出す。


 踏み込みによって地面から力を引き出し。


 質量、膂力。


 それら全てを一撃へ集約する。


 まるで山そのものがぶつかってくるかのような重撃。


 石城岩峰流を振るうための強靭な筋力は、生半可な攻撃を容易く弾き返す。


 攻防一体。


 堅牢さと破壊力を極限まで高めた、地の国を象徴する戦闘流派である。



 シールは盾使いとなった今もその根本の戦い方は変えていない。


 攻撃時は盾を大槌と見立てることで、石城岩峰流の破壊力は今も健在であった。


「まともに受けたら死んじまうだろ……」


 その威力を目の当たりにし、リオンは驚きを隠せなかった。


 地面へ叩き込まれた盾。

 その衝撃だけで周囲の地面が砕け、石片が跳ね飛ぶ。


 まともに受けていたらどうなっていたか。

 考えるまでもない。


 地面へ叩き伏せられ、全身の骨を粉砕されていただろう。


「ほう……」


 驚いていたのはリオンだけではなかった。


 先ほどのリオンの動き。

 盾をいなした技術には見覚えがあったのだ。


 受け止めるのではない。

 もし受け止めようものなら、体勢ごと潰され、そのまま押し切られていただろう。


 だが、リオンは違った。


 剣を滑らせるように添え、その勢いを逸らした。


 力に逆らわない。


 流して、崩す。

 それは、勇者ヒーロが得意としていた戦い方だ。


「面白い……」


 動きもどこか似ている気がした。


「どれ……」


 シールが盾を構え直す。


「もっと試してみるか」


 次の瞬間、再び地面が揺れた。


 ズンッ____


 シールはさらに踏み込む。


 今度は先ほどよりも深く。


 より鋭く。


 リオンの技を試すように____。



 盾を振るう。


 叩きつける。


 薙ぎ払う。


 轟音が響き、地面が抉れ、砕けた石片が弾け飛ぶ。

 巻き上がった土煙は視界を覆う。


 山岳が動き出したかのような暴威だった。



 猛攻をリオンは捌いていく。


 そのすべてを受け流し。


 勢いを空へと逃がしていった。


(やはり……)


 シールは確信した。


 この戦い方。

 この力の捌き方。


「おまえ、勇者の技を学んでいるな?」


 ヒーロと重なる動きが、随所に見え隠れしていた。


 独学で辿り着いたにしては、あまりにも似すぎてきたのだ。


「どこで覚えた?」


 シールが問いかけた。

 リオンは剣をシールへと向けながら、少し笑う。


「これか? 王都で勇者さんが戦うのを見たんだよ」


 それはリオンへ強烈な衝撃を与えた。


 リオンの元になっているのは騎士団の戦い方だ。

 騎士団は盾で受け、返しの剣を叩き込む。


 しかし、ヒーロの戦いはまるで別物だった。

 リオンの常識を覆した。


 盾を使用せず、攻撃をいなす。


 流れるような剣技。

 力ではなく技で捌く、洗練された戦い方だった。


「噂以上だったぜ!」


 それを聞いて、シールは内心で笑った。


「見た……か。面白い坊主じゃ」


 おそらく実戦の中で磨かれてきたのだろう。

 型だけではない。


 実際に戦い、生き残る中で洗練されていった動きだった。



「どれ。そろそろかの……」



 シールの纏う空気が変わる。


 見極めは終わりだと言わんばかりに、重圧がさらに増していった。



【改訂版のご案内】


一章・二章を大きく見直し、三章も一部再整理した改訂版を公開中です。

四章以降については、現状ほとんど変更は入らない予定となっています。


改訂版は二話ずつ更新しておりますので、追いついたタイミングで、そちらへ移行していく予定です。


なお、伏線や物語の本筋に変更はありませんので、

現在こちらを読んでくださっている方は、そのまま読み進めていただいて問題ありません。


あとがきでは、Xにてご要望の多かったキャラクター同士の雑談形式の小ネタや裏話、次回予告なども掲載しています。


最後に、もしよろしければ何かしら反応などもいただけたら励みになります。

引き続き、『元勇者パーティのアイテム係』をよろしくお願いいたします!!


改訂版

https://ncode.syosetu.com/n5295md/

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