第12話 形状変化のルーン
宿屋で宝物を無事に見つけたラットは、魔機屋へ急いで戻っていた。
店主に早く見せたい。稀有な代物だ。
さすがの彼女でも、出会ったことはないだろう。風に吹かれる頬がにやける。彼女に有意義なひと時を、少しでも提供できれば。
ふと、すれ違った。
視界を掠めた純白に引かれ、盗み見る。
雪を連想させる長い白髪を、いつか、どこかで見たような。
……いや。
この独特な雰囲気は、覚えている。
反転する。
(どこで出会ったかな?)
この街での知り合いではない。
勇者パーティと旅をしていた頃の、知り合いだろうか?
冒険者……には見えない。
であれば、商人の娘か?
いずれにしろ街を点々としているならば、怪我をした仲間の情報が、今ここで得られるかもしれない。剣士たちには申し訳ないが、捕まえて確認すべきと判断した。
脇道へと進む少女。
走る。
追いかけ、曲がる。
(いない!?)
どこにも見当たらない。
消えた。
雪のように……。
*
襲いかかってきた閃光を、キィン、と咄嗟に斬り払った。
「へえ。まさか防ぐとはな」
冷や汗を流す剣士の目の前で、少年が嗤っている。サーベルを握って。
散らばる思考を手当たり次第かき集める。
店の前。
転がるジャンク品。
扉を閉める音。
立ち止まる少年。
風の匂い。
靡くマント。
傾く重心。
反射する光……
迫る刃……!
抜いた。
奴が、振り向きざまに、サーベルを一閃したのだ。
「……おい」
視線を少年に留めたまま、背後の仲間へ話しかける。
「はい!?」
重なる弓使いと槍使いの裏声。
「強化水を飲め」
「まっ、ままままどうすい!?」
「てか何なのこの状況!?」
「……二人とも、リーダーの言うことを聞きなさい」
魔法使いだけが、剣士の考えをわかってくれる。
弓使いと槍使いはあたふたと、魔法使いは冷静に。指示に従う三人の気配を感じながら、自身もポーチから取り出した強化水を飲む。飲みながら、少年に話を振る。少しでも時間を稼ぐために。
「礼儀知らずにも程があるんじゃねぇか?」
「どうやって勝ったのか教えろ、と言っただろう?」
少年がサーベルを不敵に構え直す。
「こうして試すのが、一番手っ取り早い!」
閃光が疾る。
「っく!」
紙一重で斬撃を弾く。
攻撃の終わり、反撃のチャンスを見逃さず、少年へと放たれる矢。
が、当たらない。
死角から放たれた弓使いの一矢をサーベルは容易に斬り捨て、剣士の心臓へ再び突進する。
「でやぁああーっ!」
槍使いが横から飛び出す。
直後、斬られた。あっさり避けられて。
魔法使いの炎すら、少年は背後に軽やかに舞って躱す。
剣。槍。矢。魔法。
強化水で能力を極限まで向上させ、四対一で迎え撃っても、ことごとく弾き返される。
「この程度の実力でアレに勝てたのか?」
切り傷が増えていく剣士たちと違い、少年はどこまでも涼しい。
「なぜだ? 前の戦争で怪我をしていたのか……?」
猛攻を捌く片手間にブツブツと戯言を呟く余裕すらある。
「手を抜いてるわけじゃないだろ? 俺を人と思っているのか? 安心しろ。俺は人じゃない」
くだらない冗談まで。
「もっと必死になれ。さもなければ――殺すぞ」
その発言は、本気だ。
「ッおい、やるぞ!」
剣士の合図に、全員が腹を決めた。
「うおおおおーっ!!」
地を蹴り、少年へと斬りかかる。
「ハッ、自棄になったか?」
「なんてな!」
寸前、伏せた。
剣士の代わりに飛びかかるのは、砂塵。
<舞い上がれ――ブレイズ!>
魔法により発生した突風と、それにより舞い上がった砂塵が、少年の逃げ道を塞ぐ。
「馬鹿め。こんな砂埃で止められるとでも……ッ!?」
地面に足を取られる少年。狙い通り。
「必殺、落とし穴ツクール!」
砂塵に行手を制限された少年の足元に、槍使いがアイテムを叩き付けた。地面は流土となり、少年の足が次第に埋まっていく。
「おまけ!」
弓使いがすかさず網を投げ、少年を捕捉する。
(今だっ!)
立ち上がると同時、振り上げる。――ぐにゃぐにゃとしなる、魔力で纏われた透明な刀身を。
ルーンを発動させた剣を、抜き放つ。
唸り、暴れ回る剣。否、〝鞭〟。
空気を縦横無尽に喰い荒らし、少年へと噛み付く。 砂塵の死角から。
笑みが込み上げる。
完璧だ。
不規則な軌道の鞭ならば、読まれにくい。さらに死角から攻撃すれば、回避も難しい。
万が一避けられたら?
リーチの長さを利用し、手にでも足にでも巻き付けて動きを止めればいい。
攻撃力増強のルーンでは真似できない、変幻自在さ。
これこそが、地味な形状変化のルーンを選んだ理由。
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