五
「やっぱり勘違いだったのかしら・・」
「何が?」
「!!ハンズ様!」
あの日から十日。サリド様から何か言ってくるかな?と待ち構えていたけれど、何の連絡もない。
私はドキドキしながら待ってたのに・・
そんな事を考えながら一人中庭のベンチに座っていたところに、ハンズ様から急に声をかけられてつい大きな声を出してしまった。
「真剣に花を見てるからどうしたのかな?と思って」
ハンズ様は私の顔を見ながら笑っている。
何がおかしいのかしら?と首を傾けると、とても優しい眼差しで私を見つめてきた・・
「!」
その眼差しが優し過ぎて思わず胸が締め付けられた。その感情は初めて湧き上がるもので・・サリド様に感じたものとはまた別のものだった。
(なっ何?ハンズ様のお顔が見れないわ!)
胸がドキドキして苦しい・・
「アリーチェ嬢?どうしたの?あっ!もしかして婚約者が何か言ってきた?そんなはずは・・」
「えっ?彼からは何も・・」
そうなのだ、一瞬とはいえ話題になったのに何も言ってこない・・やはり私は彼にとってお金で縛られた・・
「ハンズ様・・お聞きしたい事があります・・」
「うん、何?」
直接ご本人に聞けないなら同じ男性に聞くしかない!
「もしハンズ様なら婚約者が他の男性と噂になったらどうですか?その、お相手の事を何とも思っていなくても・・」
聞いてしまった。
でも無言を貫いている理由があるのなら、私は知りたい。そう思って事でハンズ様に聞いてみたが・・
「あっ、ああ・・そうだね。婚約者に気持ちがあれば勿論良い気では無いかな。もし、気持ちが無いとしても良くは・・いや、何とも思わないかも知れない」
「!そう・・ですよね・・」
サリド様が何も言って来ないのは私に関心が無いから・・
今までの事を考えればわかる事なのに、諦めきれない自分がいた。
そんな私を見てサリド様も何も言えずに、でも側で見守ってくれている。
そんな顔を見ると気持ちがグラついてしまう。
それでも私はまだ婚約している身。
変な気持ちを抱いてハンズ様に迷惑をかけてしまうわけにはいかない。
「ありがとうございます。やっぱりそうですよね、わかってた事ですけど何と言いますか・・」
「・・・」
「自分だけこんなにモヤモヤするなんて・・ずるいですよね」
頑張って笑顔を作る。
そんな私に無理して笑顔を作っているハンズ様に申し訳ない気持ちになる。
早くその場から離れようとベンチから立ちあがろうとした瞬間、ハンズ様が私の手を掴んだ。
「あの・・」
「あっ!ごめん!」
パッと手を離すと申し訳なさそうにする。
私はそんなハンズ様の気持ちが嬉しくて ありがとうございました とお礼を言い、その場から離れた。
寮に戻ると久しぶりに便箋を机の上に置いた。
モヤモヤしていても仕方ない。何も言ってこないのなら、こちらから伺えば良い。
そう思いながら数ヶ月ぶりにサリド様へ手紙を書いた。
初めて返事が来た!
私はドキドキしながらベッドに座り封筒を開けた。
便箋は一枚だけ。
(婚約は解消しようかな?僕の隣に立つ権利を失った!かな?)
ドキドキしながら便箋を広げると、そこに書かれていた言葉は
気にしない
だった。
気にしない?それは私の事を信用しているから?気にもしていないから?
どちらとも取れる言い方にまた悩む事となった・・
「私、どうしたら良いのでしょうか・・」
「「??」」
突然私が言った言葉にシシィ様とハンズ様の頭の上に?マークが付いていた。
その顔が似ていて笑いが出る。
「婚約者に手紙をだしたのです。結構勇気を出して・・でも返ってきた言葉は 気にしない でした。」
「「・・・」」
私は言ってて笑えてきてしまい、思わずフフッと声を出してしまう。
「気にしないってどっちの意味なんでしょうね」
自虐的に言った言葉が逆に二人を困らせてしまった。
私は慌てて 気にしないでください! と言ったとき
「アリーチェ嬢、来月の卒業パーティーは僕にエスコートさせてくれないか?」
「「えっ?」」
思わずシシィ様と声が被ってしまった。
卒業パーティーは学園最後のイベントで、そこで初めて婚約者同士で参加出来るのだ!が・・
「ハンズ様!いくら婚約者がいないといっても、アリーチェ様にはいらっしゃるのよ!」
私の代わりにシシィ様が叫ぶ。
「それは知っている。でも今のままではアリーチェ嬢は・・」
言いかけて黙ってしまったハンズ様。
私がサリド様と婚約を結んでいる間は、他の方のエスコートを受ける事は出来ない。
「くそっ!」
ハンズ様が舌打ちをする。
「ありがとうございます、ハンズ様。本来なら卒業パーティーに着るドレスも届いておりません。きっと・・エスコートも忘れておられるかも・・」
「だったら僕に贈らせて欲しい。エスコートは無理でも、プレゼントしたいんだ!婚約者殿が送ってきたらそちらを着ればいいから・・」
泣けそうになった。
本当にハンズ様が私の婚約者だったら良かったのに・・と。
私はハンズ様の好意を受け取る事にした。
もしサリド様から贈られたらそちらを着れば良いのだから・・
最後のテストが終わり、残るは卒業パーティー。
卒業の答辞は最後のテストで一位を取った生徒になる。これは卒業パーティーまでは明かされない。
「誰なのかしら?」
「きっと高位貴族の、公爵家あたりではないのかしら?」
「でも第二王子殿下がいらっしゃるし・・」
卒業式の答辞に選ばれた生徒は、王宮のエリート文官の道が確約する。
私たちのクラスはもうやる事はないため、学園の寮から去っていく生徒も増えている。
私の領地は遠いため、卒業した後に退寮する事にした。シシィ様は王都内に屋敷があるが私に合わせてくれている。
ちなみにシシィ様の婚約者とは上手くいったようで、卒業したら結婚式の準備に取り掛かるそうだ。
シシィ様と寮に戻ると寮母さんから荷物が届いていると言われた。
ハンズ様からはドレスと装飾品一式をプレゼントされた。
プレゼントと言うにはとても高価な物で・・思わず
「返却可能ですか!?」
と聞いてしまった程だ。もちろん答えは
「不可!」
だった。
「誰からかしら?」
「ご両親とか?」
両親は卒業パーティーの二日前には王都に来ると言っていたから・・
そう思いながら部屋に入りプレゼントの宛名を見た。
贈り主はサリド様からだった・・




