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今は何世紀だ?

引き出しから現れるのは、未来から来た猫型ロボットだと相場が決まっているだろう。


「おお、少年」


 さっきまで、夏休みの宿題に取り掛かろうとしていたはずの僕は唖然(あぜん)としていた、だって、いきなり勉強机のなかから人が出て来たら、誰だってそうなるだろう。


「えーっと、ここはどこかな?」


 どうやら彼女も、どうして、どうやってこのに来たのかはわからないらしい。


「僕の部屋です、留守番中」


 出て来たのは長い髪を押さえつけるように帽子をかぶった女だった、多分彼女が求めている答えは違っただろうが、僕の部屋であることは確かだ。


「子供が一人で留守番?自分の部屋を持っている?君は富豪か何かなのか?」


 僕は首を振って「中学生にもなればこれが普通だ」と言った。そしたら彼女は何やらぶつぶつ呟いてから一言


「今は何世紀だ?」


 この聞き方に僕は、もしかして、と思い少し期待していた。


「21世紀です」


「おお、やはり未来!タイムスリップか!」


 もしかして、が的中してわくわくしていた。


「しっかし平和な時代になったんだな、子供一人に留守を任せられるし、部屋も持たせられるなんて」


 彼女の時代では戦争でも起こっていたのだろうか。いや、そもそもいつから来たんだろう。


「あぁ私?私は19世紀から来た」


 特に何も言葉を発していないのに答えられて、驚愕している自分がいた。


「そんなに驚くのか、仕事柄ただ人の考えてることがだいたいわかるだけだよ」


 ほそい指が帽子を揺らす。僕はそのチェック柄の帽子とコートを見て、ただのミステリマニアかなにかが転がり込んできたのだと思った。重度のシャーロキアンだと思った。ただ、そうじゃないらしい。


「とりあえず現場調査だな、外に出て色々みてみたい」


 彼女がこの時代について知りたいように、僕は彼女のことが、彼女の時代のことがもっと知りたいと思った。


「僕が案内します、だから、名前を教えてくれませんか?」


 もしかしたら、有名な偉人で……とかそういう可能性、面白そうだ。昔の人なら、名前から何かの記録が探し出せるかもしれない。


「私の名前な、シャーロック・ホームズっていうんだが、知ってる?結構、世界に轟く有名人なつもりなんだけどさ」


 知っていた、有名だった、けれど、偉人ではない。


「日本人ですか?」


 僕の知っているシャーロック・ホームズは、イギリスが舞台のはずだ。


「日本人だな、ハーフとかでもない」

「偽名ですか?」


 僕の知っている日本人は、苗字名前と、だいたい漢字がひらがなで構成されている。


「まさか、本名だよ。それより君の名前も教えてくれ」


佐藤慶悟(さとう けいご)です」


「サトー・ケイゴ……いい名前だ。それで、僕の名前は未来に轟いていたかい?」


 僕は首を振りかねた。縦にも、横にも振ることができない。


「なんだそのびみょうな反応は」


 数拍おいた後で、彼女はにまぁっと笑った。


「シャーロック・ホームズという名前は聞いたことがあるけれど、しかしそれは過去の人物、まして日本人の名前じゃない。そういうことか?」


 全てをピシャリと言い当てられて声を出せないでいると、満足そうに彼女は腕を組んだ。


「いやあ、名前が現代に届いているのは嬉しいが、しかしどんなカラクリだ?少年の想像するシャーロック・ホームズが私とは違うと断言できる理由はなんだ?」


 僕を捉え、細まってゆく目が僕を突き刺す。理由を説明しろ、と問われているようで、口を開かずにはいられなかった。


「まず、僕の知っているシャーロック・ホームズは架空のキャラクターで、ましてや日本の人でもなければ女性でもありません」


 いきなりの情報量に、彼女はさっきまで細めていた目を見開く。


「さらにシャーロック・ホームズという名前は、過去も現在も日本人にはほぼありえない」


「へえ、面白い。シャーロック・ホームズは小説か?ぜひ読んでみたいものだ……それで、少年の言っていることが正しいとしたら、私は何なんだ?」


 何なんだ、ときたか。


「悪い、意地の悪い質問だったか、私が何かはこれから調べればいい」


 帽子の縁が軽く下がる、長い髪が邪魔をして、目が見えない。あなたが何なのか、考えが一つある。


「異世界転移、あなたは異世界転移したんじゃないかなと、僕は思います」


「イセカイテンイ?」


「同じ世界の時間を行き来しているわけじゃなくて、別の世界の19世紀日本から、この世界の21世紀日本という、全く新しい世界に移動した、という感じです」


「あー、だいたいわかった。だいぶ珍妙(ちんみょう)な論だが、納得感はあるな」


「過去の日本人で、名前がシャーロック・ホームズなのはまずあり得ませんから」


「そうか……んじゃまあ、歴史のすり合わせといこうか」

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