貴方は永遠に私のものなので誰にも譲りませんわ
拙作は「人を殺める場面」や「死描写」といった残酷描写が含まれます。
苦手な方はご注意くださいませ。
また、黒薔薇の花言葉をモチーフにした「ポエム風ダークファンタジー」です。
私の名前はアンネ。
騎士として活躍していたお父様と魔法師だったお母様と穏やかに過ごしていた。
その生活は瞬く間に過ぎ去り、私が七歳の頃にお母様が病死。
後を追うようにお父様も戦死……
大好きだった家族をなくし、天涯孤独となった私は父方の母親に引き取られることになった。
その人が私の継母となる。
お父様は強くて優しい人だったし、家族でご挨拶に行った時は歓迎してくれたからきっと大丈夫なはず……と思っていた私が馬鹿だった。
†
豪奢なドレスに身を纏い、綺麗な宝石で華やかにしている継母と義姉。
今はいないけれど、騎士団に所属している義兄もいる。
私は豪奢なドレスではなく、地味なロング丈のメイド服。
私を家族ではなく、使用人のように扱う彼女らはくすくすと冷ややかな視線を向け、ひそひそと陰口を叩いていたり、わざとらしく紅茶をこぼして掃除させるのは日常茶飯事。
酷い時は私の頭に熱い紅茶をかけられ、食器を投げつけられることもしばしば。
一方の彼は私には関心がなく、無愛想な表情でぶっきらぼうに挨拶を交わす程度でまともな会話らしいものはしたことがない。
まるで灰被り姫みたいだわ。
彼女らの指示に従い、どんな理不尽にもじっと耐えるしかない。
こんな人生を送るのならば、私なんて生まれてこなければよかった。
何故ならば、この家族からは愛情なんて感じられないから。
家族の温かさや本来受けるべき愛情、純粋な愛だなんてほんの少ししか知らない。
こんな私を愛し、大切にしてくれる人なんて簡単には見つからないと思う。
私は本当の家族をなくし、義理の家族から使用人として扱われている身なのだから。
どうか私を愛してほしい。
とにかく他の誰よりも私だけを見ていてほしい。
ずっとずっと永遠に――
それだけを望んでいた私はメイド服からこっそり盗んだ義姉のドレスに身を纏い、地道に貯めていた小遣い程度のお金を持ち、事前に準備していた置き手紙を残し、誰にも気付かれないよう継母の家を出ていった。
†
愛情に飢えた私は大切にしてくれる人しか興味を持たなくなった。
私は街の中を歩いている時はもちろん、宿屋の食堂みたいなところでゆっくりしている時も自分のことを受け入れてくれる優しそうな男性を一人ひとり舌舐りするように眺める。
これからの人生を共にする生涯の相棒ですもの。
この眼でしっかり品定めしなければなりませんわ。
もし見つかったら「この人は私、アンネのもの」だと分かるくらいのくっきり跡が残るキスマークを複数箇所付けてあげなくては。
その人の人生が、終わる日までずっと独占するために――
†
うふふ……ようやく手に入れたわ。
私のことを愛し、大切にしてくれる優しい男性を。
頬と首筋の目立つところにキスマークをくっきりと付けた。
その時に「結婚しよう」と言ってくれたのよ。
私は迷わず「はい」と返事をした。
今日から貴方は私のものよ。
貴方は仕事の時以外は何時でも何処でも最期までずっと私だけを見ていればいいの。
私の欲を満たしてくれればいいの。
はじめは清楚な印象を与えるべく、淡い色のドレスを着用して、なるべく薄化粧をしていた私。
時間が経つにつれて派手なドレスに身を纏い、濃い化粧を施すようになった。
それは彼から「綺麗だね」「美しいね」と褒められ、「アンネ……愛してる」と一日一回言わせるようにするためよ。
私はそれだけで十分満たされるの。
一日一回だけではなくて、もっと言ってもいいのよ?
ご褒美のキスは倍にしてあげるから。ね?
こうして私は灰被り姫のような地味な女から独占欲に塗れた派手な女に、本来求めていた純粋な愛から歪んだ愛に変わっていった。
私は貴方のことを束縛したくなるくらい愛しているわ。
私はもっと深い愛に溺れたいの。
だから、貴方も私と同じくらい愛しなさい?
†
ある日、風の噂で彼の浮気話を耳にした。
ずっと彼の職業を明かさなくて申し訳ないわ。
彼は薬師として従事しているの。
優しくて、周囲から信頼されている故に私の姿が見えないところで……!
浮気なんて絶対に許さないわ!
この人は私のものよ!
他の誰にも譲らないわ!
他の女なんて全て消え失せればいい!
この人のためだったら……私は壊れてもいいわ!
ふと鏡に映った私の顔は眼に光を宿しておらず、口元は笑っている。
まるで、嘲笑しているかのような狂気に満ちた表情を――
今の私の顔、とてもいい顔しているじゃない。
この顔で浮気相手を見下してやりたいわ!
私は魔法が使えるので、浮気した女の位置情報を特定し、魔法を上手く利用して犯罪行為に手を染めることにした。
実の母が魔法師でよかったわ。
義理の家族と愛する彼の前ではずっと魔法を封印してきたのだから解放しましょう。
私にとって愛する彼のためだったらどのような手段でも厭わないし、彼に手を出した女は全てこの私が殺めさせていただくわ!
魔法は時には傷を癒し、時には刃のように傷つけることができる便利なものよ。
たまに自らの意思で魔法は使わず、食事や飲み物に毒を盛ったり、気付かれぬよう鋭利な刃物で刺殺することもある。
みーんな優雅で上品な表情から一気に怯えた表情を見せてくれるから面白くて嗤ってしまうわ……!
私はね……愛する貴方のためだったら周囲の人間も殺められるのよ!
壊れた私も好きになりなさい!
ふふっ……貴方が浮気した女はいなくなったわよ?
彼女らは私がみーんな排除したからね。
これからは私以外の女のことは全て忘れなさい。
貴方はずっと私のことを見ていなさい? いいわね?
†
もし私が貴方より先に最期の日を迎えたら間違いなく浮気する。
私は家の全ての鍵を掛け、彼に出す料理に毒を盛った。
最期の晩餐よ。
どうぞ召し上がれ。
その料理を食べた貴方は何も気が付かない。
おかしいわね……と食べながら思った瞬間、フォークとナイフを床に落とした音がする。
よかった。
全身に毒が回ってきたようね……
彼は眠るように生を終え、私は彼のシャツのポケットに一輪の黒い薔薇を入れ、私も利き手ではない方の手で黒い薔薇を髪に刺し、果物ナイフを心臓の位置に数回突き刺した。
これからもずっと一緒にいたいから心中しちゃったわ♡
これで貴方と私はずーっと永遠に一緒よ♡
私の歪んだ愛は続いていく――
本編を最後までご覧いただきありがとうございます。
さて、黒薔薇の花言葉はご存知でしょうか?
ポジティブな意味として「永遠の愛」や「決して滅びることのない愛」といった愛が深くて情熱的な意味が、ネガティブな意味として「憎しみ」や「恨み」といった怖いものから「貴方は私のもの」のように強い独占欲を示す意味が込められています。
作中ではアンネの強い独占欲と浮気相手に対する殺意を表現させていただきましたが、如何でしたでしょうか?
ここまでご覧いただきありがとうございました。
2026/04/22 本投稿




