六
「えっ何で・・」
「えっ!アリーチェ様の婚約者ってルーベント侯爵家のサリド様なの?」
シシィ様は驚いたようで後ろに下がってしまう。
私は苦笑しながらも頷くと箱を開けた。
そこにはドレスが入っていて、思わず言葉を失った。なぜならそのドレスは一目見て高級品だと分かる物だった。
しかしサリド様の色でも私の色でも無いその色は、決して私にも似合う色では無かった・・
「アリーチェ様、どうなさるの?」
「・・・」
ハンズ様はサリド様から贈られてきたら、そちらのドレスをと言ってくれた。
でも・・
どちらのドレスを着て行けば良いのか悩んでしまった。
ハンズ様と知り合う前ならば決して似合っていなくてもサリド様から贈られたドレスを着ただろう。
でも今は・・
二人から贈られたドレスをトルソーに掛ける。
どちらも一流職人による物で、子爵家の我が家が簡単に手を出せる代物では無い。
ふとドレスに添えられた手紙を手に取る。
サリド様からの手紙はこれで二回目。しかも今回の内容は
「エスコートは出来なくなった。卒業後に一度会おう」
と書いてあった。
二人で会ったのも最初の顔合わせの時だけ・・
「どうしたら良いのかしら・・」
私は悩みに悩んで、着て行くドレスを選んだ。
最初で最後のイベントだからこそこちらを着て行こう!と・・
卒業パーティー当日。
私はハンズ様にも声をかけず、一人で会場へと向かった。もしかしたらハンズ様と会えるかも知れないと、少し早く会場へ向かったが・・
「いるわけ無いわよね」
一人壁側に寄り添いながら立っていると、シシィ様が婚約者様と会場入りをした。が、あえて声はかけなかった。
初めて見かけたシシィ様の婚約者は、名家の伯爵家だった。
確かお父様は近衛隊の副隊長だったような・・
二人はとても仲睦まじそうにしていたから、気付かれないようその場を離れた。
その場を離れてる内に、私は知らず知らずのうちにハンズ様を探している事に気付いて、思わず顔を伏せてしまった。
( 私いま、すごい顔しているわよね・・)
そう思いながら少し身体を縮めると
「おうサリド、やっぱりマリアをエスコートしたのか」
「ええ」
「第二王子殿下ごきげんよう。殿下はおひとり?」
「ああ、俺の婚約者は今度入学だからな」
えっ?
声の方を見ればサリド様がマリア様をエスコートしていた。
二人はとてもクラスメイトなんて雰囲気ではなく・・私はその場を離れる事も出来なかった。
気付けば会場には卒業生で埋め尽くされていた。
もうサリド様を見つける事は出来なくて、私は壇上が遠く離れた壁に背を預けながら立っていた。
そこからなら直ぐに外へ出られるから・・
( マリア様のドレス、サリド様の色だったなぁ)
私は学園長の言葉も耳に入らず、ただ先ほどの光景が頭の中をグルグル回っていた。
気持ち悪いな・・
静かに会場から外へ出ようとした時
「それでは学年主席であるサリド・ルーベント様による答辞」
会場からはザワザワと騒めきが・・
中には えっ?あの人って・・ と言う声も聞こえてくる。
そして壇上の方を見ればそこに立っていたのは
「ハンズ・・さま・・?」
だった。
卒業式が終わりそのまま卒業パーティーへ変わると、皆がそれぞれ踊り出す。
私は今だにハンズ様の事が頭から離れず、その場に固まっていた。
アリーチェ嬢?
聞きなれた声が私の名前を呼んでいる。私はハッ!と我に帰ると目の前にはハンズ様がいた。
いや、サリド様が・・
サリド様はバツが悪そうな顔をしながら、後ろに控えている二人を紹介してくれた。
「彼が本当のハンズ・コールセン伯爵子息。そして隣にいるのは彼の婚約者でマリア・ドゥーゼル侯爵令嬢だよ」
「初めましてアリーチェ・フィット嬢。君には申し訳ない事をしたと思っています。詳しい話は彼から聞いて欲しいが・・ただこれだけは信じて欲しい!悪気は無かったんだ」
「私も先ほど聞かされたの・・その、気分悪かったわよね?」
マリア様と(本当の)ハンズ様が頭を下げた。
「悪いのは全て僕だから・・」
ごめん・・そう言って頭を下げたのは本当の婚約者だったサリド様。
サリド様は私を中庭までエスコートするとベンチに腰掛けた。
「その、怒っているよね?」
私を見ながら謝ってきたサリド様は、耳が生えていたらきっと下がっているんだろうなぁ・・と分かるほど気落ちしていた。
その姿に思わず笑ってしまい、いかんいかん!と頭を横に振る。
「私怒っているんですよ!」
「うん、そうだよね。本当にごめん」
そう言いながら更に頭を下げてしまう。
違う、こんな事が言いたいんじゃ無い!だって私は・・
「こんな事言って良いのかわかりませんが、貴方が婚約者のサリド様で良かったと思っているんです」
「えっ?怒って・・ないの?」
私の言葉に顔を上げる。
「怒ってますよ!どうして今まで会ってもくれなかったのですか?」
本当にそうだ。
本当なら学園へ入る前にもっと会いたかった。
街へ買い物へ行ったり、歌劇を観に行ったり、もっともっと婚約者として触れ合いたかった。
けれどサリド様の表情はとても暗く、きっと私と会えない理由があったんだと気付いた。
「あっ、あの、言いにくい事なら言わなくても良いですよ?これからいっぱい会ってくだされば・・」
そう言い終わる前に、私はサリド様の腕の中に包まれていた。
その腕の中はとても暖かく安心できる場所だった。
「怒らないで聞いてくれるかい?どうしてこんな事をしたのか、ちゃんと話すから」




