第10話 ギアノイド
夕食を食べ終えた剣士たちが食事処を出ると、辺りはすっかり闇に染まっていた。
「ふぃ〜、遅くなっちまったなあ」
酔っ払いながら宿屋までの道のりを歩く。
「ギルドは最高だったね〜」
「次から次へと冒険者が押し寄せてきて、気持ちよかったよ」
「わかってるとは思うけど、ラットがいてこその勝利だってことは忘れちゃだめよ」
「もちろん〜」
「忘れない忘れない」
「いらねぇっつっても、報酬はラットにもちゃんとやる」
「なら、いいわ」
「でも、ルーンは刻んでもらえなかったね〜」
「休みじゃ仕方ないわよ」
「魔法屋、明日はちゃんとやってんだろうな? もし、やってなかったら……」
「ラット、今頃ぐっすりだろうなあ!」
「ジャンク屋では大はしゃぎしたでしょうね」
「いやはや、あの変わり者を大天才なんて呼ぶのはラットくらいだよ」
「あ、ほらリーダー、宿が見えてきたよっ」
灯りを目印に宿屋へと戻ってくる。ラットに続いて休むべく、出迎えてくれた主人に適当に挨拶をし、
「――は!? 帰ってねぇ!?」
ラットが未だに帰ってきていないことを、聞かされた。
「あっははは!」
笑い出したのは弓使いだった。
「まったくラットったら、どれだけ気付かれないのさ」
「しょうがねぇなあ、あいつは」
「あら、その存在感のなさこそラットの長所でしょ?」
その通りである。
微塵も心配せず、階段を上る。
槍使いがラットの部屋の扉を笑顔で開けた。
「そら、俺の言う通り、ぐっすり……」
――いない。
「つ、連れてかれたんだ……妖精に、とうとう……」
「部屋の隅は!?」
「いつの間にか横にいたりしねぇか!?」
「やっぱりいないよ!!」
「まままさか、ほんとに帰ってなかったり!?」
「迷子よ! 迷子だわ!」
「落ち着け! あれでも十八なんだ、無事だ!」
「で、でも、じゃあどこに!?」
集まる視線にたじろぐ。どこにいるのか、まるで心当たりが――いや。ある。
「……行くぞ!」
階段を駆け下り、夜闇に飛び込む。
狼狽える仲間たちを引き連れて辿り着いたガラクタ置き場。ジャンク屋。
消えていない灯りと、早口の話し声に、背中に嫌な汗が流れる。信じたくない思いで、扉を開けた。
「こ、これが魔導コンロ……!」
四角い謎の物体を恍惚と掲げるラットを見せられた瞬間、酔いが完全に醒めた。
__トン。
「……少し衝撃を与えるだけで、火が点く」
「おおっ、点きましたあ! 革命です! これさえあれば、野宿でもあたたかいご飯が……!」
「さあせんっしたあああぁぁぁぁぁ!!」
猛ダッシュで暴走を止める。鼠色の頭を力ずくで下げさせた時、ラットの眼中にようやく剣士たちが入った。
「あれ? 随分早かったですね」
「もう夜だ!」
「おうちに帰るわよ〜」
「うわっ何このガラクタの山!?」
「買ったの!?」
「っ袋からはみ出してるその宝はですね!!」
「突っ込め!」
「お邪魔しましたぁ!」
ガラクタの山をマジックバッグに突っ込み、四人がかりでラットを店の外へと押し出す。
「……ありがとう、ございました……」
店主の挨拶が気まずい。このハイテンションに延々付き合わせてしまったのだ。顔向けできるはずがなく、沈んだ声音から逃げるように立ち去った。
*
翌朝。朝食もそこそこに済ませたラットは、真っ先に魔機屋へと向かった。
もちろん、謝罪のためだ。
昨夜。魔機屋から連れ出されたラットは、まず食わされた。食事処がすでに閉まっていたため、味気のない冒険食を。
そして投げ出されたベッドで、ふらふらの身体が回復した頃。魔法使いに教えられた。午前中から飲まず食わずで訊き続けてたのよ、と。
実に半日近く、店主を拘束してしまった。
さすがに、さすがに半日はやり過ぎた。
これがラットの店ならば、半日でも一日でも大歓迎だが、いかんせん、他人の店である。とんだ営業妨害だったに違いない。
また、体調も心配だ。
自分が崩したのだから、彼女だって良くはないだろう。嫌な顔一つせずに接客してくれていたが、実際は限界だったのではないか。体調不良で今日は臨時休業、なんてことになっていたら――
「いらっしゃいませ……」
が、店主は至って普通だった。
乱れた息を整えながら、店主を見つめる。クマもなければ、コケもない。ごくごく平然としている。
「……続き……、しないの?」
小首を傾げられ、我に返った。
「っこちらの宝は!」
真に受けてどうする。
「昨日はすみませんでした」
頭を深々と下げ、ここに来た目的を果たす。
「……どうして謝るの?」
「長々と拘束してしまい、多大なご迷惑を……」
「お客様に接客するのは、当たり前……」
寛大な言葉に顔を上げる。見直した店主は変わらず彫刻のようで、思い切って尋ねた。
「……あの、お身体、何ともありませんか?」
店主がまた、小首を傾げる。
「実は僕、これでも冒険者でもあるんです。才能はからっきしですが、体力は少なくとも一般の方よりはあると自負してるんですよ」
目の前の少女よりは強いと言い切れる。
「そんな僕ですら昨夜はげっそりしてしまったのに、お変わりなさそうに見えるものですから。本当に、大丈夫ですか?」
顔色を改めて窺う。実はすごく無理をしているのでは――
「大丈夫」
即答された。
そして、聞いた。
「わたし、ギアノイドだから……」
衝撃の一言を。
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