第11話 来訪者
「――ギアノイド!?」
大声が出た。
「魔導科学の夢、完全自律で動く人型の魔導機械……!」
視界が輝きかけて、
「いえ、でもギアノイドは、まだ構想段階のはず……」
勇者たちと共に色々な世界を旅してきたが、ギアノイドに出会ったことは終ぞなかった。
店主の手が、自らのうなじに伸びる。
「……!?」
そこから引きずり出された、あるはずのないコードに、釘付けになった。
店主に視線で促され、触れてみる。
おもちゃ、ではない。
引っ張ってみたコードは、確かに店主のうなじの、さらに奥へと繋がっている。
「ほ、ほんものだ……!!」
疑いが消える。
ギアノイド。
――ギアノイドだ!
「既に、実現していたんですね……!」
店主がこくんと頷く。
「本当に……人と、見分けがつかない……」
コードを収納したうなじに触れる。
未来の存在と今出会え、声の震えが止まらない。
髪の質感。声の響き。肌の感触。いずれも、人そのものだ。昨日ミルクを飲んでいたことから、食事も同じようにできるのだろう。
表情と声色の淡白さは、ギアノイド故か?
誰が造ったのか、は愚問だ。
彼女の父親は、この世界でただ一人。
「博士……あなたが神か……!!」
アーティファクトのみならず、ギアノイドまで。数々の偉業に、魂がむせび泣く。
カランッ、とドアベルが花を添えた。
「ルーンはそれでよかったの?」
「あれだけ炎魔法を付与するって言ってたのに」
「心変わりなんてリーダーらしくないじゃん」
「ふふん、戦いになった時のお楽し……」
魔法使い、弓使い、槍使い、そして剣士。笑いながら店に入ってきた四人と、目が合う。
「用事、終わっ……」
「さあせんっしたああぁぁぁぁぁ!!」
剣士の手が頭に高速でのしかかり、床と二度目のお見合いをさせられる。しまった。店主のうなじに手を置いたままだった。
「悪気はないんだ! アイテムにどっぷりで口説きのコツを知らねぇだけで!」
「違います」
「もうっ、アプローチするなら順番を守りなさいよ!」
「誤解です」
「うらやま……じゃない、けしからない! いくら可愛いからって、いきなりはダメだよね!」
「冤罪なんです」
「そりゃ俺も大きい……目をしてていいなあって思ってたけど! こんなガラクタだらけの場所じゃあ、ムードも何もあったもんじゃ――ん?」
槍使いの肩を、いつの間にか回り込んでいた店主が叩いた。
「え?」
店主が、槍使いを押す。
「ちょ?」
ぐいぐい。
「あはは、積極的だね?」
ぐいぐい。
「俺もちょうど君と話したいと思っ……」
__ばたん。
出入り口が閉まり、槍使いが締め出された。
戻ってくる店主。
「なんで俺だけ!?」
ばたん! 扉が乱暴に開け放たれる。
「お客様じゃない」
「はあ!?」
店主の一言を聞き、ラットたちは事態を察した。
ガラクタ。槍使いのあれがスイッチだ。無表情だが心なしか店主の頬が膨れているように感じる。
(バカっ!)
(店主の前でガラクタ呼ばわりする奴があるかっ!)
(あぶなかった……)
剣士たちが何やら話している。
もちろん、この宝物の数々がガラクタなはずはないため、言い間違いだろうが、店主は聞き逃せなかったらしい。実力行使で追い出したという訳だろう。
それよりも。
「僕、店主さんに見せたい物があるんです!」
謎が解けたところで、本題へ入る。
「たくさんの宝物を見せていただいたお礼に、今度は僕の宝物をぜひご覧に……あれ?」
マジックバッグに入れた手は、しかし、いつまで経っても何も掴まない。
思い出す。
今朝、宿屋の自室で整理した。
大人買いしたアーティファクトを、バッグから取り出して。もしかしたら、その時に誤って落ち――
「取ってきます!」
扉へ走る。
降りかかった魔法使いの声に心の中で応える。
(はい、すぐに取ってきてお見せしますね!)
*
「ラット、待って……!」
剣士なら絶対に足を止める魔法使いの呼びかけも、ラットには無効だった。忘れてきたアイテムで頭がいっぱいの彼は、誤解したまま、脇目も振らずに宿屋へと走っていってしまった。
残るは、店主と、剣士たちのみ。
じ……、と店主が視線を合わせてくる。
黒い瞳に映す。槍使いは除いて。何も言わず、ぴくりとも動かず、ただただ見つめてくる店主は、やりづらいことこの上ない。
(変わり者の娘は、変わり者ってことだな)
(やめなさいよ)
(僕もう帰りたい〜)
(ラットを置いていけないでしょ)
(気まずいよ〜)
(おい地元民、話しかけてこい)
(無視されてるのに!?)
ドアベルが鳴った。
振り向くと、紫色の髪の少年が立っている。
いけすかない。一目見て、そう思った。
目鼻立ちのくっきりとした顔、長い手足、線の細さ。女から黄色い声を上げられて育ってきたに違いない。腰に装備する武器がサーベルという気障ったらしい剣であることも、癇に障る。
血色の悪さだけが唯一許せる部分と言える。が、こちらを値踏みするような生意気な瞳のせいで、それすら気に食わなくなりそうだ。
「フレアベアの討伐をギルドに報告したのはお前たちか?」
口調もまた、随分と高慢である。ますます、いけすかない。
「初対面の年上に利く口じゃねぇな」
「いいから答えろ。お前たちがフレアベアを倒したのか?」
「フレアベアって何〜?」
弓使いが訊いた。
「巨大な熊型の魔物だ」
「ああ、あの魔物!」
「名前あったんだ」
「確かに噴いてたわね、火」
「ぶっ倒したが、それがどうかしたか?」
ふん、と少年が鼻を鳴らした。
「お前たちが、か?」
小馬鹿にするような笑み。カチンとくる。
「何が言いたいっ!」
「アレはA級の冒険者パーティが複数集まってやっと勝てる代物だ。お前たちのような装備も真新しい新人どもは、まかり間違っても勝てない」
「疑ってんのか?」
「本当なら、どうやって勝ったのか教えろ」
「表に出な」
指示に従い、少年が外に出る。続こうとしたところで、魔法使いが寄ってきた。
(ちょっと、年下相手にムキにならないでよ)
(口の利き方を教えてやるだけさ)
(ここから出られるなら何でもいいよ〜)
弓使いと槍使いに背中を押されながら少年を追う。
「ありがとうございました」
店主の見送りの言葉は、昨夜と違ってスムーズだった。
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